私のひだりをかえして・・・ 第六話 「完結長編小説」
粛清開始
2014年6月8日 イモA・高木直哉の粛清
最初のターゲットはイモAこと、高木直哉だ。
(そういえば・・・)
私がナンバーワンとして働いている頃に、非常に穏やかで優しいながらも明らかに「その道の人だろう」という常連さんが居たのを思い出した。
(あのおじさまに相談してみよう)
と考え、私は久々にオーナーのところを訪れた。
『レイラちゃんじゃないの、久しぶりだねー。元気にしてた? しばらく見ない内になんだかすっかり素敵な女性になっちゃって。今の君なら自力でナンバーワン取ってしまいそうなくらい綺麗!』
ベタベタにお褒めに預かったところで本題を切り出す。
『オーナー、あのいつも派手な金のネックレスと薄い色の付いたサングラスを掛けていらっしゃった優しいおじさまってまだご来店くださっていますか?』
これを聞いたオーナーは少し表情をこわばらせて
『来てくれてはいるけれど、あの方はアッチの世界の方だからレイラちゃんは関わらない方がいいと思うよ、急にまたどうしたの?』
至極当然の心配をされたが、ちゃんと「こういう反応になるだろうな」と思い、対策は考えてある。
『あのですね、私の両親は小学校1年生の時に離婚していてお父さんの顔をほとんど覚えていないのです。でもこの歳になって「ここまで大きくなれました、ありがとう」って伝えたくてお役所や親類の話などを調べて回っている内に、あのお客様がお父さんのご親戚ではないかというところまで来たのです。ご本人にお伺いして人違いであればまた調べてみますが、可能性があるのであれば1度お伺いしたいのです・・・』
これを聞いたオーナーは
『まあ、そんなことがあって頑張って調べていたのね! もう涙が出てしまいそう・・・分かったわ、お名刺頂戴してあるから今電話してみるわね』
早々に電話を掛けてくれ、ピコピコと私を手招きして「電話代わって」の合図をした。発言もこういう仕草も昔から少し女性っぽいフェミニンなところのあるオーナーだが、女の子たちからは絶大な信頼を得ている人なので私自身も全く嫌な気がしない。
『おう、レイラちゃん久しぶりだなー! 今オーナーから聞いたけど何やら訳アリだって? 協力するよ、若い衆を店まで迎えに行かせるから5分ほど待っててくれるかい?』
あっさり面会を受諾してくれた。「若い衆」という言い回しからやはりソッチの方なのであろう。オーナーに買ってきた「焼き菓子詰め合わせ」を渡して丁寧にお礼を言い、私は若い男性が扉を開けてくれた高級外車の後部座席に乗り込んだ。
『お嬢さん、はじめまして。自分、若頭をやらせてもらっております南条と申します。「くれぐれもご無礼の無いように」と親父から申し付かっておりますので、車内の温度など気になられることは全てお伝えください』
非常に丁寧なご挨拶を戴き、逆にこちらが恐縮してしまい
『あ、はい! どうぞよろしくお願い申し上げます・・・』
なんておかしな返事をしてしまったが、タクシーよりも安全運転な車に揺られながら、私はお客様である「親父さん」の事を「優しいお金持ちのお客さん」くらいにしか知らないので南条さんに訊いてみる事にした。
『あの、南条さん。お伺いしたい事があるのですがよろしいでしょうか?』
彼はミラー越しに優しい笑みを浮かべながら
『ヘイ、親父には「お嬢さんとは挨拶以外口をきくな」ときつく言われているのですが・・・』
穏やかに返してくれた。
『私、お店で働いている時にお客様として非常に紳士に可愛がっていただいたのですが、失礼な事にお客様の事を何も知らないのです。ですからどのような方なのかというところだけでも教えて戴けないでしょうか?』
『承知しました、お嬢さんも知らないでお会いするのは怖いと思いますのでお話しします。その代わりお願いがございます、出来ましたら今からお話しすることは知らないふりをして親父とお話ししていただけると助かります。僕が怒られてしまいますので』
『もちろんです、ありがとうございます』
到着するまでの間に南条さんからいろいろ聞かせてもらった。やはりソッチ系の親分さんである事が分かっただけでも十分だ。大きな防犯カメラが沢山ついたお屋敷の前に車は止まり、南条さんが降りてきてドアを開けてくれた。
『ありがとうございます!』
挨拶をしてお屋敷の中に案内してもらうと、誰一人だらしない格好をしていない。すれ違う若い男の子たちが
『お疲れ様です!』
頭を下げて挨拶をしてくれる。
(これは私にではなく、若頭の南条さんに対しての挨拶なのね)
自分に言い聞かせながら奥へ奥へと進んでいき、大きな襖の前で彼は立ち止まって膝を折った。
『親父、お嬢さんをお連れ致しました!』
すると襖の奥から
『おう、ごくろうさん。お前は外してお嬢さんだけ入ってもらえ』
声と共に目の前の襖がゆっくり開いた。20帖ほどあるだろうか、大きなお部屋に高そうな美術品や掛け軸、刀などが緊張感のある間隔を保って飾られている床の間はとても美しい。それでいて間接照明の薄暗さでも分かるごちゃごちゃしていない立派なお部屋の一番奥、大きな机の向こうにニコニコしながら親父さんと言われる人は座っていた。
『よく来たね、いらっしゃい。この部屋に君のような女の子が入るのは初めてだよ、しかもあのレイラちゃんとは・・・久しぶりに会ったけれど随分大人の女性になったじゃないか、制服姿でも綺麗な女性だ。ささ、座って』
お店でお客様としていらっしゃっている時と変わらない穏やかな話口調で私に革張りのとんでもなく高そうなソファに座るよう、勧めてくれた。
『はい、失礼します』
スカートの後ろ側を内側に織り込むようにして浅く腰掛け、足を斜めに揃える事で低いソファでも下着が見えないよう気を付けた。1度大きく息を吐き背筋を伸ばして正面のソファに移動してくれた「いつもはお店に来て下さるお客様」に座ったままゆっくりと一礼した。
『おーおー、礼儀正しい子だな。やはりナンバーワンは普段でも所作が美しい、ワシの事はお店に行っていた時と同じように「まあさん」と呼んでくれればええ。オーナーから電話で「幼い頃に生き別れた親父さんを探していて、ワシが親戚筋かもしれないから話を聞きたい」と言われたが・・・本題はそこじゃなかろう?』
「何でもお見通しだぞ」と言わんばかりの優しくも瞳の奥にとんでもない闇を持っていらっしゃるかのその笑顔に、私は背中がゾクッとした。
『レイラちゃん、知っとるかの? 些細な喧嘩ならワシ等を使わんほうがええ、いくらレイラちゃんと言えども事と次第によっちゃあそれなりのものは請求しなきゃいけなくなるからね。若いもん1人臭い飯食わせるとなると、ワシは親父として面倒見てやらなければならないから、そいつのシノギとして請求しなければならないってことさ。言いたいことは理解できるかね?』
『はい、承知致しました。それでも私の大切な親友が一生を汚されるような酷い仕打ちを受けた事に対して、私が自ら手を汚す覚悟は出来ております。その上でお知恵を拝借させていただきたいとこの度お伺い致しました。オーナーに吐きました安い嘘に関しましてはその非礼をお詫び致します、申し訳ありませんでした』
