song #10
眠りこけた老人の膝から本が落ちかける
書店カバーの背には手書きでタイトル
ふと覚めた指が ページに続きを探し当てる
確かこれが終電だった筈だ 昼下がり
もう誰も何処へも行かない そうだ
もう社会は終わります キャスターは言った
忘れたい昨日 しがみつく今日 投資した明日
嘘だと思ってるんですか
じゃあね社会が終わらなかったらヤバいこと言います
うちの奥さんね 自分の母親を殺したんですよ
金ない親で厄介だから 死ぬの分かってて見捨てた
「行かないで」って泣いている母親を ポイッと
けして悪い義母じゃなかったですよ とてもいい人でした
その日に世界は終わったと分かりました私
だからあの電車に
そうかカバーを付けたままカラーボックスに並べるから
外から分かるようにタイトルを手書きで
病院に行く予定と布団以外に何もないその部屋
あなたも降りなかったんだね まあそうだよね
全部見たよな 飽き飽きだよな 外は暑いしね
あのキャスターも昨日この電車に乗ったらしいですよ
腕にギプスをはめた女子高生が帰りたいと泣き始める
たくさん人がいるんだからそんな風に泣いちゃダメだよ
この電車にはおうちがある人は乗ってないよ
君もご家族いないでしょ そこから逃げて来たでしょ
実をつけない桜と ほら猫もいる
要らないものを運ぶ それがこの電車だよ
手、握ってていいよ
遠い遠い誰も知らない終点に着いたら
あの送風口からガスが出てみんなで眠るんだって
それが起きてた頃より悲しいのかどうか だけ
おじさん 知りたい
