太平記 現代語訳 35-4 北野天満宮において、3人の論者、日本の現状について論ず
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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。
太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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吉野朝廷(よしのちょうてい)サイドの日野僧正頼意(ひののそうじょうらいい)は、密かに吉野(よしの:奈良県・吉野郡・吉野町)の山中から出て、京都にやってきた。霊験あらたかなる、あの北野天満宮(きたのてんまんぐう:上京区)の威神力(いじんりき)にすがり、自らの宿願を達成せんと願っての事であった。
今夜も、頼意は徹夜で参篭(さんろう)している。
秋は既に半ばを過ぎ去り、梢を吹き渡る風の音も、心なしか、うすら寒く聞こえてくる。有明(ありあけ)の月は、松の頂を越えて西に傾き、庭にひっそりと降りた一面の霜を、明るく照らし出している。
頼意 (内心)今夜は殊更(ことさら)に、神聖な雰囲気や・・・なにか、しみじみと、ものを思ぉてしまうわなぁ。
巻き残した経典を手に持ちながら、頼意は、灯火をかかげて壁に寄り添い、古歌を詠じつつ、庭の夜景を楽しんでいた。
頼意 (内心)あれ・・・あんなとこに、人がおるやないか・・・。
頼意 (内心)あの人らも、秋のあわれに誘われて、月を見て楽しんでるんやろか?
彼の視線の先には、神殿の欄干に寄りかかって座る、3人の姿があった。
頼意は、じっと目をこらして、彼らを見つめた。
1人目の人物を、「A」と名付けよう。
Aは、年の頃60ほどの世捨て人(注1)、その話し言葉は、関東なまりである(注2)。
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(訳者注1)原文では、「遁世者」。
(訳者注2)原文では、「坂東声」。
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盛んに、かつての鎌倉幕府(かまくらばくふ)時代の治世を、なつかしんでいるようだ。
その話の内容から察するに、Aは、かつては鎌倉幕府の中枢メンバー、すなわち、頭人(とうにん:注3)あるいは評定衆(ひょうじょうしゅう)に、名を連ねていたようである。
「あの頃の政治は、よかったなぁ」というような事を、繰り返し繰り返し、言っている。
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(訳者注3)引付衆のトップ。
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2人目の人物を、「B」と名付けよう。
Bはどうやら、今まさに、朝廷に仕える身分であるようだ。
しかしながら、「仕える」といっても、それは名目だけ、その家は貧しく、朝廷への出仕もせず、毎日、徒(いたずら)に、学窓に明かりをともして書物、それも仏典以外のものばかり読んで、心を慰めているようだ。
顔色は青白く、その態度は極めて、ものやわらかである。
3人目の人物「C」は、僧侶である。
人々からは、「ナニナニ律師(りっし)」、あるいは、「ナニナニ僧都(そうず)」などと、呼ばれているようだ。
門跡寺院(もんぜきじいん:注4)に所属し、顕教(けんぎょう)密教(みっきょう)の両真理を求めんと、一室に閉じこもってひたすら、天台宗(てんだいしゅう)の教義研究に没頭、という事らしい。
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(訳者注4)皇族や貴族を、「門跡(その寺院のトップ僧侶)」として、迎え入れている寺院。
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とても痩せており、何かしら、疲労感を漂わせている。
やがて3人は、「南無天満天神」の文字を句頭に置いての連歌を始めた。
連歌が終わった後、今度は、外国や我が国の様々な事がらについて、論じ合いはじめた。
頼意は、じっと耳を傾けた。
頼意 (内心)ほほぉ、あの3人、なかなか、鋭いとこ、突いてるやないかいな。「うーん、なるほど」と、うなずかされるような話、やたらと多いわ。
頼意 (内心)あの「朝廷に仕えてる」っちゅう人、彼は、明らかに儒学(じゅがく)の信奉者やねぇ。
人物B ・・・ようはやね、「戦争と平和」、その問題ですわ・・・。
人物B どのような戦争も、いつかは終結して、世に平和がもたらされる、それが歴史の鉄則なんやと、私は思うておりました。
人物B 歴史書をめくってみても、そうですわなぁ。古代中国・戦国時代、互いにしのぎを削ったあの「戦国の6強」も、最終的には、秦(しん)の支配に屈しました。漢(かん)の高祖(こうそ)と楚(そ)の項羽(こうう)とが70余度も戦いを繰り広げたあの時代も、8年の歳月の経過の後に、漢の天下と、定まりましたやろ。
人物B わが国においても同様。阿倍貞任(あべのさだとう)、宗任(むねとう)の乱、前九年(ぜんくねん)の役、後三年(ごさんねん)の役(えき)、源平争乱(げんぺいそうらん)の3か年、いずれも結局は、カタがつきました。他にも、争乱はいろいろとはあったけど、どれもこれも、せいぜい2年以内にはカタがついて、平和が到来しました。
人物B ところが、今回のこの争乱だけは、まったく例外や。元弘(げんこう)年間の鎌倉幕府滅亡以来このかた、天下は乱れに乱れて30余年、たった一日として、静かに送れた事はない。
人物B もしかして、この戦乱はエンドレス(end less)なんやろか、いつになっても終結する時は来ぃひんのんと、ちゃうかいなぁと・・・いったいぜんたい、なんで世の中、こないな事になってしもたんでっしゃろなぁ? どない思わはりますぅ?
人物A (数回、念珠を高らかにすり鳴らす)
人物Aの念珠 ジュラジュラジュラ・・・。
人物A (憚る事なく明瞭に)そりゃぁなぁ、あんたぁ、世の中、治(おさ)まんねぇには、治(おさ)まんねぇだけのワケ(道理)ってもんが、あるってことよぉ。
人物A あんたはさぁ、外国や我が国の歴史ってもんを、よくよくご存じのようだから、こんな事あらたまって言う必要、ねぇのかも・・・でも、この際、一言、言わせてもらうよ。
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