怖かった・・・でも謝るべきことはちゃんと謝るべきだし、教えを請いに伺っているのだからまあさんにはちゃんと正しい情報を伝えなければならないと素直に思ったのだ。
『ほう、レイラちゃんがそこまで言うとは。一緒に考えようじゃないか、詳しく聞かせてくれるかね?』
そう言われ、私は美並の身に起こった事をすべて話し「自分が少年法で守られるうちに粛清を行いたい」という事まで綺麗さっぱり伝えた。ここで嘘をついたところで彼には全部見透かされてしまうという気持ちもあり、覚悟を決めて素直に全部聞いてもらった。
『なーるほどな、そりゃガキども取り返しのつかん事をやらかしたな。ワシらの世界でそんな事が分かったら、ドラム缶行きだな。あ、ドラム缶行きってのはあの世に送った後にドラム缶に入れて、その上から隙間の無いようにコンクリートを詰めて海に沈めるって事さ』
お茶を啜った後にまあさんは話を続けた。
『高校3年生と言えば立派な大人だ、ウチにはそれよりも若い奴らがゴロゴロおるが、そんな節操のない事をする奴は1人もいない。何より仁義に欠けた卑劣極まりない行為で、そんな奴は男とはいえないな。さてレイラちゃん、考えているその「粛清方法」とやらを聞かせてくれるかね? 「少年法で・・・」というからには自分の手で全員仏さんになってもらうつもりなのだろう? つまり、「どうしたら私にそれが実行できますか?」ってところを聞きたいのかな?』
本当にまあさんにはすべてお見通しだ、彼が口を開くたびに背筋が伸びる。
『はい、その通りです。まあさんが先ほど仰られたように、若い方々のお力をお借りするのではなく、あくまで私1人で少年法に守られている内に実行したいのです。いろいろな事を考えましたしネットで調べもしました。でも所詮は何の経験もない女子高生の戯言です、具体的にどうすれば確実に粛清が遂行できるのか結論が浮かばないのです』
そう言うとまあさんは少し厳しめの表情になり、
『方法を知りたい・・・と。それはワシらには手を汚させずに背中を押してほしいってことじゃな?』
『・・・はい、仰る通りです』
『でもそれを教えてしまったら、ワシらも殺人教唆になってしまう。そんなリスクがある中で、「タダ」というわけにはいかんな』
私に残されている貯金は1000万円と少し、この金額が妥当なのか足りないのかなんて分からない。まずは持っている通帳を見てもらおうとカバンをゴソゴソしていると、
『あのセイヤとかいう奴みたいに豪遊はできんが、1日だけでいいからお店に入って君はウーロン茶でいい。もう1度レイラちゃんと飲ませてくれないかなぁ、もちろん客として代金はお支払いするさ。それで手を打つってのはどうだい?』
全く想像もしていなかった言葉にあっけにとられていると、
『ほらほら、綺麗なお嬢さんがそんなにポカンと口を開けるもんじゃない。レイラちゃんがOKしてくれたらオーナーに電話してお店を貸し切りにしてもらうけど、どうするね?』
私は咄嗟に立ち上がり、まあさんに深々と頭を垂れ、
『はい、ありがとうございます。もちろん喜んでお受けさせていただきます、どうぞよろしくお願い申し上げます』
そう答えた。
ニッコリ笑ったまあさんは受話器を上げてオーナーに電話をし、
『今日は久しぶり、1日限りの親戚再会デーだ。2人で静かにやりたいから他の女の子も休みにさせて、貸し切りにしてくれんか?』
言いながら私にパチリとウィンクをしてみせて
『よし、衣装はお店にあるね。それじゃあ今から一緒にお店に行こう、帰りは21時にお家に送っていくからね』
ジャケットを羽織った。久しぶりの空間で久しぶりのお客様と懐かしくも残酷な会話を2人きり、笑顔でしながら私は21時に静かな高級車で自宅まで送ってもらった。
『まあさん、今日は本当にありがとうございました。変わらず紳士として私に接して下さり、今日という日を一生忘れません!』
お礼を言うとニッコリ笑って後部座席の真っ黒な窓は閉められ、静かに彼は去っていった。
翌日学校帰りにスーパーによって香りの強いジャスミンティーの3袋入りティーバッグと普通の口どけの良い甘めの板チョコを買って帰り、高木粛清の準備に取り掛かった。チョコは湯煎で溶かしてフルーツの香りがする虫よけ剤を大量に溶かし込み丁寧に練り上げた後、型に流し込んでいろいろな形に固めた。香りの強いジャスミンティーにはどこの家にもある界面活性剤入りの食器用洗剤を大量に混ぜ、水筒に入れた。午後早い時間にはゴクゴク飲めるぬるめの温度になるだろう。これで高木粛清の準備は整った。
その夜はドキドキしてなかなか寝つけなかったが、翌朝はちょっと寝不足な顔に軽くファンデと上気して見えるようチークを施して学校に行き、私をお嬢様と慕う女の子に
『お願い聞いてくれる? このお手紙を高木君に渡してほしいんだー』
と託した。今まで男の子に手紙なんか渡すタイプではなかったので託された女の子はちょっと驚いていたが、私からのお願いとあって喜んで引き受けてくれた。手紙には
『同じ学年の麗です。恥ずかしくてなかなか言い出せなかったのですが、ちょっとクールな高木君の事がずっと頭から離れなくて、恋しちゃったかもって思ってしまいました! 直哉君の事を思って一生懸命作ったチョコを食べてほしくって、でもみんながいるところだと恥ずかしいのでお昼休みが終わったあとの5時間目に授業さぼって屋上に来てください。私もさぼって屋上で待ってます!
追伸:このお手紙には秘密があるので、お会いした時にタネ明かししちゃいます、必ず持ってきてくださいね! 麗より』
書き、美並には屋上に行く前に
『ごめん、お母さんが家の鍵忘れちゃったって電話あって。お昼ご飯終わったら急いで行ってくるから私のふりして机で寝てて。先生になんか言われたら、ガラガラ声で「おなか痛いです・・・」って言ってくれればいいから』
アリバイ工作し、予定の時間に先回りして屋上に潜んでいた。授業中、誰も居ない屋上にノコノコやってきた高木はウロウロしながら手紙を握りしめて辺りを見回している。
「よし、手紙はもっている」それを確認して声を掛けた。
『直哉君、遅いよー。初デートで心臓ドキドキしながら待っていたのに、女の子待たすなんていけないんだゾ』
『あ、悪い。遅かったかな、オレ・・・。手紙読んだ、ありがとな。女の子からこんなこと言われるの、初めてでさ。オレもどうしていいのか・・・手,、どうかしたのか?』
私は指紋が付着しない様に、薄手の白い手袋を着用していた。
『うち、母子家庭なの。水仕事とかやるから荒れちゃって。でも綺麗な手になりたいから、ハンドクリーム塗って水を触らなくていい時にはこうやって手袋して保湿しているの』
『そうだったんだ、なんだか悪いこと聞いちまったかな。でもよ、クラスのお嬢様的存在の麗ちゃんから手紙を貰えるなんて、オレついてるな!』
照れ臭そうに下を向いた高木に対し、
(憑いているよ、死神様が。今のうちに祈っとけ、イモが!)
