川の街リュオーレの物語④ 小景(2) 早春の朝
戸を開けると、冷たい空気が体を包んだ。
まだ日が当たっていない道の端には、霜が降りている。
地面からのぞく小さな氷の柱を横目に、
ハルナギは緩やかな丘の小道を下り始めた。
吐く息が白い。
今日は、外套を着てこなかった。
ここしばらく、暖かい朝が続いていた。
木立を抜けると、北風が吹きつけてくる。
指と耳の先を凍えさせる、冬の名残だ。
羽織っていた肩掛けを首元に寄せ、
ハルナギは歩調を少し速めた。
もうすぐ、三月の満月になる。
今年は春の訪れが、少し遅いかもしれない。
それでも季節は進んでいる。
斜め前から体を照らす日の光は、
もう真冬の弱い光ではない。
歩き続けていると、体が少しずつ熱を帯びてきた。
丘の途中の畑では、
農家が切った木を束ねていた。
奥の方で燃やしているようだ。
空気に少し煙の匂いが混ざっている。
木切れを持った子どもたちが数人、
犬と一緒に声をあげて走り去っていった。
眼下に見えてきたセナーグ川には、
冬が帰ってきたかのように霧が立ち込めている。
西の橋を行き交う人の姿は、おぼろげにしか見えない。
懐に手を入れて、
ハルナギは紙の包みが入っていることを確かめた。
昨年の秋、西の山で採ってきた花の種だ。
山野草の中には、
寒さを越えて芽を出すものがある。
冬の間、小屋の入り口で寒気に当てておいた。
植えるのは、もう少し先になる。
でも、そろそろ渡しておこう。
花屋と、それからあの人へ。
昔、街の境界だったという石柱の脇を通り、
ハルナギは、石畳の道を歩いていった。
リュオーレの物語は、静かに続いていきます。
第1話の最後に、各話への道しるべを置いています。
