「またか。」
アメリカのウィスコンシン大学に留学して2ヵ月くらい経った頃である。一通り現地の生活にも慣れてきた頃だったが、一つ悩んでいるポイントがあった。透明人間問題である。
留学開始直後の数週間は、自己紹介オンパレードで、出会う人全てが新しい人なので、1日に5回以上は自己紹介をしていたように思う。人に会うたびに自己紹介し、同じことを何回も言うので、だんだん慣れてきていた。海外生活も意外といけるな、と勝手に思っていた部分もあった。
問題はその後だった。自己紹介も終わって、2回目以降のパーティーに参加するようになって、話題が様々になってくると、ほぼ何も発言できずにその場にいて、Miller liteというビールを飲むことが続いた。自分は透明人間だった。みんなが笑っているのに、何が面白いかもわからず、何が面白いかも聞けず、わかったフリをしてみんなに合わせて笑っていたような時期が続いた。
だんだん情けなくなってきたので、寮に戻って自分が透明人間になってしまう理由と解決策を考えることにした。
1. スピードが早い。
自分が日本人だからといって手加減はなく、ネイティブ同士が話す会話はやっぱり早かった。日本の大学に来ていた留学生や、外国人の先生ともよく話していたので、慣れていると思っていたのだが、僕らにわかりやすくするために、ゆっくり話していたことに気づいた。早くて単語が繋がって聞こえないケースや、複数人で重なって話してくることもあり、知らない表現や若者言葉も多く、全く歯が立たなかった。
自分なりの解決策
聞こえないから理解できないのか、知らないから聞こえないのか、とか一人で考えながら、アメリカ人学生が話す口語表現を分析し、どうやって話すかを観察してノートに蓄積した。"It's like.." と "You know"の連発で、何度も言い直すし、何を言っているのかさっぱりわからなかった。色々と分析も練習も重ねたが、アメリカ人同士の学生の会話 (特に1年生や2年生) は、文法的ではないことが多いことがわかった。
ルームメートが大人しくて優しいアメリカ人の3年生だったので、ノートに貯めた表現を集めては彼に質問して練習をした。驚いたことにルームメートのアメリカ人も1年生や2年生の会話がわからないことがあると言っていた。これがわかってからは、理解できない自分だけが悪いわけではないということがわかって少し気が楽になった。
2. 内容がわからない。
スピードの問題の他に、聞こえた単語があったとしても、その話題自体を知らないのでついていけないことが多かった。学生の間で流行っている音楽だったり、ドラマなら、あとで聞けばすぐに学べたが、かなりの確率で政治的内容だったり、意見を求めるような真面目な話になることも多く、ウィスコンシンという地域の文化やアメリカの様子をもっと知っておく必要があると思った。
自分なりの解決策
1) 自分から会話をスタートする機会を増やした。
他の人からスタートした話題だと、ついていけないことが多いので、自分がみんなに聞いてみたい事項やリストを作り、今日はこれを聞いてみようという話題を決めて臨むことにした。
2) あとで何が面白かったのかを聞ける仲間を作った。
みんなが爆笑するような面白い話題があったときに、なんで面白いかがわからないのは辛かったので、隣に座っていた人や仲のいい友達に "What was funny?" と聞くことにした。意外と浅いところで笑っていることもわかったし、別にわからなかったとしても自分に影響はないことが多いと開き直ることにした。
3. 会話への切り込み方がわからない。
スピードも内容もクリアできたとしても、会話への切り込み方がわからないとグループの会話への参加は難しい。誰かが自分に会話をふってくれればそれは答えるが、いつ振られるかわからないまま待機しているのもかなり疲れた。自分が入りたいタイミングで切り込めるように、周りがどうやっているかを観察して、表現をリスト化し、シミュレーションし、仲が良かった韓国人の友達やルームメートと練習した。"Oh, really?"の一点張りでは会話には切り込めない。
自分なりの解決策
透明人間として蓄積したボキャブラリーの中から、とりあえず使えそうな表現をノートにとって、自分でボソボソと独りで練習した。
会話の概要がわかっていた時も、インプット時期を中心と考えていた時期は、自分ならこう発言するかなと想定をしておいて、他の人がどうやってカットインするかを見た。待ってみてその表現をコピーするという地道な作業も行った。その繰り返しの後で、少しずつ自分もカットインを試みた。
自分が当時メモを取ったあと練習した表現の一部
・I don't think so. A friend of mine told me that ...
・No way! Are you serious? When was it?
・Come on! Are you kidding?
・Awesome! How much was it?
・That sounds great. Where is the restaurant?
・That's so true. Did you read an article on..?
本当はもっと汚い単語だらけだったのだけれども、あまり使えないことと、アメリカ人ではない外国人へ使った時への印象が悪かったので、使えそうなものを選んで、いつでも言えるようにボソボソ独りで練習したり、ルームメートに相手になってもらった。僕があまりに独りでボソボソ英語で言っているのでルームメートは心配して「大丈夫か」とよく気にかけてくれていた。
この後、カテゴリー別に分けて、同意をするとき、反対意見を言う時、もう一度言ってもらうとき、感想を述べるための形容詞を増やす (e.g. 食べ物の感想、見たものに関する感情、感動した時の表現 etc.) などを試してみた。
4. 3人以上の会話は難しい。
そもそもアメリカ人が主体となった3人以上のパーティで、自分が話をすることは難しいということがわかった。内容がわからないのも一つだが、ウィスコンシンには外国人と話し慣れていない人も多く、自分が入り込んでいくのが歓迎されていないケースもあった。外国に関心があり、ネイティブではない英語でも聞こうとする余地のあるアメリカ人もいたので、そういう人とはよく話をした。しかし、中にはウィスコンシン州から出たことがないアメリカ人も多く、ある程度差別的なことも経験したが、心を閉ざしている人や排他的な人とは距離を置くことにした。
自分なりの解決策
1) 3人以上のほぼアメリカ人しかいないパーティには行かないようにした。
そもそも歓迎されていないアメリカ人コミュニティーの中に、まだカットインできる英語力と内容がないまま参加しても楽しくないのと、透明人間では成長ができないので、どうしても行きたいもの以外は行かないようにした。
2) 海外留学生の友達を作って、最大3人での会話の機会を増やした。
4人以上だと、自分がいないトライアングルで話が進んでしまうことがあったので、なるべく初めは最大3人で、わからないことがあった時にすぐに聞けるような環境を作った。アメリカ人が使っていた表現を試してみたり、みんなはそう言う表現を使うかという話も聞いたし、話題についても時事ネタや政治ネタについて深く話す練習ができたように思う。(e.g. 韓国の兵役について、戦後処理についての意見、アメリカの銃規制に関する意見)
3) ニュースを読むようにした
話題が鍵になるので、新しいものを取り入れるようにした。「今日のニュース見た?」という切り出しから会話が弾むのでニュースを読んで、自分がどう思うかというところまで言えるように、少し自主練をしてから友達との会話に入っていった。
透明人間から少しずつ姿を現わす事になったもう一つのきっかけを挙げるとすれば、バスケが大きかったように思う。留学先がアメリカだったこともあり、バスケ文化が既にあり、Pick up gameといって、人が集まればランダムに3 on 3から始まったので、仲間ができたのも大きかった。一番よく話すことになった友達もバスケつながりで、今でも定期的にコンタクトをとっている。
いま透明人間中の人や、今後なりそうな人にも参考になれば幸いです。
今日も最後まで読んでいただいてありがとうございました。
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