そう心の中で思いながらも、屋上にある防火水槽裏の人目につかない所に彼を誘導してチョコレートと水筒を取り出した。すかさず後ろを向いてフレーバーティーを慎重に、泡が立たないよう注ぎながら、
『一生懸命作ったんだよー。驚かせたいからちょっと後ろ向いたままで用意するからね・・・見ちゃダメだゾ』
背を向けたまま伝えると、手持ち無沙汰な彼は右手に持った手紙を落ち着きなくブラブラさせながら訊いてきた。
『そういえば、手紙の秘密ってなんだよ?』
私は振り向いて彼の手に持っている手紙を丁寧に両手で受け取り、
『あのね、実は甘いチョコを食べると見えてくる文字が書かれているの、私のチョコ食べてくれる? フレーバーティーも入れてきたんだ!』
悟られない様に精一杯の演技をした。
『もちろんだよ、オレ甘いもの大好きだから嬉しいよ!』
『本当に? 嬉しい!男の子らしくわんぱくに食べちゃってー』
『おう、いただきまーす!』
彼は五粒あった虫よけ剤入りのチョコレートを全部口に入れてモグモグし、
『そんなに一気に食べたら、のど詰まっちゃうからー』
紙コップに8分目まで入れた界面活性剤洗剤入りのジャスミンティーを手渡すと、彼はあっという間に飲み干した。
『わあ、すげーいい香り! 女の子が作ってくれるものってやっぱ、いい香りするんだなあー!』
(気持ちわるい! 言ってろ、イモが)
『・・・ウグッ!』
自分の胸を搔きむしり苦しみ始めた彼を見て、私はコップとチョコの容器、水筒と手紙を持ってきたバッグに押し込み、走って屋上の扉から校舎の内側に入ると鍵を閉めた。カギは屋内からはツマミを回すだけの作業なので簡単に開閉できるのだが、屋外からだと専用のカギが無いと開かない仕組みになっている。手袋と一緒に所持品を教室とは別の場所にある自分のロッカーに押し込み、
『遅くなって申し訳ありません。母がカギを失くしたというので家に帰っていました!』
急いで教室に戻った。本当は確実に絶命するところを確認したかったのだが、「こういうアリバイ工作は早く戻った方がいい」とまあさんから聞いていたので走って戻った。そして自分の席に行き、
『あれ、美並? 私の席で寝ぼけちゃってるの?』
何も知らない体で話し掛けると、
『え、うそ? ごめーん、私いつから寝てたんだろう?』
彼女もうまく話を合わせてくれた。席に着いて
(どうなったんだろう、うまくいったのかな・・・)
外を見ていると、目の前を縦に何かが横切ったのと同時に階下から悲鳴が聞こえた。慌てて窓から見下ろすと屋上から飛び降りて倒れている高木の姿がそこにはあった。
学校中騒然となり、全校生徒は急遽体育館に集められて先生たちは高木直哉のもとに集合となった。それから30分ほど経っただろうか、校内放送が体育館に鳴り響く。
『只今から今回の事故に対して警察の捜査が行われます。全校生徒は事故現場の裏側校門から集団下校するように。各クラスの学級委員は集団連絡網を使って全員の帰宅を確認し、帰宅後に学校に連絡する事。以上、繰り返し連絡します。只今から・・・』
粛清完了。
騒然とした校内で自分のことでもないのにパニックになる生徒もいる中で、私は学級委員としての役目をテキパキとこなし、クラス全員を裏側校門に誘導して帰宅を促した。全員を見送った後に自分のロッカーから証拠になるであろう所持品を手提げ袋に入れて自宅に持ち帰り、翌朝のゴミ収集に間に合うように「黒い汚物入れ袋」を二重にして入れた後に新聞紙で包んで30リットルのゴミ袋の中に忍ばせた。
それから1軒ずつクラスメートの家に電話をして帰宅の確認を取り、
『全員の帰宅を確認しました』
学校に学級委員として電話をした。次の日は事件の翌日という事で臨時休校、事件から2日後に再び全校生徒が体育館に集められ、校長先生から
『どんなにつらい悩みがあったとしても、皆さんは1人ではありません。決して自ら命を投げ出す事の無いように、先生たちやお友達に相談してください』
講話があった。
(自殺? そうよね、学校としては「毒を盛られて」なんて事が教育委員会に知られたらとんでもない事になるものね。そもそも素行の良くない生徒だったわけだし、そりゃ自殺で片づけたいわよね)
頭の中で思いながらも沈痛な面持ちで話を聞いていた。クラスに帰ってから
『ねえ、アイツって・・・』
美並から話し掛けられたが、
『とんでもない事になっちゃったね。私がお母さんのところに走っている間に変わった事は無かったの? 美並にとっては憎くて仕方がないヤツだっただろうけれど、こうなってしまったらもう忘れるしかないんじゃない? 天罰が下ったのよ。何があったのか知らないけど、何も死ななくても・・・』
またしても心の中では微笑みながらも、心が痛んだような表情を浮かべた。
時を同じくして「手紙を渡して欲しい」と頼んだ女の子からも
『あの麗さん。あのお手紙って・・・』
と訊かれた。自分が渡した人間が死んだ事で心の中にモヤモヤが残ってしまったのだろう、かわいそうに・・・
『あれはね、あいつらが貴女たちをイヤらしい目で見てコソコソ話しているのが聞こえたから、「女子に近づくな、ゲス!」って書いたのよ。心配かけてごめんね、でもそんな程度で自殺なんてしないでしょ』
そう答えた。
『そうだったんですね! ありがとうございます』
女の子はホッとした表情で軽くお辞儀をして自分の席に戻っていった。
(次はイモB。さてバレない様にどうやって粛清してやろうか)
2014年6月29日 イモB・杉原竜二の粛清
朝から今にも空が泣きそうな天気の中、私はいつもの様に折り畳み傘をカバンに入れて登校した。案の定、昼からこれでもかとバケツをひっくり返したような大雨で、校庭は瞬く間に水はけが追い付かなくなり湖面の様になった。今日も憂鬱な体育があるが、こうなると男子は体育館下の空間でドッジボールと筋トレ、女子は体育館でバドミントンなのでいささか気が楽なのだが、私の頭の中は「杉原の粛清方法」についてずっと考えている状態がもう何日も続いていた。授業中なのでマナーモードにして着信音が鳴らないようにしてあるスマホがブーンと震えた。
(また業者からの訳の分からないメールか?)
思いながらこっそり開いてみると送信者は「お母さん」だった。そしてメッセージには一言、
『カサ持って行ったの? 学校まで届けてあげようか』
メッセージをくれたのはありがたいのだけれど、
(こっちはスマホアプリという近代文化の先端技術を駆使してニュースを見て、雨が降ることくらい分かってるっつーの!)
