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少年少女をやめた夏。

 「昨今はすぐ炎上するから」と一度でも言っちゃったことがある人は、昔のCMを思い出して落ち着くといいよね。

 桃井かおりさんが「世の中バカが多くて疲れません?」って言うんだけど「客にバカとは何だ」とエーザイ製薬にクレームの手紙が来て放送中止に。いやバカじゃん。35年前の話だ。

 このCMは強烈だったのでご記憶にある方も多いと思うのだが、すぐ別バージョンに切り替わったところまで覚えておられるだろうか。

 桃井かおりさんが「世の中、お利口が多くて疲れません?」と言う。しかしこちらはクレームが来なかったようなのだ。衝撃の事実。「同じことを言われているのに」彼らには分からなかったのだ。いいか一発目より辛辣に(今度こそは狙い撃ちで)バカ扱いされているんだぞ。気づけよ。それに比べてエーザイ製薬の辣腕ぶりよ。しめしめ、と思ったのではないだろうか。

 当時このCM騒動について分析していた方がいた。失礼ながら何に掲載されていたのかもどなたの文章だったかも失念したのだが、その通りだと思ったのでポイントは覚えている。それは次のようなものであった。

「そうそうバカが多くて疲れるよねえ」と笑っている者も、皆がバカなのである。桃井かおりもバカなのだといえる。そこに可笑しみがある。このことは、きっと起用したタレントが山瀬まみであれば分かりやすかったのだ。桃井かおりは「賢くも見えてしまう」から、バカの反感を買ったのである。

 文中の山瀬まみさんは、今でいうおバカキャラに例えられるようなタレントだった。知性的な売り出し方はしていなかったというだけの意味で、方法論的に「おバカキャラ売り」が定着していたわけではない。どちらかというと、若い女性タレントは誰もがジジイ共から「バカ扱い」されるのが常道だったのだ。自分じゃてめえの食うメシひとつ作れない男たちが「今時の若い女は料理もできない」とバカにする番組が流れる、それがテレビだった。


 このCMを考えるとき、あわせて思い出すのは「新潮文庫の100冊」キャンペーンのコピー(1985年)だ。小林薫さんが麦わら帽子を被って立っている絵で「インテリげんちゃんの、夏休み。」とある。知識階級を指す「インテリゲンチャ」をもじっているところがポイントだ。ここで小林薫さんは決して分かりやすくインテリ然としていない。本を読む人を少し小馬鹿にするような空気あってと思わせる、仲間内で「げんちゃんはインテリだからなあ」と軽侮を交えて言われていそうな風情でいる。そこに幾ばくかの哀切まで感じさせ、その全てがよかったのだと思う。

 しかしこの「よかった」は「広告としてこちらが正解だった」という意味ではない。桃井かおりのCMも「よかった」のである。むしろバカに刺さるほど喉元に刃を当てたという意味では「チョコラBBドリンク」(1991)の方が成功していたかもしれない。ふたつの広告は同じように「階級」を分けてみせるようでいて、一方は「叩かれなかった」のはなぜだろう。「インテリげんちゃん」の1985年、既に「インテリ」は遺物であり、時代が目指すものではなかった。「インテリ」が日本人を批判して「軽佻浮薄」と断じた時代からも離れて、浮かれた人々が溢れていた。放送時期は6年しか離れていないのだが、ちょうど間にバブル景気がある。1991年には既に人々が余裕を失くし始めていたのかもしれない。


 しかし良かったな、「新潮文庫の100冊」。

十年後の夏、また泣いた。

イメージキャラクター:宮沢りえ(1992)

少年少女をやめた夏。

イメージキャラクター:陣内孝則(1989)

 毎年、今年のコピーはどんなだろう、と心待ちにしていた頃があったのだ。特に「少年少女をやめた夏。」は、衝撃どころではなかった。あの時代を思い返して「よかった」ことなど何ひとつ思い浮かばないが、16歳であのコピーに出会えたのは幸運だったと感じる。

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