建築展はジャストサイズな美術館で!【茅ヶ崎市美術館:山口洋一郎】 神奈川県茅ケ崎市
各地のミュージアムで時々見かける建築系の展示。
いわゆる巨匠と呼ばれる建築家の回顧展では興味深い展示資料が溢れ、その膨大な資料の見学後はヘロヘロになるケースも。
ディテールのチェックは図録を入手してね!という企画側の魂胆は、図録の分厚さから透けて見えます。
今回はチラシではちょくちょく目にしていましたが、展示内容がなかなか興味と一致せずにスルーしていた美術館の記録。
国道1号線。現在も日本の大動脈と呼ばれているのか定かではありませんが、神奈川区間はあまり走ったことがありません(神奈川方面へは、ほぼ東名高速か首都高速を利用)。
今回の目的地へは、東京都心から第三京浜から1号線を使って南西へ。
茅ヶ崎市の人口は意外と少ない245,000人。横浜と川崎が突出する神奈川県内では、中規模クラスの市(隣の藤沢市は約2倍の規模)。
またどこまでが湘南問題?では、湘南の中核エリアの1つ。
明治期以降の相模湾沿いには、著名な政財界人や作家・芸能人の別邸が数多く並んでいたイイ感じのエリア(たぶん)。

第三京浜を降りるとなかなかの渋滞が続いた国道1号線。そのバイパス部分から旧東海道部分へと分岐すると、所々に見られるのが松並木。
予想外の東海道な雰囲気溢れる1号線からさらに枝道へと入り、住宅街ど真ん中にあるミュージアムへ。



洋館お屋敷風のミュージアム導入部。高低差あり(緑地とは5m)。

そして一気にモダナイズされるエントランス。

茅ヶ崎美術館とは

シンプルで軽やかな外観。

茅ヶ崎市美術館は1993年の開館。30年前の建物とは思えないクリーンさと古臭さなど微塵も感じさせないデザインは、落ち着いた上質な雰囲気を維持。
美術館の立地は、かつては邸宅が建てられていた丘の上。
コレクションは茅ヶ崎ゆかりの作家や作品を中心に約2,000点。
ただしパンフに名を連ねる所蔵作家は、申し訳ないコトにほぼ分からない。
神奈川県茅ケ崎市東海岸北1-4-45

当日は完全なる建築展示のみで、ほぼ設計図面と模型の展示。
美術館の顔といえるコレクションの展示はゼロ。
館内は一部撮影OK。

2025年4月-6月 @茅ヶ崎市美術館
タイトルは美術館建築。サブタイトルはアートと建築が包み合うとき。
場の特性を活かす「サイト・スペシフィックな芸術としての建築」という企画の切り口がチラシにあります。その目論見はなにやら壮大。
それは日本各地に散らばる名建築(新しいモノもあり)と呼ばれるミュージアムの中に、ちゃっかり自館も紛れ込ませるという学芸員の巧妙な企み。

本展では、模型や設計図面に加え、初期アイデアスケッチ、建築素材、実験過程がわかる資料を通じ、建築家の思考を辿るとともに、その場所にその美術館がある意味を探っていきます。
チラシによるとそういうコトらしいです。
展示ではトップバッターだった主役の紹介は後半にという事にして、まずは脇役?から。その中から中国地方の2館、関東地方の3館を、模型&図面を中心に。また説明を補完するために、手持ちの外観写真を添えて。
美術館建築展
その1 グラントワ:内藤廣

島根県芸術文化センター(グラントワ:2005年)は、内藤廣(1950- )設計。全身を石州瓦で覆われた益田の歴史&文化の殿堂。
2025年は内藤建築がにわかに盛り上がっています(知らんけど)。


その2 下瀬美術館:坂茂

下瀬美術館(2023年)は坂茂(1957- )の設計。
ダンボールの人・坂さんは、2014年のプリツカー賞をゲット。
世界一美しい美術館!との記事を目にしますが、個人的には本当なのかー?というのがが正直な印象。
所蔵品を見る限り、面白そうな企画展待ちのミュージアム。
模型での展示室部分(カラフルなコンテナ)は、なにかのボタンスイッチのようにも(たぶん何も起こりません。触るなマーク付)。

ここからは国立近現代建築資料館からの出張品群。
その3 神奈川県立近代美術館:坂倉準三

神奈川県立近代美術館(現鎌倉文華館鶴岡ミュージアム:1951年)はル・コルビュジエ門下生坂倉準三(1901-1969)の設計。ピロティを踏襲。
ミュージアムの立地は鎌倉幕府3代将軍源実朝暗殺現場のすぐそば。

その4 国立西洋美術館:ル・コルビュジエ

国立西洋美術館(1959年)は世界的建築家でモダニズムの祖ル・コルビュジエ(1887-1965)による設計。弟子の坂倉準三らも協力。
展示図面類はスマホでの撮影が難しく、コルビュジエのスケッチで代用。
ミュージアムの立地は、幕末に彰義隊(旧幕府残党)が立て籠もり、新政府軍の砲撃によってボコボコにされたあたり。

