ODAWARA+HAKONE=ROMANCE
6月15日(日)。なぜ私は昼ビールをキメているのか。どこで誰と? 物語は27時間前に始まっていた。
バスタ新宿の「NEWoMan」ってさ
「何て読むの? ニューおマン?」
2025年6月14日(土)08:00 a.m.、私は待ち合わせの相手にショートメールを送った。朝っぱらからウザいんである。しかし山ちゃんは動じない。「ニューマンです。着きました。インフォ前にいます」――さすがである。
これから小田急ロマンスカーで小田原に行こうというのである、のだが。
思い出に間にあいたくて
待ち合わせの時間が早すぎてホームで一本前のを見送った。乗客の皆さんはこれから始まる旅への期待に満ちた顔をしているが、次のに乗る人がそれをホームで眺める必要はあるだろうか。「それぞれの人生を見送るんです。ロマンスです」と山ちゃんは言う。
「息を切らせば飛び乗れたのにもうあきらめてたの?」
「『思い出に間にあいたくて』。実はあれ再現できるの品川だけで、」
「えっ新宿でもどこでも10番線以上ホームがある駅なら可能なのでは?」
「それがですね……」
ロマンスが再現される条件についての説明が続く。
そしてふたりともロマンスカーを撮影し忘れる。いいのそれもロマンス。

「これは創業1974年札幌は千秋庵の生ノースマンではありませぬか!」
「いかにも、新千歳空港にて買い求めた由緒正しき品にござります」
「さてもありがたき幸せ(こっち手ぶらなのに)。そしてなんと……これは美味……バターの香り高きパイ生地に贅沢なホイップのどこまでも優しい甘み、そして決して前に出過ぎないが全てを抱きとめまとめあげる餡の……山ちゃん殿も召し上がられてはいかがですかな?」
「俺くえないから」
「なんでやねん」
車窓から「東京」が消えて行く。誰もが恋し、誰もがフラれる街が。
ああ幸せだなあ。旅が始まるんだ。
「あっ川。ブラピみたいな釣り人いる!」
「ブラピみたいな?」
「『リバー・ランズ・スルー・イット』の」(※おれ観てません)
「ロマンスですね!」
「あっ山! あっホラ田んぼ! すごいねえ」
「……」(←典型的な道民の反応)
「あ響いてない。今さあ『この程度で東京モンが』って思ってるでしょ」
「www」
全部お任せの同行者ってどうよ
しかし今回の旅程について、私は全く関知してない。関われなかった。ホテルやチケットの手配、企画そのものを、全部山ちゃんに丸投げ。我ながらひどいと思う。「小田原? 行ったことない。いいねー」くらいなもん。数日前に「レンタカー借りよっか」と言ったのが唯一の提案らしい提案。
「どこ行くんでしたっけ」
「箱根の、大涌谷に行ってみませんか」
「あ聞いたことある。でもどんなんだっけ」
「火山の火口が見学できるんですよ」(※実際はもっと詳細な説明)
「なんでそんな地獄みてえなトコ行くのwww」
私ならこんな、ほぼ「アジフライ」しか言わない同行者ひっぱたきたい。山ちゃんの日記を読んでて、いつも「この人には周囲の人がそれが当たり前に許されるようにカン違いして寄りかかるだろうなあ」と思うのに、正に自分がそれをやってしまってるんである。
よくないよね。全然ナイスじゃない。
レンタカー(トヨタVOXY)で出かけよう
ともあれ先ず見るなら海だろってことで、潮の香りにいざなわれ。


