太平記 現代語訳 38-1 京都において、異変続々
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この現代語訳は、原文に忠実なものではありません。様々な脚色等が施されています。
太平記に記述されている事は、史実であるのかどうか、よく分かりません。太平記に書かれていることを、綿密な検証を経ることなく、史実であると考えるのは、危険な行為であろうと思われます。
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京都朝年号・康安(こうあん)2年(1362)2月、京都の空に、彗星と新星(注1)が同時に現れ、大騒ぎになった。
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(訳者注1)原文では、「客星」。
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さっそく、天文博士(てんもんのはかせ:注2)たちが御所へ召され、その吉凶を占った。
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(訳者注2)陰陽寮に所属しており、天体観測の結果よりその吉凶を判断し、天皇に報告する、というのが、その仕事であった。
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結果報告は以下の通り。
天文博士A そもそも、新星っちゅうもんは、用明天皇(ようめいてんのう)の御代、かの物部守屋(もののべのもりや)が仏法を亡ぼさんとした時に、初めて我が国の夜空に現われました。それ以来、現在に至るまで計14回、出現しとります。
天文博士B その14回の出現と、その後の世相の良否との間の相関関係をつぶさに検討してみまするに、14回中、2回は祥瑞(しょうずい)、残り12回は大凶(だいきょう)という結果でありますからして、12/14=85.7%の確率でもって、[客星の出現は凶」である、と結論づける事ができうるかと。
天文博士C 一方、彗星に関しましては、これが初めて我が国の空に出現したんは、皇極天皇(こうぎょくてんのう)の御代、かの蘇我蝦夷(そがのえみし)の子・入鹿(いるか)が乱を起し、中大兄皇子(なかのおおえのおうじ)様、藤原鎌足(ふじわらのかまたり)殿と合戦に及んだ、という時です。(注3)
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(訳者注3)太平記作者の誤りである。中大兄皇子、藤原鎌足が、蘇我入鹿のフイを襲い、彼を殺害した、というべきであろう。
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天文博士D 以来、現在に至るまでのその出現回数は、なんと86回にも及んでおります。その中、ただの1度として、災難が起こらなんだという事はございません。従いまして、86/86=100.0%の確率でもって、[彗星の出現は凶」という事になりますわいな。
天文博士A よって、今後、世の中に悪い事が起こる確率が極めて高いと、言えましょう。
天文博士一同 そうだす、ほんま、こら、えらいこってすよ。厳重なる天下のおん慎みが必要だっせ!
これを聞いた閣僚たちは皆、色を失ってしまった。
京都朝廷・閣僚E またまた、なんちゅう事を・・・。
閣僚F ハァー(ため息)・・・ただでさえ、こないな乱れた世の中やっちゅうのに、まだこの上、災難がやってきよるんかいなぁ!
閣僚G えらいこっちゃ、えらいこっちゃ、いったい何が起こるんやろうか。
閣僚H 世界中が、大地のドン底、金輪際(こんりんざい)の底へ、落ちこんでしまうん、ちゃいますやろか?
