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コストコ財務解剖①|インフレの強い味方。ファンを熱狂させる企業経営

食品流通業界の企業でCFOとして経営財務を担当している、流通の財務です。

普段から流通業界の方、個別株売買をされる方、財務部の方向けに、流通業界の財務分析を発信しています。
今回は個人的にも愛用している、会員制倉庫型小売の代表格であるコストコを取り上げます。身近な買い物体験を入り口に、財務諸表の数字へとつなげていく構成でお届けします。



はじめに

コストコは行ったことがありますか?

行ったことがある方、コストコへ行くと、つい予定以上に買ってしまいませんか……。私だけでしょうか。

休日に大きなカートを押しながら店内を歩く。試食を楽しみ、巨大なピザやケーキを眺め、買う予定ではなかったKirklandの商品までカートへ入れてしまう。そしてレジを通る頃には、最初に考えていた予算を大きく超えている。それでも、不思議と「また来たい」と思う。

この一連の体験は、偶然ではありません。会員制・大容量お手頃価格の戦略の裏には、日用品からプレミアム品までの買い物を楽しみ、また虜になっていく設計図があります。
米国・日本共にインフレで消費者の財布の紐が厳しくなっていますが、コストコは独自の戦略で着実な成長を遂げています。今回はその設計図を、財務の視点から解剖していきます。

まずは、コストコの財務諸表から印象的な数字をいくつか見てみます。

財務ハイライト

①売上高・営業利益率は右肩上がりで成長

Costcoの売上高は、長期にわたって安定的に成長しています。

売上高推移

  • 2023年:約2,420億ドル

  • 2024年:約2,545億ドル

  • 2025年:約2,752億ドル

営業利益推移

  • 2023年:約104億ドル

  • 2024年:約112億ドル

  • 2025年:約130億ドル

景気変動や競争環境の変化がある中でも、これほど安定して売上を伸ばし続けている小売企業は多くありません。

さらに、彼らの特徴的なモデルである年会費収入は53.23億ドルです。この金額が年々成長しており、前年比10.3%増加しました。営業利益104億ドルの約半分に相当する規模です。


②商品売上総利益率は約11%

一方で、コストコの2025年8月期(FY2025)の商品売上総利益率は驚異の11.12%でした。国内の食品スーパーと比べても極めて低い水準です。

参考までに他社と比較します。

・コストコ:11.12%
・Walmart:約24〜25%
・セブン&アイ(コンビニ事業):約30%前後

つまりCostcoは、意図的に利益を削って価格を下げている構造です。それにもかかわらず、営業利益率は他社と同水準の約4%を維持しています。

③販管費率は約9%

コストコの総収益に対する販管費率は約9.1%です。コストコは人件費を削っているわけではありません。比較的高い賃金を払いながら、この水準を実現しています。販管費とは売上と原価の後に来る費用です。

例えば対照的なビジネスモデルのセブン&アイの販管費は30.44%です。コンビニですから運用コストが高く、土地・建物の賃借料と減価償却費だけで、純売上高の約9.3%を占めます。これはCostcoの販管費全体とほぼ同じ水準です。さらに給与・福利厚生関連費が約8%、光熱費・店舗修繕費が約3.7%あります。

Costcoが一つ一つの費用を削っているからというより、少数SKU、大容量販売、簡素な倉庫、パレット陳列によって、1店舗当たりの売上を巨大化し、固定費を薄めているからです。

Walmart傘下のSam’s Clubも販管費率は約11%であり、倉庫型会員制という業態自体が低コストであることが分かります。CostcoはSam's Clubをも下回ります。店舗当たり売上や会員密度によって、Sam’s Clubよりさらに低い費用率を実現しています。



営業KPIハイライト

①独自の会員制度|Executive会員が売上の7割以上を占める

FY2025末の有料会員は8,100万人、うちExecutive会員は3,870万人(有料会員の47.8%)です。しかし、このExecutive会員だけで世界売上高の約73.6%を占めています。

②PB戦略|Kirklandは「安いのに利益率が高い」

コストコは年次報告書で、プライベートブランドKirkland Signatureについて、「ナショナルブランドより低価格で販売しながら、一般的にはより高い利益率を得られる」と説明しています(出典:Form 10-K)。

安いのに利益率が高い。この一見矛盾する仕組みは、コストコという会社を理解するうえで最も面白いポイントの一つです。

③店舗数914に対し、会員数はそれ以上のペースで増えている

FY2025末の全世界店舗数は914店(うち米国629店)です。
一方、有料会員数は2年間で14.1%増加し、店舗数の伸び(6.2%)を大きく上回っています。つまり店舗開店ではなく、店舗あたり会員数が増えている。


市場環境

米国内競合はほぼ2社、それでも競争は激しい

米国の会員制倉庫型小売市場は、コストコ、Sam's Club、BJ's Wholesale Clubの実質3社寡占です。売上規模で見ると、コストコが約6割を占める最大手ですが、Sam's ClubはEC売上23%増などデジタル面で急速に追い上げています。盤石に見えるコストコの優位は、本当に続くのか。
また、このインフレ化において継続成長ができるのか。


シリーズでフォーカスしていくこと

これらの数字は、それぞれ独立したものではありません。粗利益率、販管費率、Kirkland、会費、会員数、キャッシュフロー、競争環境——一見すると別々の話に見えるこれらの数字が、実は一本のストーリーでつながっています。

本シリーズでは、複数回に渡り、Costcoを深掘りしていきたいと思います。

第1部:粗利率11%でも儲かる理由
商品粗利益率と販管費率という、コストコの最も基本的な数字の裏側を、Walmartやセブン&アイとの比較を交えて読み解きます。

第2部:PB戦略と会員制度が生み出すフライホイール
プライベートブランドと年会費という、コストコの顧客体験を支える2つの仕組みが、財務面でどうつながっているかを整理します。あわせて、店舗数より会員数が伸びるというKPIの謎にも触れます。

第3部:稼いだキャッシュの使い道と、これからの競争
キャッシュフローから見た投資戦略と、Sam's Club・Amazon・Walmartとの競争環境を扱います。


おわりに

コストコは、安いから人気、郊外にあるから賃料が安い、で片付けてしまうとその本質を見失います。

身近な買い物の裏側には、世界最高水準ともいえる小売ビジネスモデルが隠れています。次回の第1部では、まず「なぜこんなに安いのに儲かるのか」という、最初の謎から見ていきます。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。もしお役に立てたら、スキ・フォローで応援していただけると励みになります。流通業界の決算・経営分析はこのマガジンで継続的に発信していますので、あわせて下記の記事もぜひご覧ください。

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