恋人繋ぎ

人間は社会的動物である。
その点において、私は完璧である。

 社会というのは、人間が二人以上いる環境である。人間が二人以上いれば、コミュニケーションが発生する。コミュニケーションを取る上で、全人が思うのが、相手が何を考えているか分かりたいということではないだろうか。取引先であれば、相手の考えていることが分かれば、万事仕事が上手くいく。恋人であれば、相手の考えていることが分かれば、ストレスのない私生活を過ごすことができる。
私はその全てを持っている。相手の考えていることがわかるのだ。
勘違いして欲しくないので断言するが、コミュニケーション能力が高いわけではないし、察しが良いわけでもない。
文字通り、相手の考えていることがわかるのだ。

 私は、人差し指が触れた相手の考えていることがわかる。いわゆる超能力というやつだ。
上司が求めてる会議資料も完璧に作れる。取引先との飲み会で、お酒を頼むタイミングも頼む種類も完璧。彼氏の誕生日プレゼントも完璧。友達の悩み相談の回答も完璧。もちろん、周りからの期待は常に高い。そして、私はそれに答え続けてきた。
私は完璧であり、完璧でなければいけないのだ。

 そんな私の人生に、最大の悲劇が訪れた。隣にいる男が浮気をしているのだ。もちろん直接聞いたわけではないし、証拠を持っているわけでもない。
このバカな男が手を繋いできた、いわゆる恋人繋ぎをしてきた時に分かってしまった。こいつは今、別の女のことを考えている。私の家に着いたタイミングで、急な仕事が入った、とか言って女の家に行こうとしている。
この男の考えは、全て筒抜けであるが、とりあえずジャブを打ってみる。

「お腹すいたね、何食べる」
「麺類がいいかなー、そばとかどう?
嘘だ。
こいつは、女の家で手作りのオムライスを食べようとしている。

「そばね、暑くなってきたしそうめんはどう?」
「チューブの生姜しかないよね、生生姜をすって作りたいな」
嘘だ。
こいつは、生生姜を使うような人間ではない。
こんなことは、人差し指が触れなくても分かる。自分のキャラ設定がブレるくらい、私との会話に集中していない。

「生生姜はないね、まあ、あるもので適当に作ろっか」
「そうだね・・・」
もう完全に上の空だ。

しかし、私は完璧なのだ。こんな男の浮気ごときで動揺してはいけない。
周りからは、完璧な私・完璧なカップルとして見られなければいけない。

そんな時、前から全身黒づくめの男性が歩いてきた。
私は、恋人繋ぎの手から、指先だけをピンと伸ばした。
男性は、まっすぐ前を向いて、私の横を通り過ぎた。

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