東京タワーはどこですか?
その日は残業を終え,帰宅の途に就いたのは深夜2時頃であった。
喫煙室で一服し,他にも作業に当たっている社員に挨拶をしてエレベーターに乗る。
季節は秋,オフィスを出たときにひんやりとした夜気に包まれた。
会社を出てすぐの大きな交差点でタクシーが来るのを待っているとき,どこからか視線を感じた。
タクシーを待ちつつ,視線の主を探ると,少し先に白っぽい人影が見えた。
あたりにはほかに人影はない。
なんとなく違和感を感じて警戒しつつ,遠くからタクシーがやってくるのを見つけ,手を挙げる。
先ほどの人に再び視線を向けると,こちらをまっすぐみつめたまま,ずいずいと近づいてくるのが見て取れた。
警戒しつつ,そちらに視線を向けていると,早足が駆け足になり,
遠くから
ぺたん,ぺたん,ぺたぺたぺたぺたぺたぺた
という音を響かせてこちらに向かってくる。
少し近づいてきたとき,違和感の正体に気付いた。
その男性は病院から抜け出してきたのか
茶色のゴムスリッパにパジャマ,ローブを身に着けていた。
そしてこちらを見据えて何かを叫んでいる。
交差点を隔てたあたりまでその男が来たとき,ようやく何を言っているかが聞き取れた
「とうきょうたわーは,どこですかー!!!
とうきょう,とうきょうたわー!!!!!」
こちらを凝視し,必死な様子で叫ぶが,信号が赤に変わり,横断歩道の前でその男は足をとめた。
待ちわびたタクシーが目の前に到着する。
信号がかわるとともに男がこちらに駆け出してきたため,急いでタクシーに乗り込み扉を閉めてもらう。
運転手さんに行先を告げた時,とても無念そうな顔をした男がタクシーの窓越しに見えた。
出発した車のなかでおびえながら男の様子をうかがうと
男はそのまま踵をかえし,来た道のほうにペタペタと戻っていっていた。
その後,東京タワーはみつかったのだろうか?
