デザイナーの「餅」は、どこにあるのだろう
サイトデザインのリニューアルを、ひとつ請けた。
それ自体はいつもの仕事。
ところが、蓋を開けてみると・・・
新しいサイトに合わせて、ドメインをつなぎ直す。
それに伴って、メールサーバーを新しく契約する。
さらにその上で、メールの設定をやり直す。
話は、芋づる式に伸びていった。
自分はインフラのプロじゃない。
ドメインとサーバーとメールの関係を、人にすらすら説明できるほど分かっているわけでもない。しかも今回のクライアントとは、ずっと画面越しの遠隔だ。近くに行って、同じ画面を覗き込むことができない。
プロでもない自分が、遠隔で、本当にここをサポートしきれるんだろうか。
その不安の頼りどころは、AIだった。
ただ、今年に入ってからAIを使ってきたからこそ、AIが言っていることが全てじゃない、というのも肌でわかっていた。だから、頼りながらも、どこかで完全には信じきれない。
そういう宙ぶらりんな気持ちが、自分自身をモヤモヤさせた。
まず、自分が分かるところまで整えた
そんなモヤモヤを解消するためにやったことは、
分からないものを、分かる形に翻訳することだ。
サーバーとドメインとメールサーバー。
この三つの関係を、AIで図解した。自分が理解するためでもあり、クライアントに説明するためでもある。同じ絵を、二人で見られるようにしておきたかった。

設定の手順書も、AIに整理してもらった。これがまた、よくできていた。
言葉にすると簡単そうだけど、専門外のことを「自分もクライアントも判断できる地点」まで持っていくのは、けっこう手間がかかる。その翻訳を、AIは瞬時に助けてくれた。

手順書を作っただけじゃない。
自分で仮のアカウントを作って、その手順を最初から最後まで一度通してみた。できることを、自分の手で確認した上でクライアントへ渡した。
ここまでやれば大丈夫だろう、と思っていた。
相手の状況を、自分の手元で再現したつもりだった。
なのに、二回つまずいた
最初のつまずきは、メールサーバーの契約のところで起きた。
なぜか、登録がうまくできていない。しかもやっかいなのは、その「できていない」状態はしばらく続いていたのに、それになかなか気づけなかったことだ。
目の前で弾かれるなら、すぐ分かる。でも遠隔だと、「本当はできていない」という事実そのものが、距離のせいで見えない。何かがおかしいと気づくまでに、じわじわ時間が溶けていった。
そこをなんとか乗り越えて、次はメール設定。
これがまた、通らない。何度やっても「情報がどこか間違っている」と弾かれる。手順書の通りにやっているはずなのに、そのまま通らない。
手打ちのミスなのか。コピペのミスなのか。そもそも入れる情報が違うのか・・・
整えたはずのものが、現場では効かなかった。
入ってみたら、一瞬だった
しばらく粘って結局タイムオーバー。
最後は意を決して、自分でクライアントの管理画面に入らせてもらった。
画面越しに指示を出すのをやめて、現物に触りにいった。
そうしたら、行き着いた先が「プロファイルのインストール」だった。
それをクライアントへ伝えて試してもらったら、あれだけ詰まっていた設定が、本当に一瞬で終わった。
拍子抜けするくらい、呆気なかった。
しかも、そのプロファイルのインストールという一手は、AIに作ってもらった手順書には入っていなかった。
そして実際に自分で入ってみれば、割とすぐに気づける程度の難しくない方法でもあった。
難しかったから、たどり着けなかったわけじゃない。
触れていなかったから、見えなかっただけだった。
間に何かを挟むと、見えなくなる
振り返ると、二回のつまずきは、少し性質が違っていた。
サーバー契約のほうは、遠隔という距離のせいで、「問題があること」そのものに気づけなかった。目の前で失敗が起きていないから、できていないという事実が、そもそも見えない。
メール設定のほうは、距離というより、手順書という媒介を挟んでいたせいだった気がする。手順をなぞっている限り、答えは出なかった。でも自分が現物に触れたら、一瞬だった。
種類は違う。でも、共通していたことがひとつある。
どちらも、自分が直接には触れていなかった、ということだ。
遠隔という距離を挟むと、問題があることが見えない。
手順書という媒介を挟むと、解決策が見えない。
間に何かを挟んでいると、見えなくなる差分がある。
そしてその「間に立つ」立ち位置は、実のところ、自分で選んだものでもあった。
インフラ周りはもともとスコープ外だったこともあり、全部をこちらで請け負うのではなく、サポートに徹する形を選んだ。
でも、もし全部を引き受けて自分の手で進めていたら、間に何も挟まず、スムーズだったのかもしれない。距離を作っていたのは、遠隔という条件だけじゃなくて、自分の選び方でもあった。
三角形の図も、手順書も、仮アカウントでのリハーサルも、ちゃんと役に立った。整えれば、大抵のことは、判断できる地点まで持っていける。それは本当だと思う。
ただ、最後の一点だけは、整えても届かなかった。
頼りにしていたAIが全てじゃない、という薄々の不安は、
いちばん肝心なところで、そのまま当たっていた。
解決したのに、すっきりしない
自分で管理画面に入って、あっさり解決した。
ふつうなら、それで一件落着のはずだ。
でも、終わってみて残ったのは、達成感というより、
なんだか座りの悪い感覚だった。
自分で入って解決できたからといって、自分でやるのが正解とも限らない。今回はたまたま、入ってみたら簡単だっただけで、いつもそうとは限らない。
餅は餅屋、という言葉がある。
こういう専門の部分は、ちゃんとその道の人を立てて、クライアントと対峙してもらう。そういうやり方も、もちろんあるのだと思う。
とはいえ、今回の一件は、間違いなく自分のノウハウのひとつとして積み上がった。次に同じような依頼が来たら対応できると思う。
この手の需要も、実際そこそこあるんじゃないか、という感触もある。
餅屋に任せる話をしていたのに、
気づけば自分が、ちょっと餅を焼けるようになっていた。
だからといって、率先してやりたいわけでは、もちろんないんだけど。笑
今回の自分は、餅屋に頼らず、餅を自ら焼こうとした側だ。
プロじゃない領域に、AIを頼りに踏み込んだ。
そして、それなりのところまではできた。
でも、それってもう、自分のいる側でも起きていることなんじゃないか。
AIが進歩して、誰でもそれなりのものが作れるようになった今、
デザイナーである自分の現物に触れないと見えてこない「餅」は、果たしてどこにあるのだろう。
余談
ちなみに、うちの代表も「どこまで伴走するか」という話をブランディングの観点で書いていて、今回の自分の話とゆるくつながる気がした。
よかったらぜひ。
