若葉芽吹くとき|せりふ三題噺
桜の花が散ると切ない気持ちになるが、若葉が芽吹く今の季節も好きだ。
花見の時期に賑わっていたこの公園は、葉桜になると普段の落ち着きを取り戻した。
遊具がコンクリートで出来た山型の滑り台とブランコくらいしかないここは、平日のお昼前だからかとても静かだ。
ベンチに座って目を閉じると、聞こえてくる小鳥の囀りが心地良い。保育園の先生と園児たちの声も耳に入ってきたが、散歩中に立ち寄っただけだったのか、すぐに消えていった。
公園で読書をするために有休を取った僕は、穏やかな空気が流れる中、自分はなんて贅沢者なんだと思った。
ずっと仕事の帰りが遅くて行けなかった図書館へ、昨日、閉館間際に駆け込んだ甲斐があったものだ。
ベンチに座り、借りた小説を読み始めると、フルートの音が聞こえてきた。
公園にいるのは自分ひとりだけと思っていたが、どうやら山型の滑り台の向こう側に誰かいるようだ。
気付かれないように、山の麓からそっと顔を出して確かめると、白くて大きいつばの帽子を被った女性が、桜の木の下に座っていた。目元がつばで隠れているから、どんな面差しをしているのか分からないが、透明感のある音色と相まって、フルートを吹く姿がとても美しく見えた。
曲はJ-POPからアニメの主題歌まで、知っているものばかりだった。2000年生まれの同世代くらいかなあ、と思いながら音に浸った。
暫く眺めていると、彼女が演奏をやめてこっちに顔を向ける気配がしたので、慌てて山に隠れ、忍び足でベンチに戻った。
有休の目的は読書であったことを思い出し、本を読むことに集中した。が、数ページめくっただけで睡魔が襲ってきた。彼女がフルートを再開したがクラシックに変わり、眠らせる呪文をかけられたかのように、僕の意識はなくなっていった。
*
目が覚めると、フルートの音はもう消えていた。
滑り台の山の麓から顔を出すと、桜の木の下に彼女の姿はなかった。
公園の周囲を見渡すが、誰もいない。
演奏が終わったら声を掛けようと思っていたのに、と僕は残念がった。そんな勇気なんて持ち合わせていないのだが。
今度来るときは、昼寝しないように、眠気覚ましのアイスコーヒーを持参しよう。
僕は、今年も芽吹いたようだ。
了
こちらの企画に参加させていただきました。
はらとけいさま、宜しくお願いします。
