本物は1つだけ!ほぼ高精細複製パレード in トーハク:若冲&狩野派【東京国立博物館:表慶館】東京都台東区
公立ミュージアムの展示には欠かせないのが複製品。
本物(原本)に並んで精巧な複製から写真パネル等々、場合によってはけっこうな割合を占めているケースもあります(特に都道府県管轄、また美術館よりも博物館の方がその傾向が高いような)。
国宝や重要文化財ともなると常時展示という訳にもいかないようですが、コピー展示との遭遇にはモヤモヤが残ります。
東京国立博物館(以下トーハク)は日本国内ミュージアムの頂点。
その膨大なコレクションの中には、有名作家たちの手による模本も少なからずあります(まあそれも貴重な歴史資料)。
つまりトーハクにおける展示品は、基本的に全て本物(のはず)。
ところがここ数年の展示室(限定されていますが)では、貴重な作品の複製(コピー)を拝める機会があります。この複製作品に出会うのも、国宝の原本に出会うくらいのレアケースとも言えますが。
トーハク:表慶館

月1の展示品パトロールで足を運んだ4月のトーハク。
相変わらずインバウンド率高めな客層ですが、閑古鳥よりは繁盛している方が良いのは間違いありません。
帰り際に表慶館に目をやると、地味に開館していました。
別料金設定ではなかったので、建物目当てで覗いてみるコトに。
東京都台東区上野公園13-9
表慶館はトーハクの中では最古参(1908年:重要文化財)の建物。
日本近代建築の草創期を支えたコンドルチルドレンの1人片山東熊(1854-1917)による設計。片山建築は「キョーハク」や「ならはく」にも現存しています(共に重要文化財)。

個人的にはラグジュアリーブランドのアーカイブ会場のイメージが固定しつつある表慶館。また2024年11月から2025年2月にかけてのハローキティ50周年展はインパクトがありました(物販会場とも)。

今回の表慶館での企画展は、2026年秋にグランドオープンを予定する皇居三の丸尚蔵館のプレイベント。ちなみに尚蔵館の運営は、宮内庁からトーハクと同じ独立行政法人文化財機構に移管されています。
三の丸尚蔵館ルネッサンス
2023年から一部開館していた尚蔵館。現在は最終仕上げのため休館中。
部分オープンだったとはいうものの、皇室所蔵のハイレベルなお宝は恐ろしいほどの集客力でした(ほぼ撮影OKというのも今風)。

1年前は見るからに絶賛工事中でしたが、暫定仕様の展示空間でもゆったりとした印象。フルスペック仕様は相当に期待できます。

そして今回の表慶館に降臨したのは、皇室至高のお宝群ではありません。
それは「高精細複製品 by Canon」!


2026年4月-5月 @表慶館
展示作品は狩野永徳の屏風と伊藤若冲の30幅(前後期で15幅づつ)。
ただし原本ではなく、その超高精細複製品(レプリカ)。


現代のパトロン:キヤノン
今回の展示作品は、キヤノンと京都文化協会のテクノロジーにより再現されています。その名も綴プロジェクト(2007年スタート)。
平たく言えば「キヤノンのデジタル技術と京都の伝統工芸技術の融合」。
現場に行くと驚くのは、作品をガラス越しではない超至近での鑑賞が可能。

パンフにも掲載されているように建仁寺(京都)で常設化されている
・「風神雷神図:俵屋宗達:国宝」
・「雲竜図襖絵:海北友松:重文」
は綴プロジェクトの作品。
綴プロジェクトのサイトはコチラ。
過去に制作された作品も確認できます。
ちなみに運が良ければ、トーハク本館1Fの体験型展示スペース「日本美術のとびら:B室」でもその高精細複製を間近にできます。
またキヤノンは2025年にトーハクのオフィシャルパートナーにも就任。
では表慶館へ。企画展示は1Fスペースのみ。
展示空間の殆どを占めるのが動植綵絵。
伊藤若冲(1716-1800)が約10年の歳月をかけて完成させた大作です(国宝:相国寺旧蔵)。明治期に相国寺(京都)から皇室へと献上。

