イリュージョン・サーガ 【第3話】
宿屋「グリーンリーフ」の飯屋に入ったカイルとエリオスは、宿屋も決まりようやく一息ついて食事を楽しんでいた。
テーブルには香ばしい香りが漂う焼き肉や野菜の炒め物が並び、カイルはその美味しさに感嘆の声を上げていた。
「これ、うんめェぞ!エリオスも食ってみろよ!」
カイルは興奮しながらエリオスに勧め、二人は食事を楽しんでいた。
しかし、その平和なひと時はすぐに終わりを告げた。周囲の客たちが騒ぎ始め、何やら緊迫した雰囲気が漂ってきた。
「おい、聞いたか?さっき街中で子供が馬車に轢かれたらしいぞ。しかも、その馬車に乗ってたのはハーヴェイ伯爵だったってよ」
「本当か?それで、どうなったんだ?」
「子供は助かったらしいけど、その場にいた奴から聞いた話では二人の旅人が伯爵に楯突いたらしい」
「へぇ、やるじゃないか。どんな奴らなんだ?」
「一人はタンクトップ姿で男のくせにやたらと髪が長いやつで、もう一人はローブ姿だったってよ」
エリオスは男たちの会話に聞き耳を立て、騒ぎが自分たちに関係していることを悟った。
「やばいぞ、カイル。俺たちのことがもう知れ渡ってるみたいだ」
カイルは食べることに夢中で一切話を聞いていない。
「聞いているのか、カイル」
エリオスは呆れてカイルの耳を引っ張った。
「いは、いはい。なにふるんだ、へりふぉす」
耳を引っ張られながらも食べ物を口いっぱいに頬張り、食べることをやめないカイル。
その時、飯屋の入り口から一人の男が入ってきた。身長は高く、鋭い目つきをしている。
彼は店内を見渡し、カイルとエリオスを見つけるとまっすぐに歩み寄ってきた。
「お前たちか?」
男の声には冷静さと鋭さが混じり、二人の注目を引いた。が、カイルはすぐに食事を再開した。
「多分違う」
エリオスは彼が店の客のように噂を聞いて、その事を言っているのだろうと検討がついたが主語も無く何を指しているのかわからないため、自ら面倒事に関わることは極力避けたかった。
頬杖をついて、男から顔を背けぶっきらぼうに返す。
幸い、カイルは男の存在に気付いてはいるものの食事が最優先事項で食べることに夢中だ。
「俺はレオン。この街で情報屋をしている。今日の騒動の話を聞いて、お前たちに興味が湧いた。少し話がしたい」
どうやらこの男も人の話を聞かないようだ。
「だから、違うって言ってるだろ」
エリオスは男を無視して食事に戻ろうとしたが、レオンの次の言葉が彼を引き止めた。
「ガレスを倒した二人の男が、この街に向かったという情報があった。それが君たちだろう?」
その一言でエリオスの背筋がピンと張った。彼はカイルに視線を送り、警戒心を高めた。
「ええい、食べるのをやめろ、カイル!」
エリオスは再びカイルの耳を引っ張り、彼を正面に向けさせた。
「痛ってぇ!何すんだよ、エリオス!」
カイルは不満げにエリオスを見つめたが、すぐにレオンの存在に気づいた。
「誰だ?あんた」
「レオンだ。少し話がしたい着いてきてくれるか?」
カイルとエリオスは警戒しながらも、レオンの提案に応じることにした。
「いいだろう」
三人は飯屋を出て、レオンの後に続いて街を歩き始めた。
レオンは入り組んだ路地裏を通りどんどん人気のない場所へと進んでいく。
月明かりも射し込まない路地裏の一角で足を止めた。
「ひとつ聞く。セルフィア村のガレスを倒したのも、今日の騒動で子供を助けたのもお前たちか?」
「そう」
「それを聞いてどうする?」
カイルの口を塞ぎエリオスが警戒しながら尋ねた。
「その返答で俺たちの仲間になってもらうかどうか決める」
「仲間?」
エリオスは眉をひそめた。
「ああ。それで、どうなんだ?」
エリオスは夜目が効く。レオンの表現から感情を読み取ろうとするが、分からなかった。
「ガレスを倒したのは俺たちだ。だが、子供を助けたのはただの旅人の治癒師だ」
「ほう。では、なんの目的でダークヘイブンに来た?と聞いてみたが、そんなあっさり答えてくれるわけないよな」
「領主のルドルフ・バルガスをぶっ飛ばしに来た」
疑り深く考えるエリオスを他所に、あっさりとカイルが答えた。
得体の知れない相手に素直に答えるカイルにエリオスは呆気に取られ、開いた口が塞がらない。
エリオスが警戒するのも仕方ないと、彼の回答が出るまで待つつもりだったレオンもこれには唖然とした。
「お、ま、え、なぁ!勝手に答えるんじゃない」
「いたた、すぐに耳を引っ張るなよ。だってエリオスが答えるの待ってたらいつまでたっても話が進まないだろ」
エリオスはカイルの横でため息をついて手を離した。
「ぷっ、くくく」
突然の笑い声にカイルとエリオスはレオンを見た。
「いや、悪い悪い。君たちは良いコンビだなと思ってね」
素直なカイルに慎重なエリオス。
二人は性格が真逆にみえるが、互いが長所短所を補っている。
「あんた、ただの情報屋じゃないだろ?」