閣僚I あるいは、またまた外国からの侵入かもしれませんな。モンゴル帝国がまた攻めてきよってからに、日本全土を完全占領してしまいよるんかも。
閣僚E ほんまになぁ・・・そないな事がいつ起こっても、不思議とも何とも思えんような、昨今の世の中の状況やからなぁ。
まさに、天、地、人の三災が、一度に起こり来ったようである。
昨年の7月からは、地震続き。それも毎日、2度3度と揺れるのだから、もうたまったものではない。
更には、今年の6月から11月の初めまでの、この旱魃(かんばつ)続き。五穀(ごごく)は実らず、草木も枯れ萎(しぼ)み、鳥はねぐらを失い、魚は泥中にあえぐ。人民の餓死は、日本中至る所、無数である。
琵琶湖(びわこ)の水位も、3丈6尺も下がってしまった。その結果、これまで湖底に隠れていた様々の不思議な物体が、水面上に姿を現した。
まずは、白髭明神(しらひげみょうじん:滋賀県・高島市)沖に出現した、例の「巨大橋」。
人間二人でもってやっと抱えられる程の太い桧の柱が、1丈8尺間隔でずらっと並んで、橋脚を構成している、というのだから、それはすごいものである。しかも、その全長は2町余りもある、というのだ。
見物の人J あないな橋、昔からの言い伝えにも、聞いた事もないわなぁ。古文書にも書かれてへんしなぁ。
見物の人K あれはきっとな、龍宮城の道やでぇ。
日に日に、見物人の数は増えるばかりである。
更に、竹生島(ちくぶしま)から蓑浦(みのうら:滋賀県・米原市)に至る、「舗装された一本道」が、湖底から現れた。瑪瑙(めのう)のような切り石が、広さ2丈、全長3里に渡って、平らに並べ敷かれているのである。
「これはきっと、龍神の通り道やろう」と、人々はおそれつつしみ、それを踏んで渡ろうとする者は、誰もいなかった。しかし、「渡ってはいかんけども、見るだけならえぇやろう」という事で、近くに船を浮かべ、見物する多くの人で、その周辺は市のごとく、大いににぎわった。
見物の人L いやぁ、こらほんまに、すごいもんやねぇ。
見物の人M いや、ほんまにもう。
見物の人々一同 いやぁ、ほんまに、すごい、すごい・・・。
見物の人N いやぁ、よかったぁ! ほんと、来てよかったぁ! おいら、もう死んでもいいーーぃ!
見物の人L あんさん、そこまで言わはりますかぁ。
見物の人N いやねぇ、人のうわさにね、この瑪瑙の道の事、聞きましてねぇ、どうしても、見たくってたまんなくなってぇ、はるばる関東からやってきたんですよぉ。いやぁ、でも、ほんと、来てよかった!
見物の人O あんさん、「二河白道(にがびゃくどう)(注4)」っちゅう言葉、聞かはった事おまっか?
見物の人N あぁ、聞いたことありますよ、えぇっとぉ、たしか、極楽浄土への道のことでしたっけ?
見物の人O そうだす。あの道、「二河白道」もかくや、と思わせるような、ほんまに壮麗な道や、思わはらしません?
見物の人々一同 なるほど、「二河白道」ですかぁ。
見物の人N フーン、「二河白道」ねぇ・・・ハァー(ため息)・・・さぁ、これでもう、おいら、何も思い残すこたぁ、ねえやなぁ。「二河白道」を今日、この眼でしっかり見ちゃったんだもん、これで、おいら、極楽浄土行き、間違いなしって事ですよぉ!
見物の人々一同 ハハハハ・・・。
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(訳者注4)「仏教辞典・大文館書店刊」には次のようにある、
「信心守護の比喩。衆生の貪欲と瞋恚を水火の二河に、白道を極楽往生を願う真実清浄心に喩えて西方極楽浄土に往生する者の入信より往生に到るまでの径路喩説せるもの。」
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見物の人P 昔話にな、白髭明神はんが大宮権現(おおみやごんげん)はんに、「わたいはこれまでに7回、この湖が一面の桑原に変わったのを、見てきました」てなこと、言わはったんやそうや。
見物の人Q いやいや、こんなミョーな事が続きますとね、昔話が現実の話にもなりかねませんよ。このままのペースで水位が低下していっちゃったら、この広い琵琶湖だって、そのうち干上がってしまうかも・・・それこそ、一面の桑原になってしまいますよねぇ。
見物の人一同 ほんまになぁ・・・。
見物の人R 天も地も、災いだらけですよ。
見物の人S いや、ほんまにもう、天には、彗星に新星、地には、地震に旱魃。
見物の人L 天、地、ときたら、次は、人どすえぇー。
見物の人S ほんまやねぇ。この先いったい、どないな「人災」が起こるもんやら。
世間の声一同 いや、ほんまになぁ。
はたして、人災は来った。諸国から毎日のように、早馬が京都へ殺到してくる。
急使T 吉野朝側勢力、蜂起!
急使U 吉野朝側勢力、蜂起!
急使V 吉野朝側勢力、蜂起!
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