青森の地震と能登の記憶──元水道屋が見た、水道復旧と公営インフラのリアル
昨夜の青森の地震のニュースを見て、
まずは、被害にあわれた方々に心からお見舞い申し上げます。
「また地震か…でも能登ほどじゃなさそうだし、ひとまず安心」
そんな空気になっている人もいるかもしれません。
実際、今わかっている範囲では、
今回の青森県東方沖の地震は、去年の能登半島地震と比べると、
インフラ被害の規模はかなり小さそうです。
おそらく、周辺自治体どうしの応援で、ある程度はやりくりできるレベルでしょう。
ただ、こういうニュースを見るたびに、私はどうしても、
元・水道局の中の人としての記憶を思い出します。
被災地の水道を復旧する「現場の無理」
そして、その裏側にある「被災地の外側の無理」
今回は、その一部を、少しだけ具体的に書いてみます。
被災地に行かない側にも、“静かな災害”が起きている
私は派遣に行った本人ではありませんが、
地震があるたびに、同僚が被災地に向かうのを「送り出す側」でした。
大きな地震が起きると、まず庁内で始まるのは、
職員一人ひとりの業務状況の確認
家庭事情も含めた「派遣に出せるかどうか」のヒアリング
課をまたいだ派遣候補者リストの作成
です。
誰を出せるか、誰を残さないと組織が回らないか。
机上の表だけでは決められない話を、各課の管理職と総務がすり合わせていきます。
派遣メンバーが決まると、半分儀式のようなことが行われます。
庁舎前に職員が並び、
出発するメンバーを一列にして、全員で見送るのです。
戦中の「出征兵士の見送り」ほど大げさではないにせよ、
空気感はそれなりに似ています。
行く側は照れながらも、顔つきが少し変わる
残る側は「家庭の事情や持ち場の関係で、自分は行けない」という後ろめたさを飲み込み、いつもの机に戻る
ここから、残された側の長い日々が始まります。
12人送り出すと、その分の穴を300人でなんとか埋める
私がいた自治体は、職員数300人前後の規模でした。
能登半島地震のとき、この自治体からは、延べ12人をローテーションで、約3カ月派遣し続けました。
決して「人が余っていた」わけではありません。
12人送り出したら、その分の穴を、残りの300人で何とか埋める
待ってくれない通常業務を、部署をまたいでかき集めて処理する
「災害派遣中なので、この仕事は回りません」とは、正直ほとんど言えない
実際に現場に行った同僚からは、こんな話も聞きました。
現場から車で1〜2時間離れた宿に戻り、
翌朝また暗いうちに出るのを、1週間以上続ける。
ほぼ休みなしのまま、次の班に仕事を引き継いで帰ってくる。
過度な徹夜作業は安全上避けますが、
それでも「長時間・高密度」の働き方を、一定期間続けざるを得ない現場です。
現地はもちろん大変ですが、
その裏側で、被災地の外側にも、静かに“もう一つの災害”が広がっています。
いま動いている災害派遣のモデルは、きれいな制度設計というより、
公営の水道局どうしが互助で支え合い、
その上に、現場の「無理」が積み上がって、なんとか形になっている仕組み
という表現の方が、実態に近いと感じています。
「自衛隊が全部なんとかしてくれる」という誤解
地震があるたびに、よくこんな言葉を目にします。
「大地震が起きたら、自衛隊が全部なんとかしてくれるんでしょ?」
気持ちはわかりますし、
自衛隊の役割は間違いなく大きいのですが、
少なくとも水道の世界では、少し役割が違います。
自衛隊は、
給水車で水を配る「応急給水」のプロ
です。
ただし、
地中の水道管を掘り起こし
漏水箇所を特定し
新しい管をつないで埋め戻す
といった「配水管そのものの復旧」は、守備範囲に入っていません。
大きな地震のときに“復旧の主役”になるのは、
被災地の水道局の技術職(現場の指揮)
被災地の業者にくわえ、全国の水道局が一緒に連れてくる協力業者で組まれた現場チーム
です。
東日本大震災のときも、能登の時も、全国の水道局が応援に入り、
それぞれがふだんから組んでいる水道業者を「セットで」連れていきました。
実際に地面を掘り、配管を組み替える作業のかなりの部分は、
こうして各自治体に同行した業者が担っています。
ニュースで映るのは主に、
給水車
自衛隊
といったわかりやすい存在です。
しかし、その裏側では、
水道局どうしのネットワーク
各自治体と協力業者の、長年積み重ねてきた関係
がフル稼働しています。
この「水道局+協力業者」のチームプレーがあるからこそ、
どのエリアから優先的に水を戻すか
どの道路を掘ると交通がどれだけ麻痺するか
どの管路は古くて、触ると連鎖的に壊れやすいか
といった、“現場の勘”も含めた復旧が、かろうじて回っています。
自衛隊だけで完結しているわけではなく、
ローカルなインフラの「内側の構造」とセットで動いている、というのが実像に近いはずです。
「公営+互助文化+現場の無理」で持っている仕組み
ここまで見てきたように、災害時の水道復旧は、
公営の水道局どうしが、人とノウハウを出し合う互助モデル
各自治体と協力業者の、長年の信頼関係
そして、被災地・応援側のどちらにも乗る「現場の無理」
がセットになって、なんとか動いています。
このモデルは、「公営の水道局どうしが助け合う」ことを前提に積み重ねられてきました。
もし今後、水道の運営権を企業に長期で任せる
「コンセッション(民営化)」が広く進んで、
経営主体が企業に置き換わっていったとき、
職員を長期に派遣し合う互助体制
それぞれの自治体が、ふだんから組んでいる業者を「セット」で連れていく仕組み
がどこまで維持されるのか。
正直なところ、現場レベルではまだはっきり見えていません。
いま動いている災害派遣モデルは、
「公営+互助文化+現場の無理」
という、人と互助に大きく依存した設計のうえに立っています。
その土台をどう変えるのか、という議論は、これから本格化していくのだと思います。
青森の地震ニュースを見たときに、少しだけ思い出してほしいこと
今回の青森県東方沖の地震は、去年の能登ほどの規模ではなく、
インフラ被害も、今のところは「周辺自治体の応援でなんとか回せそうなレベル」に見えます。
おそらく、ここまで全国総動員の応援体制をフルに回すようなケースにはならないでしょう。
それでも、能登級の災害が起きたときには、今回書いたような仕組みが、全国で総動員されます。
こうしたニュースを見るたびに、私はいつも、
被災地で長時間の復旧作業を続けている、水道局と協力業者の人たち
被災地の外側で、穴のあいた職場を何とか回している、残された側の人たち
の顔を思い出します。
大地震が起きたら、すべてを自衛隊が何とかしてくれるわけではありません。
ニュースで映らないところで、
ローカルなインフラを知り尽くした技術職
各自治体と歩調を合わせて動く協力業者
そして、その人たちを全国から送り出す、公営水道のネットワーク
が総動員されています。
青森の地震のニュースを見て、
広域の壊滅的な被害には至らなかったようだ──
と、ひとまず胸をなでおろしつつも、
その裏側にある、こうした仕組みや“無理”のことを、
少しだけ思い出してもらえたら、元・水道屋としてはうれしいです。
そして今まさに、不安な夜を過ごしている方々の生活が、
一日でも早く落ち着くことを、心から願っています。
熊騒動について感じたこと⇩