カイルの発言にレオンは瞠目した。飯屋では人の話を聞いていないと思っていたがしっかりと聞いていた事にも驚いたが、何より図星だったからだ。
「なぜ、そう思う?」
「ここまで来るまでのあんたの無駄のない動き。そして、尾行されてないか周囲に細心の注意を払っていただろ」
「鋭いな。俺は元バルガス家の騎士だ。バルガス家の非道に気付き、情報屋をしながら今は反バルガスとして裏で動いている」
レオンは一瞬驚きの表情を見せたが、すぐに冷静さを取り戻し、微笑みながら答えた。
「君たちを初め見た時はこんな子供がと思ったが、鬼才であるガレスを倒したのも伯爵に楯突いたのも嘘じゃないようだ」
レオンは感心しながら二人を見つめた。
「それで、仲間ってのはなんだ?」
エリオスが無愛想に問う。
「領主をぶっ飛ばす仲間さ」
レオンがニヤリと笑った。後ろの扉を開けると、内部の空間が明らかになり、淡い光が漏れてきた。
部屋には複数の蝋燭が灯され、テーブルには様々な書類や地図が広げられている。
「リーダーお帰り」
「お、そいつらか?リーダー」
「おいおい、まだガキじゃねーか」
テーブルを囲む人々がレオンを迎える声を上げた。
「こいつらは?」
「俺の仲間たちさ。現領主の圧政から人々を解放し、捕まった亜人を救うために立ち上がった同士だ」
レオンは軽く笑みを浮かべながら、エリオスの問いに答えた。
テーブルを囲む人々は、それぞれがさまざまな種族で構成されていた。
エルフの長髪の女性、獣人の雄々しい男性、そして人間の若者たちがそれぞれの役割を果たしている。
「彼らはそれぞれ専門分野を持っている。内部から情報を集めたり、反抗活動を支援したりしている。中には捕虜の解放や、更に重要な機密活動を行っている者もいる」
レオンは指し示しながら説明を続けた。
「例えば、あのエルフのリラは情報収集と潜入活動を得意としている。獣人のグラナは戦闘や物資調達に長けている。彼らと協力していけば、君たちの持つ能力も大いに活かせるだろう」
「ふむ…」とエリオスはじっと考え込みながらも、レオンとその仲間たちの本気度を感じ取った。
「どうして俺たちに声をかけたんだ?」
カイルやエリオスが増えたところで人員は十分充実している。
それどころか、今日この街に来たばかりで得体の知れない人物を仲間にする方がリスクが高い。
「君たちが持っている実力と、今までの行動が非常に重要だからさ」
とレオンは微笑んだ。
「特に、ガレスを倒し、領主と結び付きが濃い伯爵に立ち向かったことが我々にとっても大きな意味を持つ。君たちの力を借りれば、さらに強力な反抗勢力を築けると考えている」
「俺なら昨日今日現れた奴を信用も仲間にもしないけどな」
エリオスは鋭い眼差しでレオンを見つめ、冷淡に言った。
「そうなのか、エリオス!じゃあ、俺のこともまだ信用も仲間だとも思ってないのか!?」
二人は既に打ち解け合ってはいるが、出会ってまだ一日も経っていない。
カイルと出会って村の警備兵を倒し、亜人解放と領主を倒さんとしてここまでやって来たが一日の出来事があまりにも濃すぎて、今日初対面である事を忘れていた。
「カイルは少し黙っていてくれ」
カイルのことは信頼しているし、仲間だとも思い始めている。
だが、レオンにはまだ秘密がありそうで信用出来ないのだ。
慎重になり過ぎて取り越し苦労という事も有り得るが、もっと重要な何かを隠しているようなそんな漠然とした不安が拭えない。
「重要な機密活動を行っていると言っていたな。それはなんだ?」
「それは言えない。それを言うと君たちも命を狙われる可能性がある」
「ここまで連れて来て今更何言ってんだよ。内容を知ってようと知るまいと命を狙われるんならあんたに関わった時点で変わらないんじゃないか?」
レオンたちは誰かに命を狙われる程の何かを知った。
そのレオンたちの集会所に連れてこられ、レオンと関わった時点で命を狙う何者かにカイルやエリオスの存在が知られれば、レオンの仲間として命を狙われる可能性がある。
「一理あるな。……君たち、ネクロン連合って知ってるかい?」
カイルは驚いた。
カイルには聞き覚えがあったからだ。
エリオスとカイルの視線を捉えながら、言葉を続けた。
「カイルくん、君は何やら知っているようだね。ネクロン連合は5000年以上前から存在する闇の組織だ。一度は壊滅したが、今また再起し始めている」
レオンはカイルの驚いた表情を見て、さらに詳しく説明を続けた。
「ネクロン連合は、古代の魔術や禁忌の技術を駆使して暗躍してきた。彼らの目的は権力の掌握と、世界を自らの意のままに操作することだ。連合の力は単なる暴力に留まらず、陰謀や策略、または暗黒の力を駆使して支配を目指している」
カイルは耳をそばだてながら、レオンの言葉を聞き逃さないようにしていた。
「それと、カイルくんが驚いた理由は何だ?君が知っている情報と一致するのか?」
レオンの質問にカイルは思いを巡らせながら、何かを話すかどうかを考えていた。
