『遊廓文学マーケット』参加に寄せて
今夏、カストリ書房さん主催の『遊廓文学マーケット』に参加いたします。
この記事では、出品物の内容紹介や出品に至るまでの経緯、和綴じ本の作成記などをご紹介します。
『遊廓文学マーケット』概要
『遊廓文学マーケット』は、カストリ書房さん主催の展示即売会です。
会期:2025年8月9日(土)〜8月24日(日)
※営業時間・定休日はカストリ書房さんに準じます。
会場:カストリ書房
(東京都台東区千束3-21-14/最寄駅:東京メトロ日比谷線 入谷駅)
イベント詳細ページ(カストリ書房公式note)↓
出品物のご紹介
拙著『遊廓島心中譚』(小説)と、本展オリジナル小冊子『余聞 遊廓島心中譚』をセットにして頒布いたします。
本展では、二冊あわせての価格を、既に一般流通している単行本の定価を基準とした価格(税抜価格 1,800円)に設定させていただきます。

■『遊廓島心中譚』とは
2024年10月、第七十回江戸川乱歩賞の受賞作の一つとして上梓された、私のデビュー作です。
ミステリ小説として刊行されましたが、幕末の横浜を舞台にした時代小説であり、さらには恋愛小説の要素も併せ持っています。
▼あらすじ
幕末日本。幼いころから綺麗な石にしか興味のない町娘・伊佐のもとへ、父・繁蔵の訃報が伝えられた。さらに真面目一筋だった木挽き職人の父の遺骸には、横浜・港崎遊廓(通称:遊廓島)の遊女屋・岩亀楼と、そこの遊女と思しき「潮騒」という名の書かれた鑑札が添えられ、挙げ句、父には攘夷派の強盗に与した上に町娘を殺した容疑がかけられていた。伊佐は父の無実と死の真相を確かめるべく、かつての父の弟子・幸正の斡旋で、外国人の妾となって遊廓島に乗り込む。そこで出会ったのは、「遊女殺し」の異名を持つ英国海軍の将校・メイソン。初めはメイソンを恐れていた伊佐だったが、彼の宝石のように美しい目と実直な人柄に惹かれていく。伊佐はメイソンの力を借りながら、次第に事件の真相に近づいていくが……。
■本展オリジナルの小冊子『余聞 遊廓島心中譚』
ハンドメイドで和本風に仕上げました。
背の四つ目綴じも、がんばりました……!

