「今夜、秘密のキッチンで(第9話)」二人の愛が未来が成就しようとする時、現実が邪魔をする
鎌倉の海を背景に、木南晴夏と高杉真宙は現在および将来の関係性について思索を深める。一方、中村俊介は二人の関係を断じて容認できず、木南を自宅に監禁し、さらにそのスマートフォンを破壊するという行為に及ぶ。現代においてスマートフォンは個人の身体的延長とも言いうるデバイスであり、その破壊行為は、相手の人格そのものを否定する象徴的暴力として解釈できよう。
また、高杉との関係が露見することで、中村が行ってきた食品産地偽装の実態もそのルートを通じて明らかになる可能性が示唆されている。高杉がその経緯をどこまで認識しているかは、本作においてなお曖昧なまま留め置かれている。
さらに、月城かなとというキャラクターを介して、佐津川愛美と中村との不倫関係、そして新店舗のシェフ・YUから産地偽装の証拠が入手されるという展開が交差する。この流れにより、中村が法的あるいは社会的に追い詰められる局面もあり得るだろう。
ただし、成仏しなかった安井順平の霊が木南を鎌倉へ導くという展開は、物語装置としていささかご都合主義の感が否めない。インターネット情報を介さずして得られる知識を、幽霊が代替するという設定は、論理的に整合するとは言い難いにもかかわらず、不思議と視聴者の腑に落ちるのは、本作のファンタジー的文脈が巧みに機能しているからだと考えられる。
一方、もう一人の当事者として看過できないのが、高杉の婚約者・瀧本美織の存在である。彼女は、高杉が霊体となって眠っている間に他の女性と関係を深めていたという事実を言語として受け取ることになる。客観的に見れば到底信じがたい話であり、愛した男性が死後に他の女性と結ばれていたという事実は、いかに情状を斟酌しても屈辱以外の何物でもない。
ここで改めて確認しておくべきは、本作が本質的にはファンタジー作品であるという点だ。幻想的要素が丁寧に描かれているからこそ物語として成立しているのであり、それをリアリズムの文脈に接続しようとした途端、構造的な無理が生じる。現時点において、幽霊にまつわる経緯を知る人物は瀧本のみである。彼女がその事実を周囲に開示したとしても、誰も信じないであろうことを内面で処理させることは困難であり、物語としての消化に課題を残している。それゆえ、中村から「共闘」を持ちかけられた際も、瀧本はその次元の話ではないと感じ取ったであろうが、その感情をどう昇華させるかという道筋は未だ示されていない。
物語はいよいよクライマックスへと向かう。しかし通常のドラマと異なり、登場人物たちの明確な意志や欲望が見えにくい。二人が構想する「ミールキット」事業は実現可能性があるように映るが、産地偽装問題によって中村が業界から退場させられたとしても、それが二人の幸福へと直結するようには描かれていない。また、瀧本の納得という問題も未解決のまま残る。着地点をいかに設定するかは、まさに脚本家の手腕が問われるところであろう。個人的な感想を付言するならば、少なくとも木南晴夏には、物語の結末において幸福な表情でいてほしいと願わずにはいられない。

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