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【妄想ストーリー】 #1 HURRY GO ROUND

hideの楽曲『HURRY GO ROUND』の歌詞背景を独自の世界観と言葉で物語にした作品です。


どこからが始まりで、どこまでが終わりだったのか。
それを確かめる術は、とうの昔に失われていた。
広がるのは、いつからそこにあるのか分からない、手入れの行き届かない庭園。
かつては美しく舗装されていたはずの石畳は、今や深く張り巡らされた蔦の根によって押し上げられ、あちこちがひび割れている。
蔦は密かに、しかし確実に地中深くへ、そして過去の記憶が眠る地層へと根を広げていた。
「狂い咲く季節が止めど無く溢れる」
季節は順序を守ることなく、ただ無慈悲に、そして過剰に巡ってくる。
春が来て、夏が焦がし、秋が奪い、冬が凍てつかせる。
そのどれもが鮮やかすぎるがゆえに、この身をすり減らしていく。
同じような過ち、同じような別れ、同じような問いかけ。
それが幾度となく繰り返される。
まるで終わりのない遊園地の回るメリーゴーラウンド。
痛み忘れ巡り行く。
木製の小さな馬に跨がり、景色が同じ円を描いて流れていくのを見つめる。
速すぎて足元が覚束ないわけでも、遅すぎて退屈なわけでもない。
ただ、何度回っても、自分がどこへたどり着くべきなのか、その場所だけが見当たらない。
過去の記憶を足蹴にし、前へ前へと進もうとする。
悲しいわけではない。
涙を流す理由などとうに枯れ果てた。
けれど、胸の底から湧き上がるような嬉しさも、温もりもない。
ただ冷徹な時間が、音もなく過ぎ去っていくだけだった。
庭の片隅には、かつて誰かが植えたのだろう果樹があった。
その枝には、季節が巡るたびに芳しく、眩い香りを放つ実がたわわに実る。
それは完璧な美しさを備え、ただそこにあるだけで周囲の空気を圧倒するほどだった。
「ひとつ季節彩り、そっと枯れ落ちたとて」
どれほど鮮やかに世界を彩り、どれほど甘い香りで誰かを魅了したとしても、実はいつか必ず枝から離れ、地に落ちる。
地面に叩きつけられた果実はやがて形を失い、虫に食われ、土の養分へと還っていく。
それと同じように、この身もまた朽ち果てていくのだと、彼は知っていた。
蔦は絡まり、肉体は土に帰り、記憶の欠片さえも形をとどめなくなる。
それでも、悲観はなかった。
なぜなら、すべてが土に還ったその場所から、また新しい芽が顔を出すことを知っているからだ。
「また 花となるでしょう」
Like a merry-go-round & round
「また 春に会いましょう」
朽ち果てることは終わりではない。
それは次の輪廻への、必然のプロセスにすぎない。
巡り巡る車輪の音が、遠くで心地よく響いていた。
永遠に続くかと思われた螺旋の途中で、ふと、視界の端に何かが映り込んだ。
これまで、前を向いて走ることしか頭になく、ただ「過ぎ去る景色」として切り捨ててきたものたち。
足元に目をやると、そこにはあの日、あまりの速さに目を向ける余裕すらなかった小さな花々が咲いていた。
あの日見えなかった 愛でるべき花たち。
今、日だまりの中で首をかしげ、それでもやさしく微笑んでいる。
トゲがあり、泥をかぶり、風に揺れるごくありふれた花。
それは決して完璧な美しさではないかもしれない。
けれど、日だまりの中で首をかしげるその姿には、生きることへの純粋な肯定があった。
なぜ、もっと早く気づけなかったのだろう。
いや、気づけなかったのではない。
見ようとしなかったのだ。
傷つくことを恐れ、立ち止まることを拒み、ただ「生き延びる」ことだけに囚われていたからこそ、本当に愛でるべきものが見えなくなっていた。
花たちは、すべてを知っているかのように、ただ優しく微笑んでいた。
怒ることも、責めることもなく、ただそこに在るだけで、冷め切った心をじんわりと温めていく。
廻り廻るこま切れの記憶の奥で瞬く涙も雨も砂に呑み込まれて、記憶はいつも断片的だ。
あの日の笑顔も、誰かの声も、涙の塩気も、すべては細切れになり、砂漠のような広大な時間の流れの中に呑み込んでいく。
何もかもが風化していく世界。
それでも、彼の足は止まらない。
いや、止まることが許されない。
急ぎ廻れ、砕け果敢無く散るが故にも、今を待たずに まわれ Hurry merry-go-round。
生き溺れても。
たとえその身が砕け散ろうとも。
たとえ儚く散りゆく運命にあったとしても。
未来の救済を待つ必要なんてない。
今、この瞬間がどれほど不格好で、泥臭く、生き溺れるような苦しみに満ちていたとしても、構わない。
もっと速く。
もっと激しく。
この命の車輪を廻せ。
速度を上げたメリーゴーラウンドの視界の中で、景色がひとつに溶け合っていく。
痛みも、後悔も、かつての孤独も、すべてが鮮やかな色彩の渦へと変わる。
生きることは、溺れることに似ている。
息継ぎをする間もなく波に飲まれ、もがけばもがくほど深みにはまっていく。
それでも、水面から顔を出した瞬間に浴びる光のまぶしさを知っているから、人間はまた息を吸い込むのだ。
「また 春に会いましょう」
それは別れの言葉ではない。
巡り続けるこの世界のどこかで、また必ず同じ季節の、あるいは新しい命の横顔に出会うための約束。
狂い咲く季節の只中で、彼はふっと笑った。
痛みを知ったからこそ愛せるものがあり、終わりがあるからこそ輝く瞬間がある。
メリーゴーラウンドは止まらない。
まだ見ぬ景色と、愛おしい花たちへ向かって、車輪は今日も軽やかに、そして力強く廻り続けていく。
「また、春に会いましょう…」


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