この冊子では『遊廓島心中譚』の歴史時代小説としての側面に焦点を当て、物語を掘り下げています。
本編と関連づけながら執筆の参考資料を紹介しつつ、本編の裏話やこぼれ話、背景となった史実などを深堀りしています。
とはいえ、私自身は歴史研究の専門家ではないので、あくまで読んだ方の探究の幅を広げる一助となることを目指しています。
具体的には、
「タイトルの〝譚〟は、なぜ〝たん〟ではなく〝がたり〟と読むのか?」
「〝遊廓島〟という呼称の由来になった史料とは?」
「伊佐の宝物がアメジストな理由は?」
「どこまでが史実で、どこからが創作なのか?」
……といった読みどころを、可能な限り掲載しました。
加えて、最終的にミステリ小説になるまでの道程も、少し紹介しています。
・終盤の大仕掛けの着想について
・新人賞応募前のプロット『岩亀楼の殺人』から探偵と犯人が逆転した話
・登場人物の言動の裏に隠れている時代背景
ほかにも、本編の解像度が上がる創作秘話をあらゆる角度から詰め込んでいます。
なお、本冊子は拙著の内容を前提としており、ネタバレが多く含まれます。未読の方は、ぜひ先に本編をお愉しみください。
また、本展においては、和綴じ本のみの頒布は行わない予定です。
拙著はミステリ小説として刊行された影響もあり、まだ歴史時代要素に関心のある読者層へは十分に届けられていないという認識があります。
そういった観点から、今回の出品はある種未踏の領域への挑戦になると私自身は捉えています。
したがって「これまで目に触れてこなかった読者層への展開が主になる」という本展における拙著の位置づけを鑑み、今回は和綴じ本を単行本とのセットのみで頒布することといたしました。
小冊子発行の経緯
■なぜ、令和に『遊廓島心中譚』だったのか
本展は私にとって、自作に内在していた課題と向き合うための挑戦でもあります。
『遊廓島心中譚』は、ありがたいことに多くの方に読んでいただき、感想もたくさん頂戴しました。
SNSなどで紹介し広めてくださった方々、ファンレターや感想ハガキを送ってくださった皆さま、本当にありがとうございます。
一方で、「遊廓や、春を売らねばならなかった女性たちの負の側面を描ききれていない」といったご指摘も頂戴しました。
これは、この繊細な題材に挑んだ書き手として、真摯に受け止めるべき声だと認識しています。
私自身に差別的・搾取的な意図は一切ありませんでした。
しかしながら、どのような意図があったにせよ、読者にとって悪い意味で気持ちを揺さぶる読書体験となったのだとすれば、それは、現代的な視座を持つ読み手の気持ちに寄り添いきれなかった、著者としての私の責任です。
こうした刊行を経て見えてきた課題に向き合うためにも、本展への出品を、自分なりの一歩にしたいと考えています。
和綴じ製本に挑戦しました。
手製の和綴じ本も頑張って作成したので、少しだけ紹介させてください……。
冊子の作成を決めたときから、作品世界に合わせて和本風にしよう、とかねてから腹案を練っていました。
和綴じの製本に対応している印刷所さんに依頼することも検討しましたが、紙や糸にこだわりだした結果、すべて自力で仕上げることにしました。
非流通の冊子を少ない部数で展開するという状況だったからこそ、挑戦できたやり方です。
不器用なりのハンドメイドなので、職人技には程遠いクオリティと思いますが、何卒ご容赦いただけますと幸いです。
■装幀のこだわり
本文や遊び紙、題簽は和風テイストのものを選んでいますが、表紙・裏表紙には、あえて洋風の紙を使っています。
これは、拙著の根底にあるテーマの一つが「異文化との共生」であることに由来しています。
物語に登場する英国海軍を尊重したデザインにしたかったのです。この紺色の紙面に合わせるため、綴じ糸は艶のあるゴールド感の強い錦糸にしました。


本来は布などを使うようですが、今回は友禅和紙に。

和本を意識し、小口には柱を付けました。
頁も山折りにして、袋綴じ製本に。
ノンブルもあえて柱の下部に振ってます。
より忠実に江戸時代の和本を再現するならば、紙一枚を一頁と数え、ノンブルは「一(オ)」、「一(ウ)」のように、山折りの左右を表裏で判別するようですが、読みやすさを優先し、現代でも主流な明治以降の表示形式にしています。

結びに
『遊廓島心中譚』は、私のデビュー作でもあります。
刊行後、多くの方に手に取っていただき、著者冥利に尽きる思いです。読者の皆さま、本当にありがとうございます。
拙著の舞台は幕末の横浜です。非常にセンシティブかつ複雑な問題が渦巻く題材や舞台設定であり、相応の覚悟が求められる題材だったと、執筆活動に邁進するなかで、改めて痛感しています。
にもかかわらず本作を無事に上梓できたのは、選考委員の先生方をはじめ、多くの方々が、この物語の可能性を信じてくださったおかげです。
本当に、多くの人の力を借りて、完成した作品だと思います。
「あなたは怖いもの知らずでこういうものをかいたのかもしれないが、この物語には、それだけの魅力があったから受賞した」
刊行後、選考委員のお一人から、そのようなありがたいお言葉を頂戴しました。あのとき受賞させてよかったと思っていただける作家になれるよう、引き続き精進してまいります。
今後とも応援のほど、よろしくお願い申し上げます。
二〇二五年八月吉日
霜月流