思いながら返信することなく静かにスマホをしまって窓から大雨を見ていた。
それにしても近年まれにみる大雨だ、爆弾低気圧ってスマホニュースに書いてあったけれどまさかここまで降るとは。これだけの雨になると歩道を歩いていたとしても車道を走っている車から水を跳ね上げられることもあるし、履いているローファーも間違いなく中までビショビショになるだろう、想像しただけで憂鬱だ。
(たまには降ってもらわなきゃ困るけど、こんなに降らなくても・・・)
その時私の中に一つの考えが浮かんだ。
授業が6時間で終わり下校する時になって、私はカバンから敢えてカサを出さずに杉原を待っていた。途中何人かの女の子が
『麗さん、ご一緒にいかがですか? お家まで行きます!』
言ってくれたのだが
『ありがとう、でもごめんね。お迎えが来てくれるの、また明日ね!』
無難に彼女たちを送り出し、いつも高木と一緒に居た人物として終業後に連日のように職員室へ呼び出されて質問攻めにあっている杉原を私は静かに待った。小一時間待っただろうか、他に下校する生徒の姿は殆どなく、これだけの雨なので普段屋外で行われる部活も中止。私だけが下駄箱隣のすのこにポツンと立っている状態だ、そこに比較的小柄なターゲットがやってきた。私は気づかないふりをして昇降口を出たところのひさしの下で空を見ながら雨宿りをしていると、
『ちっ、こんなに降りやがってうっとおしい! 誰かの置き傘どっかにねーのかよ!』
イライラしながら物色しているが、他の人間も同じ発想をするほどの悪天候なだけにあるはずもない。諦めたのか、カバンを頭の上に掲げて雨よけにして走り出そうとする杉原に私は声を掛けた。
『あ、竜二君! こんな時間まで居残り?』
と明るく爽やかに、白々しく声を掛けた。
『お、麗ちゃんじゃん。そっちこそこんな時間まで何やってんのよ?』
『私はこの間の悲しい事件があったから、学級委員としてみんなが無事に帰るまで帰れないんだ。だから待ってたの!』
『そんな、オレの方が待たしちまってんじゃん! 申し訳なかった、オレなんか放っておいて帰ってくれて良かったのに・・・』
『ううん、そういうわけにもいかないよ。私には全員の帰りを見届けてからお家に帰って先生に「全員無事に帰りましたー」って連絡しなきゃいけないし、それに竜二君の事が心配で待ってたってのもあるかな・・・』
『え、何でオレが心配? ってか、なんでオレ?』
『もう、鈍いんだから! 女子にこれ以上言わせる気なの? 私カサ持ってるから一緒に帰ろ、私の家まで送ってくれたらそこからはこのカサ持って帰ってくれていいから。その代わりアイアイガサ記念日なんだから、ちゃんと返してよね』
少し照れた顔を作り、俯きながらそう言った。
『えと、あの、ありがと。ちゃんと麗ちゃんを送っていくし、明日は晴れると思うから乾かしてちゃんと返すよ。なんだか嬉しい日になったなぁ、雨の日もまんざら悪くねえかもしれねーな』
彼はそう言って私の折り畳み傘の中に一緒に入り、共に学校を後にした。
『友達が飛び降りなんて、ショックだよね。何か悩んでいたりとかしたのかな・・・』
『そんな様子は無かったんだけどな、前の日も一緒につるんで遊んだしよ。悩んでたっていえばアイツ馬鹿だったから、「留年するかもしれねえ」って言ってたくらいかな。まあ「留年したら学校辞める」なんてこと言ってたくらいだから、自分で死んじまうって考えにくいんだけどな。センコウらからは「俺らのグループでイジメがあったんじゃないか」とか「シンナー吸ってなかったか」とかいろいろ訊かれたけどよ、そんな事一切ねーし・・・ほら濡れるからもっとこっちにこいよ』
腰に手を回されて私は引き付けられた。
(ヤメロ、汚らわしい! 今すぐにでも粛清してやりたい・・・)
怒り狂いそうな自分を抑えて大通りを歩いていると、案の定、車道を走る車からの容赦ない水しぶきが我々を襲ってきた。
『もうヤダ・・・これ以上濡れちゃったら風邪ひいちゃいそう・・・。ねえ竜二君、少しだけ遠回りになっちゃうけれど、車の走らない田んぼの方のルートを歩いてもいい? 泥は多少付いちゃうけど、こんなに水しぶきを浴びなくても済むと思うんだ』
『ああ、麗とアイアイガサで帰れるんだったら少しくらいの遠回りなんて全然オッケーだよ!』
杉原は私の提案に即答でのってきた。
(オイ、誰に向かって「麗」なんて呼び捨てにしているんだ? もう彼氏気取りで勘違いしてやがるのか? この腐ったイモ野郎が!)
なんておくびにも出さず、私たちは車の通らない裏道を通って帰ることにした。地面はグチャグチャの茶色い土まみれで、用水路は増水してものすごい勢いで流れており、今にも溢れそうだ。ところどころ道路と用水路の境目が分からないくらい増水している場所もあるが、真ん中を歩いていれば大丈夫だろう。
『エ、ヤダ!』
私は杉原にくっついてみせた。イヤらしい顔で浮かれているのが手に取るように分かる。
『なになに、どうしたのよ?』
『道路の真ん中に大きなミミズが居るの、私・・・ああいうのすごい苦手で』
(単純なイモの心理状態なんて手に取るように分かる。「胸が触れたらどうしよう、もう少し押してくれないかな。そしたら胸が当たるのに・・・」なんてくだらない事を考えているに違いない)
徐々に道路の端っこへと肩をくっつけながら誘導していくも、思った通り少し私の前に出てわざと胸が当たる位置で軽く抵抗しているのが分かる。
『そうなの? ミミズなんていくらでもいるし、噛みつきゃしないよ。大丈夫、オレが着いているからもっとこっちにおいでよ』
今度は肩を抱かれて引き寄せられた。
(オレが着いているから大丈夫? あー、気持ち悪い! 気安く肩に触るんじゃねえ、イモが!)
そう思いながら下を向いて少しずつ道の端に寄せていく・・・そして「ここだ」と思った瞬間に私は空を見上げて指をさして声を発した。
『あれ、何?』
彼は私の肩を抱いていた腕を放して私から少し距離を取り、カサの外に出て雨の空を見上げる。その瞬間私はすぐ横にある泥と水が入り混じった幅50センチほどの用水路に向かって彼に体当たりをかました。それでなくても地面はぬかるんでおり滑りやすく、ただの水ではなく泥も流れているので小柄な男子高校生の身体を持っていくには大きすぎるほどの力だった。
『うわっ!』
足を滑らせたように濁流に落ちた杉原は、少しばかりの抵抗を見せてしがみ付いているものの、表情なんて泥をかぶって分かりはしない状態。制服が泥を含んで急激に重くなるうえに、ここは田んぼの用水路でありコンクリートのU字溝ではない。捕まろうにも何もなく、溶けて流れた泥の斜面しかないのだ。かろうじて引っかかるようにしている彼の手を私がカサでツンと突くと、声を上げる間もないほどの速度でイモBは流されていった。もちろんすぐに助かられては困るので、用水路の水が流れ込むマンホールの出来るだけ近くで彼を落とした。大雨が打ち付けるカサの音しか聞こえない状況で回りに人影はなく、持っていたカバンごと流されて行ってすぐにマンホールの中へ。幸い大雨で地面はぬかるんでおり、私たちの足跡もすぐに雨が消してくれる、絶好の粛清日和だ。