ここはお食事処でもあって、ここで食べてもよかったんだけど、何せ混んでてめげた。まあエンジンかけてさ、風の向くまま行こうじゃないか。
国道1号をひたすらに
「国道1号ですよ!」
「???」(←ピンとこないおれ)
「最初にできた国道です。ロマンス!」
「うおおおおおおおおおすっげえええええええええ!」
「これ作るのに絶対何人も死んでますよね……」
「ありがたいっすよねえ……」
「レンタカー屋やさぐれてたけど!」
「あそこのエネオスの店員もやさぐれてっけど!」
「「最高!」」
(間)
「しかし混んでますねえ」
「混んでますよねえ……」
余談。ちなみに私にとって「国道」と言えば6号なのだが。国道6号愛は今も胸に。Tシャツ買おうかな。このサイト茨城王は茨城愛に満ちていて大好きだ。余談おわり。
渋滞。なるがままよ。
大涌谷への入場は17時まで。問題は、この渋滞がどこまで続いているか、だ。「10時の方向になんか道あっけど」「しかし誰も行かないのはトラップなのでは」「いやコイツら所詮トーシロだろ東京辺りからチャラチャラ温泉求めて来やがってただれた不倫カップルが」「行ってみちゃう?」みたいな会話をして、「ええい(なるが)ままよ」とハンドルを切る。
「ああこれバイパスですねえ」
バイパス大好き。もうね名前がいい。「バイパス」、その甘美な響き。人生にも迂回路が欲しいもんですな。迂回してよいこといっぱいある気がするの。職業差別とか人種差別とか美醜問題とか戦争とかジェノサイドとか。若え奴らは知らないだろうけど、21世紀ってこんなクソまみれになるはずじゃなかったんだよ。日本はある時点であきらめたんだ。必死に食らいつくことを。ジジイやババアが本気で「昔に戻っちゃいけない」と考え、語っていた時代をおれは覚えてる。大儀のために泣く泣くその信念を曲げたんじゃない。不況程度でココロが折れたから懐古に縋ったのさ。なんの話。
「なんで大涌谷って17時までなんだろ。夜に行ってもいいじゃん」
「落ちますよ」
「えっ」
「すぐ横に穴あって、クルマ落ちますよ」
「ぎゃー照明つけてー」
芦ノ湖(仮)は語りかける
「バイパスの問題はサービスエリアとかないことだよねえ。なんもねえ」
「ま、バイパスですからねwww」
「小便したくなったらどーすんのよ」(←ちょっと我慢してた)
「そこらで」
「それって昔スタイルだよねえ」
そんな会話をしていたら、自販機もないその道路に、奇跡のように小さな道の駅が。……名称忘れた……けど、とにかく道の駅っぽい何かが。ここで、かき揚そばを食す。んまかった。裏手に回ると、なんか水が広がってる。
「芦ノ湖ですよ!」
「マジか。なんで分かるの」
「水が語りかけてくる。『私は芦ノ湖ですよ』って」
「マジか」
やっぱ山ちゃんすげえわ。
山ちゃんから発声法やらコールドリーディングやら、色んな話を聴きながら、芦ノ湖(仮)を眺める。遠くに鳥居がある。芦ノ湖(仮)をぐるっと回り込んだところだ。
「あの神社に行きましょう!」
「えっ(なんで)」
〇〇神社(※名称は山ちゃんの記事でご確認ください)
神も仏もあるものか。高潔で愛に満ちた人が愛を返されることもなく無惨に死ぬのを見ると、信仰心などなくなる。ま、元々なかったんだと思う。日曜学校はクリスマス会のチョコレートケーキ目当てに通ってた。でも神社は好きだぜ。見上げるような巨木はきっと盛大にフィトンチット出しておれを拒絶してるけど、おれ側は愛してるぜ。
山ちゃんの記事を読んで「信仰=畏怖」、アニミズムとか「お天道様が見てる」とかね、山岳信仰とか、そういうものだなって本当に思うし、そういうものはおれにもあるなって、これは追記。山ちゃんの記事の方が「ゲラゲラ笑える」「ちゃんとしてる」「べらぼうに画像が美しい」ので、みんなそっち読めばいいんじゃねえかしら。マクロス知らなくても楽しいっすよ。



