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茶の湯と古美術と歴史、そして駄洒落【数寄者の現代:前編】畠山美術館2-1 東京都港区

一言で美術といえども多くの分野があります。それぞれに独自のルールや序列そして確立された世界観があり、当然積み上げてきた歴史も。
過去の手法や流行を最先端のモノと融合し、新たな価値を創り出したり。
また異分野のエッセンスや歴史を組み合わせる事で、ちょっと複雑な世界を構築したり、あるいは複眼的な視点を獲得するキッカケにも。
ここ数年もてはやされているアート的思考にも、ベースにはそういった知識や経験が求められます(たぶん)。
何だか小難しくなってしまいましたが、今回の主役はそんな視点の人。
間違いないのは、新書を1冊読むだけではたどり着けない世界(たぶん)。


美術の世界でも見かけられるコラボ企画。個人的によく見るパターンは古い日本建築での現代アート展示やインスタレーション。正直その組み合わせに何らかの意味合いを感じた事はありません(かなり上から目線)。
古い日本建築の落ち着いた空間はやや薄暗い。視覚にやたらと訴えてくる現代アートではなく、陰翳礼賛的なモノの方が馴染む気がします。
ではそういう目線で組み合わされた古いモノと新しいモノなら・・・

荏原 畠山美術館

荏原製作所の創業者畠山一清はたけやま いっせい(即翁:1881-1971)は、茶の湯と能楽に傾倒し数寄者として知られた人。
血筋はなんと室町幕府の三管領家の1つ畠山氏の系譜で能登畠山氏。
彼が蒐集した古美術品約1,300点を収蔵・展示しているのが畠山美術館(旧畠山記念館)です。美術館の門には、畠山氏の巨大な「足利二つ引紋」。
即翁による厳選コレクションには国宝6点、重要文化財33点も。
美術館は2024年(開館60周年)に新館を増築してリニューアルオープン。
展示スペースが大幅に拡大されています。

入館料の支払いは、完全キャッシュレスに移行。
かつての昭和的な美術館からはジャンプし過ぎじゃないのと心配してしまいますが(通信エラーとか)、いずれ慣れてしまうのでしょう。

東京都港区白金台2-20-12

リニューアル後の展示でも、写真撮影は不可だった畠山美術館。
ただこの企画展ではOKという情報を得て、詳細を把握しないまま足を運んでみたのは「数寄者」の現代というタイトル。
美術館創設者と並んでその名前を連ねるのは杉本博司すぎもと ひろし(1948- )。
新館の設計も手掛けた人ですが、個人的にはオヤジギャグのアーティスト。

「数寄者」の現代 チラシ
2025年10月-12月 @畠山美術館

変わらない本館は数寄者の王道

本館(以前からの展示室)は即翁コレクション用の展示室。
期待に反して撮影不可。それでも新館エリアは撮影OK(一部不可)という棲み分けは分かり易く、そしてありがたい。

今回本館に展示されていたのは、かつて畠山即翁が催した茶会の再構築。
展示品には即翁の来客日記も。
そのラインナップで目を引くのは、
圜悟克勤えんご こくごん(1063-1135)
虚堂智愚きどうちぐ(1185-1269)
宗峰妙超しゅうほう みょうちょう(1282-1337)
一休宗純いっきゅう そうじゅん(1394-1481)
という面々の墨跡。揃えましたね。
ほとんどが重要文化財で、茶室の床の間に掛かっていれば崇められる方々。
トーハクでも彼らの品々を見かける機会は希少です。

また他の道具類には、
・古銅花入 杵の折
割高台わりこうだい茶碗(重要文化財)
・唐物肩衝茶入 銘 日野
個人的に興味深かったのは、茶入の日野。
仕覆や蓋がフルセットで展示され、仲良く並べられた3つの蓋は古田織部ふるた おりべ小堀遠州こぼり えんしゅう片桐石州かたぎり せきしゅうとアフター利休の茶頭たちの手によるモノ。

展示室内に設けられた茶室には、即翁宛の書状(遠州流11世小堀宗明こぼり そうめい筆で割高台のイラスト入り)が掛けられていました。
実際の茶会で掛けられるのかは不明。

撮影して後から比較したいと思える道具たちです。
ただここは即翁さんの聖域。そのうち解禁になる事を期待しつつ。

新館は数寄者後継者?の独壇場

そして新館の展示は撮影OKエリア(一部不可)。1年前はどうだったか?
杉本コレクションを中心に古美術、現代美術を組み合わせた斬新なセレクションが展開されています。まずは本館展示室と同じレベルにある新館2F。

