「今夜、秘密のキッチンで」疲れ果てた女性と死んだはずのシェフとの語らいのドラマ
原作は黒沢明世と共同テレビのコミックが同時進行する形で展開されるとのことだが、「LOVED ONE」においても同様の手法が採られたように、フジテレビ(CX)は新たなドラマ制作の形式を模索しているようである。その試みがいかなる成果をもたらすかは、完成した作品そのものが証明するということになろう。
木南晴夏が主演を務めている。着実に演技派としての評価を確立しつつある彼女ではあるが、今作における主演という役割はやや重荷になりうるのではないかという懸念も否めない。彼女が演じるのは元女優であり、実業家である夫の玉の輿に乗ったかに見えたものの、現実は厳しく、「恥ずかしいことをするな」と夫・中村俊介から叱責される日々を送っている。加えて、娘との関係もうまく構築できておらず、娘の内向的な性格もあいまって、家庭は閉塞した空気に包まれている。ドラマ冒頭からこの木南の陰鬱な日常が描かれることで、視聴継続を躊躇した視聴者も少なくないのではないか。
また、冒頭において山岳を登る高杉真空が登場する。彼はもう一人の重要な人物として位置づけられているのだが、その後の登場シーンはやや唐突な印象を受ける。疲労困憊した木南がキッチンで倒れた場面に高杉が突如現れるという描写はファンタジー的な演出として機能しているが、終盤になって初めて、彼がすでに故人であることが明かされる構造となっており、本作の性質がようやく理解される。
そして、彼が現実には存在しない人物であることが示されたところでメインタイトルが挿入される。すなわち本作は、現実には存在しない高杉の介在によって、木南の人生が再び動き始めるという物語と解釈できる。さらに、高杉が手がける料理もまた、作品のもう一つの「主役」として機能しているように見受けられる。かねてより指摘してきたように、料理が視覚的に豊かに描かれるドラマは、傑作となる可能性を内包している。そのような印象を抱きながら第一回を視聴した。
木南を取り巻く人物群も、冒頭から顔見せ程度の登場を果たしている。友人役の佐津川愛美・月城かなと、隣人格として白本彩奈・安井順平、料理研究家役の瀧本美織、そして中村の母親役として筒井真理子らが名を連ねる。いずれも一癖ある人物像を持つキャストが揃っているが、本作がファンタジーなのかサスペンスなのかという方向性は、第一回時点ではいまだ判然としない。しかしながら、多彩な人間関係とその複雑さは、豊かなドラマの「素材」としてはなかなかに興味深い。
終盤、高杉は「レシピ(recipe)」という語に「処方箋」という原義があることを言及する。現代の人間関係に疲弊した人々に対する一種の処方箋として本作が機能するならば、それは作品として意義深い試みとなろう。
また劇中では、「食事は明日の命への贈り物」という言葉も語られる。至言であると感じる。そしてドラマという表現形式もまた、明日を生きる私たちへの贈り物となり得るのならば、本作は真に優れたドラマとなる可能性を秘めているのではないだろうか。
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