「115円(いいご縁)って知ってます?」
「いや知らんかったです(なら415円でいいのでは?)」
あっ50円しかない。まあいいか。山ちゃんを真似て参拝。

ソフトクリーム(バニラ/チョコ/抹茶/白桃)が売ってた。山ちゃんの「ここは白桃一択」という御宣託で白桃チョイス。果肉いっぱい。うま。
「本当に撮影もせず食っちゃうよね」と山ちゃん。バレた。おれの記事で大体食いかけの画像しかないのは、うまそおなものを見るとまず食ってしまうせいなんです。途中で「あっ撮影」って気づくんですよ……
おい嘘だろ山ちゃんがやたら推されてたジンジャーエールを飲んでる。ラベルに「神社声援」って書いてあるよ……「ジンジャ・エール」って……ぎゃああああ。おれ基本ダジャレだめなんよ。完熟期に入った売り子さんにすすめられたストローをそれでも一度は断った山ちゃんなのに、「このストローは断面がハート形なのよ」とダメ押しされて受け取ったのも目撃してしまった。映えるのかそれは! それがブロガー魂というやつなのか!
箱根彫刻の森美術館へ
天気の話なんて何も共通の話題がない相手にするもの。だからここで書くつもりもなかったんだけど、この日は雨模様。そして既に大涌谷まで行ってロープウェイに乗り火口で黒い卵を食べるという黒魔術的な儀式を行なうには、ややギリギリの時間であった。ちょっと、ウン諦めモードでしたよね。
じゃ、プランBで。
おれちゃん52ちゃいだけど、おれがクソガキの頃からテレビで宣伝されてたんですよ何が。箱根彫刻の森美術館が。CMを観たことがないよって方でも、「夕刊フジのCMなら」、あるいはご存知かもですね。あの「黒い人と赤い人のやつ」って、箱根にあったんよな。思わず「夕刊フジを読みながら老いぼれてくのはゴメンだ」って歌いそうになったぜ。
そういや夕刊フジ、手に取ったこともない。ブルハの英才教育すげえわ。
「弓をひくヘラクレス」問題
「入場料2000円って高えな!」とブーたれつつ入場しまして(のちに浅慮を恥じることとなる)、お客さんがまず最初に見るのって例のヘラクレスの量感も素晴らしいポコチンなんですが、「確かにこのポーズならタマはこう垂れますしサオはこう垂れるでしょうね」と彫刻家の卓越した観察眼に感嘆しつつ、比して「なんで顔がこんなにザツなんだよ」という衝撃がすごい。名乗り出た82歳に修復させたんか。どーして、としばし考え込んでしまった。いやでも答って見つかる? 見つからないよ。次いこ次。山ちゃんは水を得た魚のやうに、広々として美しい庭園を飛び回っている。あっちのオブジェからこっちのオブジェへ。楽しそうやね。こっち来て正解だったね。
ハコチョ―、正味「とってもよかった」











結論:「入場料2000円て安い」
入場時には「高えよ」と文句言ってたおれが、帰るときには「何これやっす。やっす。安すぎ」と連呼。山ちゃん苦笑しつつも「してやったり」感。悔しいけど行けてよかった!
一点どうしても、「車イスだと無理じゃね」というのが気になったけど、他には何も不満はない。本当に素晴らしかった。
コンビニに駐車して、休憩。雨の箱根で、山ちゃんとふたり雑談する。「アナと雪の女王」の日本語版主題歌の何が問題であるかについて。あれは本当は「ありのまま/私キラキラ」な歌じゃなく「あるがまま/構うものかと社会に背を向けるまでの/侮蔑と成長の痛みの」歌であるのだ、という渋い語り。この日芸術的かつ渋いおれらを世界は目撃したね。
山ちゃんに訊けなかったこと
渋いというか――気がかりだった、ある思い。箱根は有名な温泉地だ。立ち並ぶ温泉宿を眺めながら「山ちゃんホントは温泉入りたいんじゃないの」と、実は何度か言いかけた。おれがゲイだからだろうか、と気になってた。仮に一緒に温泉に行ったとして、おれは気にしないだろう。山ちゃんは気にしないだろう。山ちゃんが気にするのは、おれが「自分がゲイだと知らせた後に同性間のイベントがしにくくなり忌避的になる」という、「自分が性的捕食者であるかのような気分になりたくない」という、「おれ側の」事情だ。そんなことを書いたりもして来たしね。だから「気ぃ使わせてるんじゃないか」と、正直ずっと気になってた。
note を始めてこれまでに起きていた変化。おれは実は、もう(これまでリアルで会おうと約束している以外は)誰とも会わなくていいや、と……そんな気持ちになっている。このお泊り旅行も「山ちゃんとだから」ホイホイ来たのであって、信頼を確信してなければ難しかった。静かに「誰とでも友達になれるわけではない」と知る、これまでがあったのだ。無邪気さはかけがえのないものだが、おれは痛みを避ける。――でも山ちゃんにとって初の箱根で、申し訳ない思いがあったのは本当だ。
箱根のカーブでブレーキを踏まないおれに助手席で爆笑してる山ちゃん。同じ風呂に入らなくても、こんなに近いんだからいい。そのままどこかクルマを停めて、「温泉入って来なよ」と、言えばよかったのだろうか。
どう生きられればよかったのか。52歳になっても悩んでる。楽しい旅行記に、こんなノイズは要らないだろう。でも書かなければ、嘘になる。おれにとっても初めての箱根、楽し気な観光客をトヨタVOXYから眺めてたとき、おれ運転席にいたっけ助手席だったっけ。確か、いや間違いなく助手席だ。ホテル着いたときに運転してたのは山ちゃんだし、そうだよ思い出せるよ。でもなんか記憶がぼんやりしてんだよな。「悪いな」って、考えてて。
投宿「ホテルオレンヂ」@小田原
あの、ホテルのさ、アクリル製の長いキーホルダーあるじゃないですか。いや、現代的施設ではほぼお見掛けしないんだけど。映画で「サイコなシリアルキラーが出るモーテルの受付」にしか出て来ない、あのキーと、あのキーの棚。「ホテルオレンヂ」にはそれがある。