私は家に帰り緊急連絡網に沿って確認をし、
『杉原君だけが帰宅していないようです、お母様は「またどっかほっつき歩いているんじゃないの?」と仰っていました。その他の生徒は全員帰宅しております、報告を終わります』
学校に学級委員として連絡を入れた。その後、
「翌日になっても息子が帰らない」と捜索願が出ていたらしく、学校内でも
『だれか何か知らないか?』
先生から全校集会やクラス単位で聞き込みをされたが、
(もし「あの時一緒に校門を出たのを見た」と言われても、途中で別れたと言えば誰にも分からないだろう。何か言われるまでダンマリを通そう)
そう決めていた。幸い何も聞かれることはなく杉原の遺体は5日後に、はるか遠くの通学路から15キロメートル下流の岸で見つかった。
粛清完了。
あまりにもあっけなかったが今回は風雨が味方をしてくれたからこその粛清成功だった。この後にも美並から
『ねえ、麗ちゃん。アイツって・・・』
と話があったが、今度はこちらから
『美並、なんだか気味が悪いよね・・・。こんな短期間で2人って、もう訳が分からないよ』
こちらが怯えてみせる事で、彼女に心配や疑念を持たせる事の無いように配慮した。
次なるターゲットはイモCこと大竹真也なのだが、ちょっとタチの悪い事にこいつは図体がでかい。例えるならば、用水路の時の様に私が体当たりしても逆にはじき返されてしまうか、受け止められてしまうだろう。とはいえ高木の様な毒殺を行っては、流石の学校や警察と言えども捜査に動き出すに違いない。毒も使えず体格でも敵わない大きな男を何とかする方法・・・
私の中に「人を殺めるという快楽」は無い、逆に「殺めてしまった」という良心の呵責もない。ただ淡々粛々と粛清を行っていくのみ、そこに感情というものは一切なく
(美並を傷つけたイモを処分するだけ、生ごみを掃除するだけ)
である。
昼休みに指定席から窓の外を見ていると、グラウンドの反対側にある体育館倉庫の裏からうっすら煙が上っているのが見えた。恐らくイモどもがタバコを吸っているのだろう、これは珍しい事ではなく先生たちも報復を恐れて何も言えないのだ。とはいえ、
(仲間が相次いで謎の死を遂げたのだから大竹とその悪そうな友人たちが何かしらの話をしているに違いない)
そう踏んだ私は少しリスクを感じながらも体育倉庫の裏に足を運んだ。
突然現れたお嬢様の登場に大竹ら3人は急いで隠すようにタバコを消し、
『なんだ麗ちゃんかよ、びっくりしたぜ。学級委員だからってチクったらただじゃ済まねーぞ』
私を脅しにかかってきた。もう4人殺している私に恐怖心は全くなく、
『先生になんて言わないわ。言ったら私が生徒指導室に呼び出されて「あーでもないこーでもない」と長時間拘束されて質問攻めにあうんでしょ? タバコくらいの事でそんなのご免だわ!』
その言葉を聞いた彼らは
『へえ、学級委員のお嬢様が聞き訳がいいじゃんか! じゃあ何でここに来たんだ? 俺たちにかわいがってもらいに来たのか?』
無粋な汚らしい笑いを浮かべていた。
『それは遠慮させていただくわ。ただ気になったのよ、いつもくっついている貴方たちの中から2人も死人が出ているのよ? 学級委員として素行が悪い悪くない以前に同じ人間としてメンタルが大丈夫かなって考えていたの。そしたら私の座っているところから煙が見えたから、貴方たちはここに居るんじゃないかなって思って来てみたらビンゴだったってわけ』
それを聞いた大竹は
『なるほどな、いい線ついているぜ。今ちょうどその話をしていたところだ、ただ1つ疑問があるんだがよう? 何でここにオレたちが居るんじゃねえかって思ったんだ?』
この質問が来るとは思っていなかったので流石に私も動揺しかけたところに、私にとっては援護射撃となる追っかけ質問が飛んできた。
『学級委員だからお前が見てこいってセンコウから言われたわけじゃあるめぇな?』
これは私の動揺を隠すにはもってこいの言葉だった。
『貴方たち馬鹿ね、面倒くさいから先生に言ったりしないってさっき言ったでしょ? それに、高3最強の貴方たちに混ざって一緒にタバコを吸えるような根性の座った人間が、この学校にいるわけ?』
『あっはっはっは、そりゃそうだ! 流石学級委員の麗お嬢様、分かっていらっしゃる!』
身体の大きい大竹は大声で笑いながら次のタバコに火をつけ、
『おまえ、いろんな意味で頭いいな。あの2人が死んじまったのは確かに気味が悪いけどよう、もし誰かが殺ったんだとしたら容赦しねえから何か情報があったら教えてくれ。それとオレたちをチクらねえ事と学級委員として心配してくれた事には感謝するから、なんか困りごとがあったら言ってくれ』
えらく上からの目線で言われたことに少々苛立ちながらも
『そうね、私も気持ち悪いから何か分かったら伝えるから、その時はしっかり片づけてくれると助かるわ。何より学級委員っていうだけで先生たちから結構キツく当たられるのよ、もう勘弁してほしいわ。じゃあ、髪に匂いが着いたら嫌だから私は教室に戻るわね』
体育館倉庫裏から私は離れた。一瞬とはいえ動揺した、心臓がドキドキしている。
(こんな事でどうする、しっかりしなさい麗!)
自分に言い聞かせながら何事も無かったかのように席に戻り、フワフワ浮かぶ雲を見ながら、再び大竹の粛清について考えていた。
(そういえば、バイトしているとか何とか言ってたっけ・・・)
そんな話を思い出し、直接誰かに訊くと足が着いてしまう可能性があるのでこっそりと情報を集めてみたところ、「街のラーメン屋さんでバイトしており、店主からの信頼も厚く代行まで任されるようになっている」という事を3日間掛けて収集した。何にしろ足が着かないことが第一なので、私は全く知らないふりをしてお客さんの少ない時間で彼がシフトに入っている日に友達と店を訪れる事にした。
2014年9月24日
『ねね、今日寒いからラーメン食べたくない?』
『ええ? 麗さんってラーメンなんて食べるんですか?』
ラーメンは私の大好物で、インスタントの「背油たっぷり豚骨ラーメン」を買って帰って食べるほど大好きだ。だがここでの私はお嬢様、
『うん。あまり食べた事ないんだけれど、すごく美味しいお店があるって先生から聞いたら食べたくなっちゃった! でも女の子1人ではちょっと敷居が高いから、女の子3人くらいで一緒に行ってくれないかな? もちろんご馳走するよ!』
クラスの中で女子選抜じゃんけんタイムが始まった、みんなガチだ。「絶対に自分が麗さんと行くんだ!」とめちゃめちゃ気合が入っている。本当は美並を誘ってあげたかったが、何か感づかれると困るので今回は彼女のいない時間に声を掛けた次第だ。勝ち残った4人の内、あと1人をふるい落とさなければならないという緊張した場面になった時、その1人の中の1人が私の方を向いて
『麗さん・・・私たち仲良しなので、お金払いますから4人じゃだめですか』
涙を浮かべて話し掛けてきた。
(もう、これだから女の子は純粋でかわいい!)