このフロアには、仏教美術系が並びます。
コレクションは奈良期から現代までと、恐ろしいほどの幅広さが特徴。

その中には本館での展示(即翁コレクション)に呼応してと思われるセレクションも多数。

墨跡は宗峰妙超大燈国師だいとう こくし)筆。京都大徳寺を開山した人。

書き下し文もありましたが、内容はよく分かりません。要修行。

続いては鎧の大袖(室町時代)と法隆寺百万塔(奈良時代)。

大袖&百万塔

よく分からない取り合わせですが、その構図は高橋由一たかはし ゆいちの絵画作品(金刀比羅宮蔵)がモチーフ(展示室には絵画の参考パネルが添付)。

こちらは一部欠損したモノたちが集合。

一部焼失している東大寺二月堂のお経が3巻(奈良時代)。
こうして見ると焼跡のグラデーションはデザインのようにも。

手前にはガラスで補修(2024年)された金峰山きんぷさん渡銀宝塔(オリジナル部分は平安時代)。

恐ろしく時代の古いモノは入手経路が気になります。
古美術商の肩書やコネ、経験が役に立っているのでしょうか。

続いては茶碗系が並びます。
本館展示ではたぶん見かけなかった楽茶碗。

長次郎

初代長次郎ちょうじろう(?-1589)の黒楽茶碗、銘は「だいかはり」。
赤楽茶碗は4代目の一入いちにゅう(1640-1696)作、銘は「仙骨」。

「だいかはり」の意味する所は果たして。
即翁さんから・・・

一入
緑釉茶碗

急に時代が遡ります。
緑釉茶碗は平安時代のモノ。目跡に注目。

そして「えこひいき」の銘を持つ絵粉引茶碗(李朝時代)。

えこひいき

十文字は織部的。絵粉引えこひきから「えこひいき」?
杉本スタイルが顔を出し始めます。

割高台(朝鮮時代)は本館でも展示。

割高台

ただし本館展示の割高台わりこうだい茶碗(重要文化財)は、この企画展の花形。
杉本コレクションよりも侘び寂びた雰囲気マシマシ。
即翁は見るからに織部好みでワイルドな茶碗を、大阪の豪商・鴻池家から入手したそうです。

駄洒落と歴史の境界線上を彷徨う

続いてB1Fの展示へ。こちらは一部撮影不可。

いきなり目に入ってくるのは陣幕。
数寄者というワードからイメージするのは、なんとなく醍醐の花見。

桐紋陣幕の原本は、MIHOミュージアム所蔵(滋賀県甲賀市)です。
断片化した桃山時代の陣幕を182cm×185cmサイズの屏風に仕立てた逸品。

桐紋陣幕

その断片は秀吉が醍醐の花見に用いたという伝承を持ち。オリジナルは760cm以上に及ぶと考えられています。
その断片から現代の職人と共にこの陣幕を再現したのが杉本さん。
ちなみに秀吉の人生は、醍醐の花見の数ヶ月後に終幕。

「現代の茶掛」コーナーは、よく分からない「短歌」での幕開け。

短歌

実は堀口捨己ほりぐち すてみ(1895-1984)作の短歌。
堀口は日本代表する建築家の1人で、国内の著名な茶室を数多く実測調査した人。これもどうやって入手したの?的な逸品。また茶席には合うのか?

そのお隣には、かなりヒネリの利いたコンビネーション。

パッと見は茶室の床の間の風景ですが・・・

朝起&ドクダミ

花入はきぬた花入 鈍翁 銘 朝起」(江戸時代)とのタイトル。
しかも生けられているのは、現代作家須田悦弘すだ よしひろ(1969- )の作品「ドクダミ」(2024年)。よーく見ると植物の質感に違和感を覚えます。
つまり花入もドクダミもオール木製。

砧形花入は時々目にしますが、砧そのものを花入にしたモノは初めて。
鈍翁の意味も不明ですが、何か意味ありげ(益田なのか?)。

(参考)砧青磁 @大阪市立東洋陶磁美術館

もう一方はさらに複雑な組み合わせ。

掛け軸は瀧口修造たきぐち しゅうぞう(美術評論家 etc.:1903-1979)の「無題」。
たんぽぽのような、耳かきのような、よく分からない系。

無題

手前には阿古陀形あこだなり(室町時代)と須田作品(2015年)。
なんとなく醸し出される空気は、激戦の跡の無常感。

阿古陀形兜&須田

キャプションを見ると須田作品は「夏草」(2015年)。
完全にモチーフは芭蕉の句でしょう。
ただ戦が終わった後の戦場では、金目のモノはすべて地元民によって剥ぎ取られるのが日常と聞きます。それにしても雰囲気は妙にリアル。
実際の茶会で用いられたら、どのような評価を得るのでしょうか?

こういうセレクトであれば、古美術と現代美術のコラボも違和感は少なめ。
底知れない杉本ワールドはここから加速します。

参考書として目を通した1冊を。杉本さんが国内外で個展を開いた美術館建築を、自身で採点した「空間感」(マガジンハウス)。

もちろん展示された作品の解説や背景となる世界観も。
秀吉の陣幕についても、制作した経緯と背景が語られています。

数年前に入手した時はよく分からなかった内容も、今読んでみると意外と理解できるようになっているのは修行の成果でしょうか。
出版物もまたけっこうなプレミアムプライス。

駄洒落や往来する歴史もまだまだ序の口の「数寄者の現代」展。
数寄者というからには、桃山文化(秀吉とその茶頭)が展示品の本丸。
そんな核心の展示については後編に続きます。

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