尚蔵館の展示では原本を小出しするというシステム(観客が殺到しないよう配慮?)だったので、全30幅はいまだ制覇できていません。
高精細とはいえ前期で15幅を収集できたのは、晴天の霹靂的な超ラッキー。

表装裂まで原本を再現されているそうですが、管理で原本との混乱が生じないように、完全コピーではなく軸首を紫檀に変更されている点が興味深い。
相国寺から皇室へと寄進された状態を再現しているそうですが、取り違える可能性のあるクオリティということでしょうか。

ちなみに100年前の1926年には、当時の東京帝室博物館で動植綵絵30幅が披露されています。しかも会場はこの表慶館。
会場では動植綵絵のパンフも配布中。
簡易ですが全30幅が一覧できるとてもありがたいパンフです。

発行:三の丸尚蔵館 2025年
もう1点の高精細は、会場の奥に主のように鎮座。

1888年に長州毛利家から皇室へと献上された狩野永徳(1543-1590)の「唐獅子図屏風」(国宝)。とにかくデカい(高さ2m)。
永徳は安土桃山期狩野派の牽引役。父は松栄(直信:1519-1592)、祖父は元信(1476-1559)。トーハクでのこのファミリーは常連。
江戸時代に永徳の曾孫常信(1636-1713)が、この屏風の左隻を制作。
本物と複製の共存
それではトーハクにおける高精細事情はどうなっているのか?
実は国宝を中心に、けっこう充実していたりします。
原本が国宝室で展示されていれば、人だかりしているケースがほとんどですが、高精細は展示場所が地味過ぎるのか足を止める人もまばら。
例えばトーハクの等伯で知られる「松林図屏風」(国宝)。

2026年のお正月には国宝室では原本が、1F展示室では高精細とダブルで展示されていました。国宝室に比べ高精細展示室の照明は明るいので、作品の印象がやや変わります。
2026年4月現在のB室はというと、まずは上村松園の「焔」。
部屋の端っこでひっそり展示。

その横で主役のように展示されているのが狩野長信の「花下遊楽図屏風」(原本は国宝)。長信(1577-1654)は永徳の弟。

実はこの屏風の原本は、関東大震災で一部失われています。
比較のため別の日に国宝室で展示されていた原本も。

400年前の最新ファッションと風俗が描かれていますが、そこにはぽっかりと空きスペースが。幸い残されていた写真から、焼失部分が再現されているのが高精細。グッジョブ キヤノン!
以下狩野派を中心に過去の目撃情報を。
実はフルバージョンで展示されていた唐獅子図屏風。

続いて原本は未確認ながら、先行して高精細を見てしまった作品。
「観楓図屏風」は狩野秀頼作(原本は国宝)。
楓の色鮮やかさが印象的な作品。

秀頼(?-?)は元信の次男(あるいはその息子)。
つまり永徳の伯父(あるいは従弟)。
どちらにせよ狩野派は、トーハクでも抜群の層の厚さを誇ります。
やや時代が下った作品からは、久隅守景の「納涼図屏風」。

守景(?-?)は狩野派の門人で探幽(守信:1602-1674)の弟子。
こちらも原本は国宝。ただ他の狩野派の国宝作品とは異なり簡素な印象。
トーハクではもちろん琳派もフォローされています。
「秋草図屏風」は宗達の後継俵屋宗雪(?-?)作(原本は重要文化財)。

モチーフは琳派の鉄板ネタですが、侘しさより華やかさが前面に。
他にも隠れた(隠された?)高精細作品があるとは思いますが、出来れば原本と並んだ姿でお目に掛かりたいものです。
国宝を多数所蔵するトーハクなので、お目当ての国宝作品に出会える確率はそれほど高くはありません。そこを補完する(機会増)のが高精細の役割と思われますが、こちらもそう簡単には出会えていないのが現実。
そもそも、展示されていても自分が気付いていないケースもあるのかも。
とりあえず、若冲の残り15幅は必修課題にしておきます。