『うん、じゃあ5人で一緒に行ってくれる? 私が誘ったんだからちゃんと私にお支払いさせてね! あとは・・・餃子も付けちゃう!』
キャーキャーという黄色い声援に包まれたかと思うと、今度は4人が肩を寄せ合って嬉し泣きをしている。
(ラーメンの味がどうこうではなく、「私と一緒に行くことが出来る」というだけでこんなに盛り上がって純粋に喜んでくれるとは、堪らなくいじらしくて可愛らしい。「えー、女だけ?」なんて言っているイモどもとは大違いだ)
「アイドルタイムの14時くらいはいつもお客さんが居ないらしい」という情報もしっかり押さえ、大竹がその時にバイトに入っている事もしっかり押さえ、女の子5人でキャッキャと入店すると
『へい、いらっしゃ・・・お前ら! なんで知ってるんだ、何で来た?』
のっけから捲し立てられ、女の子たちは固まってしまった。
『え、何? ここのお店って真一君のお父さんのお店なの? 先生から「うまいラーメン屋があるぞ」って聞いて初めて来たんだけど・・・ご迷惑なら帰るわね』
冷たく言い放つと
『まったまった、いらっしゃい! せっかく来たんだからオレのラーメン食べてってくれよ、悪かったよ、今オレ1人だから餃子もサービスするからよ』
返ってきた。
(全く、単純極まりないわね・・・)
やがてテーブルに配膳されたラーメンは見るからにこってりとした家系ラーメンだ。全員分がきちんと同時に出来上がって、まもなく餃子も揃えてくれたあたり、調理の段取りも良く餃子の焼き具合からしても腕は確かと見える。
1口食べる。うん、背油たっぷりで私好みの味! 「油控えめ」とかカロリーを気にしてオーダーしなくて良かった、やっぱり味を知るには最初はベーシックよね。こんなタイミングで来たにしてはかなり及第点ともいえる、そして餃子も美味しい。
(こんなに美味しいのにもったいない・・・)
5人とも満足してお勘定をしようと財布を取り出すと、
『今日はみんなを驚かせちまったし、失礼な事を言った。ごめん! お代はいいからまた来てくれると、オレ嬉しいかな・・・』
日頃のヤンキー姿からは想像できないほどの、何とも好青年ぶりではないか。
『えー、でもなんだか申し訳ない・・・』
『いや、いいんだ。オレが失礼な事言っちまったから・・・美味そうに食べてくれる姿見てたら嬉しくってさ、良かったらまた来てくれよ!』
『じゃあ、今度は女の子10人連れてきちゃうかも?』
『10人? ま、まかせとけ! 喜んでくれるんなら何人でもいい!』
(もったいないなぁ、大竹じゃなかったら普通に通ってやったのに)
『じゃあ、みんなでせーの、ごちそうさまでした!』
『おう、来てくれてありがとうな!』
店を出てから一つ目の曲がり角を私たちが曲がるまで、彼は外に出てきてブンブン手を振っていた。
『麗さん、美味しかったですね! ごちそうさまでした』
そう言う女の子に
『今日は大竹君にご馳走になったのよ。みんな一緒に来てくれてありがとう!』
私は微笑んで見せた。完全犯罪を企てるために私はその後も何人かの女の子を引き連れてお店に通い、彼のシフトやお客様が完全にいなくなるであろう時間をメモに書き記していき、「水曜日の14時頃、お客さんが誰もいなくなり彼1人で留守番をする確率が高い」という結論にまでたどり着いた。
(まさかテスト期間中の早帰りできるこのタイミングでこんな貴重なデータが得られるとは・・・)
大体の計画構想は出来ているものの、問題があるとすれば炭水化物の摂取率が高すぎて体重が増えてしまった事だ。これは朝食抜きで夕食はスムージーとサラダチキン、そしてウォーキングと筋トレが必須なレベルだ。
次に遂行したのは彼が居ない時間に店舗を訪れて店主と仲良くなる事。これをやっておかないと厨房内機器の状態が分からないのと、彼にバースデーサプライズを仕掛けたい旨を伝えて協力者になってもらう事、そしてもし厨房にある機器が私の居たお店と同じものであれば・・・細工が必要なのだ。
この店はワンオペ「ワンオペレーション=1人でお店を運営する事」のようで、客席はテーブル席がなくカウンターしかない。昼にも来たが・・・いろいろ準備もあるので、ここは彼のいないこの時間に来ておかなければならなかった。正直、1日2回のラーメンはキツイ。
『へい、らっしゃい!』
ご主人の威勢の良い声、頭はツルツルスキンヘッドにタオルをねじったものでハチマキの様にしている。
『あの・・・女の子1人でも大丈夫ですか?』
私は白々しくおどおどした様子で聞いてみた、もちろん他にお客さんが居ないことは確認した上で入店している。
『おう、もちろんだ! お嬢さん1人なら餃子サービスしちゃうから、気にせず座ってくんな。ウチの餃子は美味いんだぜ』
この男性から嫌らしさは全く感じない、職人として誇りをもってお店を経営していらっしゃるのであろう。
『わあ、ありがとうございます! えっとじゃあ、豚骨ラーメン大盛りでお願いします!』
(やってしまった。嫌らしさのある男性は平気で跳ねのける私だが、危険性の全く感じない人に対してはつい気が大きくなってしまうのだ。大盛りって・・・昼も食べているのについ口から出てしまった)
しかしこの「大盛り」がこの後大きく展開を好転させることになる。
『お嬢ちゃん、大盛りときたか! いいねえ、気に入った! 今日はおっちゃんがご馳走するよ!』
(これは気に入られた、さっそくチャンス到来だ!)
『あの、大将・・・御昼間にお店を任されている大竹君ってご親戚か何かですか?』
麺を湯がきながらくるりと振り返り、1本抜けた前歯を見せながら満面の笑みで彼は答えた。
『いやあ、親戚とかじゃねーけどよ。バイトしたいって言うから「ウチでラーメン作らせるとなったら厳しいぞ!」って厳しく教えたんだけど、アイツなかなか筋が良くってな。なにお嬢ちゃん、アイツの彼女?』
吹き出しそうになった口の中の水を懸命に堪えて、
『いや、まだ彼女とかになっていないんですけど。明日彼の誕生日なので、もし大将のお許しを戴けるのでしたらアイスクリームケーキを冷凍庫の隅っこにでも置かせていただいて、彼が1人の時に「ハッピーバースデー!」ってやったら喜んでくれるかな・・・なんて考えまして。あ、大事なお店の備品なのに・・・ごめんなさい!』
実際そこまで考えていたわけではないがスラスラと口から出てきたので、今この瞬間をもってこの計画に決定した。
『おー、そいつはいいなぁ! お嬢ちゃんにそんなことしてもらったら、アイツも喜ぶだろう! 冷凍庫使ってくれていいよ、歩いて入れるでっかい業務用のウォークインフリーザーっていうんだけどさ、上の方の隅っこに置いておけばアイツも気づかんだろう』
『ありがとうございます! じゃあ、大将のラーメンと餃子をご馳走になったらすぐ持ってきますので、後ほどまたお邪魔してもいいですか?』
『ああ、全く問題ねえ。青春っていいねえ・・・』
そんなこんな話をしながら、流石に豚骨ラーメン大盛りと餃子はきつい。でもご厚意だし計画遂行に支障をきたすわけにもいかないので、根性でスープまで飲み干し、
『ごちそうさまでした、行ってきます!』
私は急いで家に取りに帰った。今回粛清のカギになるであろうキーワード的な存在、それが「バースデーシールの貼られたケーキが入っていると思わせる小箱の中に、ドライアイスが沢山入れられたもの」だ。ケーキやアイスなど証拠が残ってしまうものは避けなければならない、ドライアイスであれば気化して無くなってしまうので証拠品にはならないだろう。恐らく粛清が終わった頃には空っぽの箱が残っているだけだ。
あらかじめ用意しておいたドライアイスだが、通常冷凍庫の温度では気化してしまうため、発泡スチロールの入れ物に大量に準備し保管してある。アイスクリーム店で
『すみません、帰るまでに用事があって5時間以上は掛かるのでドライアイス沢山下さい!』
お願いして貰った物だ。これを小箱の中に入れてアイスケーキくらいの重さになるようにする。あとはこれを大将に渡して、お店の中の業務用冷凍庫の隅っこに置いてもらえばOK。大将も背が大きいので、見つけにくい上の奥の方に置いてもらえるだろう。問題はもう一つのクリアしなければならない課題だ。お店の冷凍庫に細工を施さなければならないのだが、どのタイミングで? 私にとって一番ありがたいシチュエーションは、
(私が戻った時にお客様がいらっしゃって大将がラーメンを作っている状態、大将がラーメンに向き合っている間に細工を施すことが出来れば最高だ。しかし、それでなくてもお客さんの少ないこのお店で、丁度良くそんな偶然が起きるだろうか・・・いや、起きないのならば起こせばいい。私はまだ美並を誘っていないのだから、今から呼び出して食べてもらう分には何の問題もない。彼女にお客さんになってもらおう!)
