rude, rough, loser.
「似合う人間になればいいんだ」。
姿見の、仕立て上がったスーツを着た自分に「派手だな!」と呟いたら、採寸に一度もメジャーを使わなかったテーラーが、そう言った。似合う人間になればいいんだと。いや似合うのは分かってる、生地を選んだのおれだよ。2.7cm幅のストライプ柄は他にもあるけど、カノニコならベースとストライプを同系色にするだろう。ビエレッシは穏健であろうとしてない。そこが気に入った。艶もドレープを楽しみたい自分には嬉しい。裏地、黒にって言ったっけ? 忘れた。仕立て屋の好みかもしれない。ま、おれも好きだけど。
人生に理念があって、揺らごうとしない。
理解されようなんてしてない。ましてや共感など。頭は撫でさせない。
無作法で粗野な負け犬のまま、街のノイズとして生きる。
だって求めるのは人権だ。土下座して押し頂くものじゃねえんだ。
おれは本来の顔のまま、無条件で権利を与えられなければならない。
この瀬戸際でお前が頭など下げたら、後に続く者のためにならないんだ。
規格に合わせるな、愛想笑いするな、背筋は伸びているか?
活動家としてそれでいいのかは分からない。「弱者」としても。
だが、講師としては絶対に自分が正しい。
おれはゲイである以前に彼女たちのトレーナーでありメンターだ。
他人様の娘だが、社会に頭なんか下げさせない。
ドゥエボットーニの襟を更に5mm 高く注文したシャツを合わせる。ドレイクスのタイ要らねえや。ふたつくらいボタンを外せば、俯いた時に顔が襟に埋まる――そんな瞬間がセクシーだと思っているわけだ。服を選ぶなら、どうしたら男が色っぽく見えるかしか考えない。ダブルブレストのスーツは初めて作ったしソフトスーツもそうだが(バブルなんて経験してない)、着こなしてやる。「服が似合わない」なんてない。
「おれは講師で、これは衣装なんだ」と何度も説明して仕立ててもらったスーツ。そろそろ出番と行こう。これで講義の日のスタイルが決まった。
さてと。似合う顔になるまでどれくらいかかる?
……電車に乗っている間の、一時間。それで充分だ。
去年だったか、一昨年だったか。
知り合った教育者から、面と向かって「あなたたちはマイノリティと言うべきじゃない」と言われたことがある。こっちが出版もしてる非常勤講師だと知らない相手からだった。残念なことにおれはあまり頭が切れる人物には見えないから、たまにナメた態度を取られる——いや、ちがうな。おれがゲイだと知った途端ナメて来る奴がいるんだ。ヒトの心は進歩などしてない。
(そんな子ども騙しな言葉で黙らせられるとでも思ってんのか?)
あんた、本当はゲイ嫌いだろ。トランス女性なんか大嫌いだろ。さっきまでの笑顔が消えちゃってるけど大丈夫? こっちはゆったりした笑顔のまま、なぜ被抑圧にある人々がその属性で立たなければならないか、きっちり「異見」表明することで応えた。「あなたの発言は教育者としても女性という被抑圧者としても認めがたく差別的です」なんて言い募る必要はない。黙らねえぞと示すだけでいい。性的少数者はもう、レクチャーめかしたマウントなんか聞かねえんだよ。おれはその中でも聞く耳をもたないタイプだ。
おれが誰と名乗るべきじゃないって? 好きに名乗らせろよ。
でも一人になれば、髄まで孤独が沁みて来る。吼えたくなる。
「似合う男になればいい」、か。
あれって無口な仕立て屋からのエールだよな。
期待しといてよ。誰よりカッコよく着てやるからさ。
「同性婚法制化への後押しを最高裁に求める」署名運動に、ぜひ。
6月7日(締め切り日)まで貼って呼びかけます。よろしくお願い致します。
記事をご紹介いただきました
たよろよろ図書館DATABASE 様、ありがとうございます。
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