雑記|ヴォルデモートの杖を返品したい
もうすぐハロウィン。9歳の長女の仮装は、もちろんハリー・ポッター一択だった。夢中で読んだ大好きな物語の主人公を、全身で演じる日が近づいている。
変身のための衣装は、現代の魔法──ネット通販で調達してしまった。マントも杖も、翌日には届く。魔法界とマグル(非魔法族)の世界は、自由貿易で共存共栄している。
グリフィンドールのマントは、値段のわりになかなかの質感。ただ、一つだけ大問題が起きた。
「ママこれ、ヴォルデモートの杖──。」
Amazonの包み紙を開けた瞬間、長女が即座に杖を見分けたことに、私は思わず感心した。
確かに、「ハリー・ポッター マント 杖 グリフィンドール」で検索して出てきた衣装セットを購入した。説明には「グリフィンドールの紋章入りマント」としか書かれておらず、杖の指定はなかった。だがまさか、名前を口にするのもはばかられる闇の魔法使いの杖が来るとは。オリバンダー(ダイアゴン横丁の杖職人)もびっくりである。
正直なところ、私にはそれが誰の杖かなど見分けがつかない。というか、見分けようという発想すらなかった。はっきり言って、誰も気にしないのでは──と思う。
しかし長女にとっては、ハリーになるつもりが、うっかりヴォルデモートになってしまうなど、想像を絶する大事件。自由貿易はあっても、「例の人」に関しては表現の自由も職業選択の自由も存在しない。魔法界の倫理観は、親の想像をはるかに超えているのだ。
「名前を言ってはいけないあの人」の杖を手にした長女は渋い顔をしながら、こんなの友達に見せられないやら、ハリーの杖をもう一回買いに行きたいやら不平を唱えていた。
しかしそのうち、杖を振り回すと危ないとか、宿題してから本(ハリー・ポッター2周目)を読みなさいなどと私が注意するたび、聞こえるか聞こえないかのヒソヒソ声で何やら呪文を唱え始めた。──こいつ。まさか、私に魔法をかけようとしている!?
こうしてあっさりと闇の魔法の使い手となった長女は、もう「例のあの人」の杖を返品したいとも言わなくなった。
闇堕ちというのは案外簡単だから、本当に気をつけた方がいい。
デンソージオ!!!(前歯がリスのようになる呪文。)
どろん。(おしまいの呪文)
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