私は美並に電話を掛け、
『あ、ごめんね! ここのところ他の女の子と一緒に、美味しいって評判のラーメン屋さんに通ってるの。でも一番仲良しの美並とはまだ行ってないからどうかなって思って・・・本当? じゃあ待ってる! 場所は・・・』
電話を切って小箱の中に入るだけ沢山のドライアイスを詰め込み、いつもの白い手袋をはめて私はお店に向かった。お店の前に美並が待っていたので
『ごめんね、お待たせ。すっごく美味しいの! 私さっきご馳走になったところなの!』
いくぶん大袈裟にキャッキャと騒いでみせると、
『え? 麗ちゃん、食べ終わったのに呼んでくれたの?』
至極当然の質問が彼女から返ってきた。
(それはそうだ、明らかに不自然だ。「一緒に食べよう」ならまだ分かるが、食べ終わった後に「美味しいの!」は不自然すぎる)
言葉に詰まった・・・その時、
『おお、それか? よしよし、1番上の段の隅っこに置いてやろう。あれ? かわいいお嬢ちゃんがもう1人増えてねえか?』
(大将、グッドタイミング!)
聊か声が上ずりながら、
『大将が大盛りサービスしてくれて、餃子までご馳走してくれて凄く美味しかったし嬉しかったんです! この子は私の大切なお友達で美並っていうんですが、ぜひ食べてもらいたくって。この子の分はちゃんとお代金お支払いしますから』
その声を遮るように、
『くうー! 嬉しいこと言ってくれるぜ。よし、お嬢ちゃんにも餃子サービスだ! ここで女の子に支払いをさせたとあっちゃあ男じゃねえ。お、手袋どうしたんだい?』
説明しようとすると、美並が口を開いた。
『女の子は手がガサガサになるので、ハンドクリームを塗って手袋をしている子が多いんです。私もさすがにお箸をもって戴く時には外しますけれど』
手袋をはめた両手を見せた。美並はアカギレがひどく、いつも綿のサラッとした手袋をしていたのだった。
『おっちゃん何にも知らなくていけねえや、だからさっき食べてる時は手袋付けていなかったんだな。年頃の女の子だもんな、手荒れは気になるわな!』
ウキウキ厨房に入っていった。美並と一緒にカウンターに座ると、箱を冷凍庫にしまった大将がルンルンと鼻歌を歌いながら、私にはウーロン茶、美並にはお水を出してくれた。そして麺をお湯に入れた・・・
(今しかない、今を逃したらもう2度とチャンスは無い)
私は大将に話しかけた。
『大将ごめんなさい! メッセージを書いて箱にくっつけるの忘れちゃったので、もしご迷惑でなかったら冷凍庫の中から私取ってきますのでお邪魔できませんか? 本当にごめんなさい!』
『ああ、構わねえけれど、お嬢ちゃんじゃ届かねえ所に置いちまったから取ってやるよ』
マズイマズイマズイ、これでは細工どころではない。
『いえ、あの。書くところ恥ずかしいので・・・』
そう言うと大将はツルツルの頭を触って
『あーあー、そういうことか! こりゃ乙女心が分かってなくていけねえや。じゃあ手元に降ろしてあげるから、冷凍庫の前で書くといい。青春だねー』
私を冷凍庫前まで連れて行ってくれて、もの凄く上の方の奥から箱を取ってくれた。冷凍庫の構造は在籍していた店で熟知している、外側からはノブのようなもので引き戸として開閉できるのだが、万が一中に閉じ込められてしまった時のために、プッシュ式の非常用開閉装置が着いている。これを取り外してしまえば何の問題も無いのだが、今この瞬間に取り外してしまうと大将に気づかれてしまう。非常用開閉装置は判り易く真っ赤な構造で、見た目にそれが無いと違和感を必ず覚えるほどの大きさなのだから。大将が箱を取ってくれて麺を湯がきに行っている中、左にグルグル回すと外れてしまう非常用開閉装置を1~2回転すれば取れるように緩めて、庫外にある温度調節装置の場所も確認して、
『たーいしょう、ありがとうございました!』
再びパッと見では分からない、最上段の隅っこに隠してもらった。
翌日はテスト休みで大将が大好きな釣りに深夜から出発し、大竹が開店準備から1日お店の番をする事は大盛りラーメンを食べながら聞いていたので、本当に「準備をするなら今しかなく、決行するには明日しかない」というタイミングだったのだ。とはいえ、恐らく冷凍庫の中のドライアイスは翌朝までに気化して無くなってしまうだろう。でもいいのだ、大将が持った時にひんやりしてある程度重さがあり、翌日何の証拠も出てこない方法としてドライアイスを考えたのだから。
『毎朝4時半からスープの仕込みでな、アイツもそこまで出来るようになったから助かるわ~』
店内には私の計画など露ほども知らない、明日の休みを楽しみにしている陽気な大将の声が響いていた。
2014年9月25日 イモC・大竹真一の粛清
2日連続のテスト休みで大将が釣りに行き、大竹が店を任される本日が粛清の日となるのである。
早起きしてまだ暗い中、彼が来るのを待ち伏せていた。なぜ待ち伏せる必要があったのか、それは犯行に使える時間が少なく、なおかつ誰の目にもつきにくい時間が望ましいと考えたからだ。シャッターをガラガラと開け、従業員専用裏口から中に入っていく。今回のミッションは結果こそ簡単なものの、そのプロセスは一つ一つが重要で難解なだけに頭の中で何度もシミュレーションを繰り返しながらその時が来るのを待っていた。業務用エプロンを着けた大竹が、お客様が座るカウンター部分の照明をつけないまま、コンロに火をつける。この瞬間を待っていた私は当然まだ鍵の開けられていないお客様用入り口のドアをコンコンと叩き、彼がこちらを見つけてカギを開けてくれるのをソワソワと待った。
『え! 麗さん。どうした、何かあったのか? 寒いから中入れよ』
心配そうに私の顔を見る。たった1度の気の迷いから欲望に負けてあんな事をしなければ、結構男気もあり優しい男なのだがもったいない。
(コイツも美並を傷つけた・・・)
『ほら今日って真一君の誕生日じゃない? 今日は1人でお店を任されるって昨日夕方食べに来た時、大将に聞いたよ。で、直接お願いしてちゃんと許可もらって、手作りアイスケーキを昨日の夜からお店の冷凍庫の中で保管してもらっているの。大将ってば、「大盛りにしてくれて餃子もサービスだ、そしてご馳走しちゃう!」って。ありがたくご馳走になったけれど、あんな事ばかりしていたらお店つぶれちゃうよー』
ニコニコ笑顔を作りながら畳みかけるように話すと、事情は理解できても心情は理解できていない彼が口を開いた。
『そうなんだ、大将はお客さんと喋るのが好きだからな。そんなに1日の来店数多くないし、嬉しかったんだろ。それにしても、何でお前がオレの誕生日にケーキをくれるんだ?』
きょとんとしている彼に
『もう、男子って本当に鈍感! なんでこういう女の子の気持ちが分からないかなぁ? 誕生日に本人に黙ってサプライズで手作りケーキを準備する、ここまで言えば分かる? もう!』
