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Heavenly『Heavenly vs. Satan』|好きな音楽の記録:H for Heavenly

1980年代の後半、Talulah Gosh での無鉄砲な疾走感がひと段落した頃、彼らは少しだけ背伸びをして、より洗練されたポップソングへと歩き出したのだと思う。とはいえ、洗練されすぎてはいけないのだ。角を丸めすぎれば、あの無邪気に飛び跳ねる感覚が失われてしまうから。Heavenly はその絶妙な境界線を、奇跡のようなバランスで歩いたのだと思う。

1枚目のアルバム『Heavenly vs. Satan』には、Talulah Gosh の勢いがまだそこかしこに残っている。曲の端々で、走り出したら止まれない感が顔を出す。だが、そこに Peter Momtchiloffの(Talulah Gosh時代からは想像できない程に達者な)ギターが加わると、音楽は一気に立体的になる。彼のギターは、ただの伴奏ではない。歌と並走し、ときに追い越し、ときに寄り添い、もう一つのメロディを重ねていく。作品を重ねるごとにバンドの音楽は洗練されていくが、インディーギターポップとしての完成度という意味では、あの少しだけ粗い1枚目こそが頂点、と今でも思う。

Heavenlyを初めて生で見たのは、最初で最後の来日公演、小さな地下のライブハウスだった。天井は低く、ステージは狭く、照明も控えめ。それでも、あの夜の空気はどんな大きな会場よりも幸福感に満ちていた。「私は小さいから、後ろの人たち、私のこと見える?」と言ったAmeliaは、本当に小さくて、ちょっとお猿さんみたいで、どうしようもなくかわいらしかった。
さらに、BMX Bandits のDouglasがゲストとしてステージに登場し、カラオケで 「E102」 を歌い出したときの驚きと喜び。” I'm so happy you have come around” というフレーズがあの夜の空気そのものだったと思い出す。

Heavenly はメンバーの急逝という不幸な形で活動を終えたが、その後もAmeliaは Marine Research、Tender Trap、Catenary Wires と姿を変えながら音楽を続けてきた。金融・政策の専門家として英国の政策機関や大学で要職を務めるようになっても、” a pop celebrity” としてのAmeliaの歩みは止まらなかった。そして 2026 年、再び Heavenly を始動させるという知らせが届いた。
「Talulah Gosh」で歌われた、弱さと虚勢とささやかな自己肯定。その先の物語をAmeliaは静かに歩んでいる、僕にはそう思えるのだ。

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