ロマンスとは、アジじゃない?
チェックインを済ませ荷物を置いたら、夜の小田原に出かけましょうか。
やはり山ちゃんがホテルのフロント氏からヒアリングしてくれたお店へ。
おれびっくりするくらい何もしねえのな。なんていうお店だっけ。山ちゃんの記事で分かるし調べなくていいか(びっくりするくらい何もしない)。




何もしない代わり、どうしてもここはお代を支払わせていただきたかったのだが、山ちゃんが払わせてくれない。なんで。北海道から来てる人と東京からチャラチャラ来てる奴じゃ、負担額がちがっていいと思うのに。のに。
しかし……ぜんぶ旨かった!
待ち受けの秘密。
ビールに始まって、ウイスキーやらジンやら飲んでた気がする。そうしてグラスを空けていけば、しんみりした話にもなる。そんなことがあるんだ、と驚くような話が、人生にはある。自分が生まれることでママの命を救った子の話、人生の苦しみがどうにもならないと決定したときに、身体が心を守ろうとするのか、心が身体を守ろうとしたということなのか、忘我の世界に生きるようになった人の話。泣かされた。患者さんがくれたという画像は山ちゃんのスマホで待ち受けになっている。そんなの、泣くだろ。
おれらどう生きたらいいのかね。なあ山ちゃん。
Quality Of Life と、口癖のように言い続けることの意味。
定型的な物語は、「何が幸福か」という決め事さえ、個々の患者の前で絶対ではない。自分が出会う学生たちも、現場に出ればそれを思い知る。でもどんな人生も、節度と敬意をもって取り扱う人たちの存在によって、一筋の光のような救いを得るのではないか。あの子たちも忘れがたい人の生に、いくつも立ち会うだろう。幾度も無力感にうちひしがれるだろう。分かってる。でも役割を忘れないでほしい――そして、自分は。
おれはやっぱり、人の心を強くしたい。自分の命をそのために使えたらと思うのだ。そのことを考えるときだけ、退けない感覚があるのだ。ほかに何のプライドも要らない。ほかにやりたいこともない。そのために書きたい。
ホテルに戻って、泣いた顔を風呂で洗って、パンツも穿かずベッドに倒れこんで眠った。
ロマンスとは、是アジフライなり
朝。もう一度、海を見たくて。でも駐車場が見つからない。そこへ工事の人たちが「ここ今から何台もダンプ入れるからどいて」と言いに来る。すぐ目前の海を諦め、退散。レンタカーを返却し、小田原駅前をウロつく。小田原、カマボコ愛がすげえな。そして「カマボコ店には必ず梅干しが売られている」法則を発見す。われ発見す。ここに記す。

11時開店の定食屋さんに入る。
「ビールください」
「お?」
「電車で帰れるんなら、旅の終わりのビールですよ!」
「昼ビールだあ!」
グラスふたつと、瓶ビールが運ばれて来る。なけなしの理性で撮影しようとしたら、山ちゃんが素早くテーブルを片付けてくれる。あなた人生何周目なんだよ。ありがてえお方だなあ。
そして、アジフライ定食ですよ。旨かったっす。


「見て見て山山山。連なっとる。すげー」
「……」
「今さあ『このレベルで都民がはしゃいでる』って思いましたよねえ?」
「www」
バスタ(ーミナル)新宿。
いつも始めるのは簡単だ。終わり方がむずかしい。旅もそうだ。寂しいな。でもずーっと楽しかったな。全部お任せで悪かったな。山ちゃんに感謝しなきゃ。お礼言えてたかな、おれ。
「『NEWoMan』って、WとMが大文字でしょ」
「えっ? あ、ウン」
「新しい時代の女と男ってことですよ」
「バスタ新宿が山ちゃんに語りかけた…!」
7,500字を超える旅行記にお付き合いいただきありがとうございました。
そして山ちゃん、おれ言ったかな、本当に感謝してます。ありがとうね。
その山ちゃんの記事はこちらです。笑いすぎて苦しかった……