照れたような少し拗ねたような雰囲気を作り、下を向いて彼の次なる発言を待っていた。
『あ、ああ。そういう事か! それは悪かった、申し訳ねえ! あの・・・オレどうしたらいいかな』
(今更ながら本当に勿体ない。不器用で鈍感、でもこれだけ実直で男気のあるヤツがなんで美並にあんなことを・・・あんな事がなければこの人は誰かの騎士になれたであろうに。待て、迷うな! 美並が名前を挙げたのだから間違いないのだ。私は粛々と自らに課した責務を全うするだけだ)
『大将から「中に入っていいぞ」って言ってもらっているから取って来るね!』
彼の横をすり抜けて私は業務用冷凍庫に向かい、モワーンと白い冷気が出てくる重い扉を開けた。昨日確認したから箱が置かれている場所は分かるし、中のドライアイスは一晩経過したので恐らく跡形もなく気化して消えているだろう。従ってあそこにあるのは空っぽの、大将の指紋しか付いていないただの小箱だ。
(まあそれはいいとして、閉じ込められた時に中から開けられる用の「プッシュ式の非常用開閉装置」は昨日細工をしたように動くのか、簡単に取り外せるのかも確認しておかなければならない)
触ってみると簡単に取り外しは出来そうだ、グラグラしている。私はそれを取り外して冷凍庫の外にある製麺所の箱の中に隠し、冷却つまみを最低温度のマイナス50度まで下げて
『真一くーん! 大将が奥の方に置いちゃって取れないから取ってー!』
冷凍庫の中から呼んだ。スープの仕込みは大変な作業と見える、彼はTシャツ姿で走ってきて私が指さす方向に見える小さな小箱を見つけて、業務用フリーザーの一番奥に入っていった。私はサッと外に出て、外から冷凍庫を静かに閉める。これでもう中から脱出する術は無し、中の温度はマイナス50度設定、そして大竹はTシャツ1枚。
(恐らく2時間と持たないだろう・・・)
そう思いながらも何らかの方法で彼が出てくる可能性も否定できないし、大声を出して外の人に助けを求めた時に聞こえてしまうかもしれない、これらを考慮して私は15分ほど冷凍庫扉の前で耳を澄ましていると、やがて中からくぐもった声が聞こえてきた。
『あれ、閉まってんじゃん。やべ! なんで非常用のスイッチねえんだよ。おーい、外からじゃねえと開かねえから開けてくれよー!』
開けるわけがない、閉じ込めるのが目的なのだから。
『ちょ、ちょっと洒落にならねえって! そこにいるんだろ? おーい!』
叫びながらドン! ドン! と扉に体当たりしている音が聞こえるが、業務用冷凍庫の作りはそんなに軟なものではない。
『さびーよー、さびーよー! 何だよ、何でこうなったんだよ! 畜生!』
(自分の行いを胸に手を当てて聞いてみるといい・・・)
暴れるのを観念したのか、ぶつぶつ言っている声だけしか聞こえなくなった10分後、私は忘れものが無いのを確認して店を後にした。現在の時刻は午前5時、まだ外は真っ暗であたりに人気もなく閑散としている。家を出る時に浴槽にお湯を入れておいたので、私は温かいお湯に浸かってゆっくりした後にもう一寝入りする。そしてアリバイ工作の為にこの日は家から1歩も出ずに「風邪をひいて寝ていた」という事にするつもりだ。
その日の夕方パトカーなのか救急車なのか、サイレンがけたたましく鳴り響いていた時間があった。あれから10時間以上経過しているのだから・・・何らかの事件なのだろう、その情報は学校から学級委員としての私への電話ではっきりする事となる。
『3年2組の生徒大竹がアルバイト先で、遺体で発見された! 緊急連絡網を使って他の生徒の安否を確認してくれないか?』
というものだったが、テスト休みの夕方に各家庭に電話をしたところで生徒の安否なんか確認できるわけがない、各々遊びに出ている者や塾に行っている者など好き勝手しているだろう。
『先生、申し訳ありません・・・朝から熱があって寝ておりまして、今回はご容赦願えませんでしょうか、コホコホ』
ガラガラとした声を演じて応答すると、
『そうだったのか、起こしてすまなかった。このクラスは今回職員が電話をするから、お大事にしてください』
アリバイ工作も先生への信用も同時に取り付けた私は、家でもネットサーフィンをしながらSNSで恋のお悩み相談的な事をして、ゆっくりとくつろいだ。
粛清完了。
今回の案件は校内や登下校の最中ではなく「アルバイト中に起こった事件」として学校の隠蔽はなく警察が完全に事件として動くことになった。そりゃそうだ、この短期間に生徒が3人も死んでいるのだから流石に動くだろう。もちろん私の所にも警察は事情聴取に来た、大将にお願いをしたり実際に私も関与していると疑われても仕方がない状況なのだから。
『君はこの時間、どこで何をしていたのかね?』
『熱を出してのどがガラガラになり、自宅で寝ておりました。先生からの電話で起き、体調不良な旨を伝えて緊急連絡網はお願いしました』
『店主の話だと、被害者にサプライズでアイスケーキを準備すべく前日に店を訪れていたと聞いているが?』
『はい、それは友達の美並も一緒でしたし、大将さんも快く受けてくださいました。私、真一君の事好きだったからお誕生日に喜んでもらおうと思ったのに、何でこんなことに・・・』
『とても残念なことだね、被害者のポケットから丸く握りつぶされた白い紙が出てきた。「それは君がお願いしたもので間違いない」と店主も言っていたよ。中身は綺麗に食べたみたいだ、食物的な物は何も残っていなかった』
『彼、食べてくれたんですね・・・』
『遺体の状態から死因は凍死、「君の差し入れたアイスケーキによる毒殺ではないか」という疑いも出たが、司法解剖の結果何も出てこなかった。もちろんアイスケーキらしきものも胃の中からは出てこなかったわけだが、これについては何か知らないか?』
『そんな・・・私ちゃんと大将に渡しました「お願いします」って。そして大将が「サプライズだから見つからねえように」ってしまってくれたんです。ですから中身がどうなったのかは判りません・・・』
『そうか、辛い事を聞いてしまってすまなかった。君の言っている事は他の人に聞いた事と全く違っていない。ありがとうございました』
警察の人は帰っていった。このすぐ後に美並から電話があり、
『私に関わった人が次々と死んでいく、怖いよ! 私何にもしていないのに警察の人が聞き込みに来たよ!』
電話があった。
『美並、私の所にもさっき警察の人が来たよ。恐らくあのお店に行った女の子たちはみんな調査を受けていると思うけれど、私たち何もしていないじゃない? 疚しい事がないのに怖がる必要なんてないよ。警察の人も言ってたよ、「君の言っている事は他の人に聞いた事と全く違っていない」って。ってことは、美並も先生も大将もみんな同じことを言っているわけだから、大丈夫! 美並には私が着いているんだから安心して』
電話を切った。
残るは葵と撮影したと言われる兄だ。
(さて、どうしてやろうか・・・)
