雑記|キッチン前奏曲
大変だ大変だと、9歳の長女がキッチンにドタドタと入ってきた。私はちょうど夕食の支度中だった。
「ママ、最近、勝手に歌っちゃうの」
どうやら、いま流行りの KPop Demon Hunters の挿入歌を、無意識に口ずさんでしまうという趣旨の悩みを力説していた。歌うつもりなんてないのに、気づいたら歌っているという。
クラスの誰かが口ずさむのを耳にしたり、あるいは何かの拍子に、再生ボタンが押されてしまう。歌いたくないのに歌っている。学校でも、廊下でも、道を歩いていても──止まらない自動再生。「怖いんだけど!」と本人は真剣だった。
たわいもな……と思うところだが、長女は私を笑わせたくて言っているわけではなさそうだった。そうか、小学生頃の悩みって、こういう感じだったっけ。忘れちゃったよ、そんなこと。
それにしても、わざわざ狭いキッチンに入ってきて、そこそこの声量で力説する。そこにナンダドウシタと次女まで入ってきて、保育園でナントカチャンがダレダレとナンダカンダしたとか、負けない声量でかぶせてくる。私はキッチンの袋小路に追い込まれて身動きが取れない。う、うるせ・・じゃなくて、ええい、お静かになさい。シッ!
しかし、なるほど。意思と行動が噛み合わないか・・。歌うつもりはないのに、どこからか聞こえてくるとつられて歌ってしまうという長女の悩み。
そうか…これはまずいね。深刻だね。こういうのを……「感染唱(かんせんしょう)」とでも、呼ぶのだろうか。
感染唱…。
──どうです? 山田くん、座布団持ってきて。
・・で、この感染唱、実は我が家にも伝染が始まっている。長女が歌えば、次女がハモり出す。音程は少し外れているけれど、気持ちは誰よりノリノリ。振り付けまでつけている。そして気づけば私も、合いの手「はっ!」担当。
夕食前のキッチン「袋小路」が、ちょっとしたライブ会場になっている。ちなみに、私は KPop Demon Hunters を観たことがない。長女と次女が観ているのが、ちょっと耳に入っただけ。
この作品、3人のK-POPガールズグループが悪霊ハンターになるという設定のNetflixオリジナル映画。歌って踊りながら、悪霊をバッサバッサと薙ぎ倒していく、多分。(観てはいない。)
それにしても、映像を観ていない私まで歌わせるこの感染力。世界的ヒットの理由を、身をもって実感している。
ただ、どういうわけか夫には感染しない。ワクチンでも打ったんだろうか。
そういえば、インフルエンザワクチンは今年も迷っているうちに、木枯らしが吹き始めてしまった。まだ間に合うのか。あるいは、今頃医者に行って呆れられるのも恥ずかしい。
でも「感染唱」に関しては、ワクチンを打たない方が面白い気もしている。だから今日も、夕食前のキッチンはやっぱりうるさ・・賑やかだった。
「は!」以外も担当させてほしいけど…。
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