その5 群馬県立館林美術館:高橋靗一

館林美術館(2001年)は、高橋靗一(1924-2016)の設計。
こちらも撮影が難しく、近現代建築資料館での展示品を代用。
ちなみに建築資料館でも壁面展示されている図面類は、反射がきつくてうまく撮影するのはほぼ不可能(いつもけっこうな数が展示されますが)。
里沼の町・館林に建つのは、広大な多々良沼の一部と化したミュージアム。どういう訳かポンポンの館に。ロダンへの対抗意識?

他には瀬戸内の犬島と豊島の美術館も展示されていましたが、なんだかウケ狙いの空気モリモリだったので華麗にスルー。
歴史的にはともに経済成長期のダークサイドな共通項のある2館ですが。
建築の地域性や設計者の思考を感じるというレベルには、やや厳しいかなという印象(着眼点にもよります)。
シンプルに著名建築家の作品が茅ヶ崎に集合!そして展示の力の入れ具合は、地元有利な展開になっています(そもそも建築家が地元の人)。

展示室は1階と地階に分散しています。
1室はそれほど大きくはなく、パッと見で全体の雰囲気が把握できます。
展示品の物量もいい塩梅に収まり、適度な移動が伴うことで集中力も維持できるのがポイント。大きいコトはいいコトとは限りません。

茅ヶ崎市美術館:昔と今

茅ヶ崎市立美術館の敷地は、明治期には新劇役者川上音二郎・貞奴夫妻の居宅(萬松園)、大正期には実業家原安三郎の別荘地(松籟荘:1931年)というヒストリーを持っています。

松籟荘の復元模型もさりげなく展示されていました。
美術館入口へと続くつづら折りスロープの位置にあった、かつての邸宅(美術館模型の右部分)。

その松籟荘の設計は石井義弘の手によるもの(情報のない人)。
F・L・ライト設計の東京帝国ホテルと同様のスクラッチタイルの腰壁。
その上には大理石(ライトは大谷石)の笠木。
導入部分に感じた時代感のギャップは、南ヨーロッパ風だった松籟荘の前庭と塀の名残りから。美術館と松籟荘の模型でも前庭は合致。

そして本日の主役、茅ヶ崎市美術館の設計は山口洋一郎(1946- )。
手掛けた作品を彼の設計事務所HPでサーっと検索すると、バリバリの地元密着型の建築家という事が分かります。
ただし個人的にはunknownな人(申し訳ありません)。

「ゆるく弧を描く屋根の形は、潮風や飛び立つ鳥の軽やかな翼、海の波をもとに造形化しています」と美術館HPにあります。ヨットの帆のイメージかなと感じましたが、湘南のイメージを見事に具象化したメゾン・ブランシュ(正確にはコンクリート色ですが、青みがかったグレーも随所に使用)。
またコンペ案では弧を描いていたアプローチは、バリアフリーも兼ねてクネクネつづら折りに変更したのもポイント。



美術館にはカフェも併設されています。専用パンフも置いてあり「茅産茅消」と地元の食材使用をアピール。ただしお約束の美術館価格。

企画展のエピローグは、近隣美術館への誘い。
その展示はほぼチラシコーナーというか、図書コーナーの棚の上の一角に。
3館が紹介されていますが、その中には2024年のプリツカー受賞者山本理顕(1945- )設計の横須賀市美術館がラインナップ。
強力なライバルは、誘いという体でサラッと超コンパクトに展示。

館内から公園内へブラブラ。
松籟庵と庭園

緑地公園には茶室も完備しています。


松籟庵は利用可能な茶室(有料:市民以外も可)。
1989年に岩田孝八(スーパー長崎屋創業者)により、市へと寄贈されています。場所は松籟荘前庭の下あたり。

松籟荘由来の庭園を備え、茶室には裏千家の又隠の写し、書院には表千家不審庵の松風楼の写しを採用。



庭園には小ぶりな滝もあり、池の周辺は子供たちの格好の遊び場。
茶室以外は入場無料エリア。



公園内には川上音二郎・貞奴夫妻の記念碑が設置されています(2011年の記念事業として美術館でも特別展を開催)。
実は記念事業の実行委員長を務めたのは山口さん。
変わったモニュメントだなーと思いつつ、よーく見るとまさかの「川上」。

平日でしたが、ガラガラでもなく混雑でもなくという美術館(車は少なかったのですが駐車場スタッフも配置。バイクはもちろん余裕で駐車)。
展示ボリュームも多すぎず少なすぎず、緑地公園も散歩には適当な広さ。
築30年を超える美術館ですが、公園の植栽同様に手入れが行き届いていて「我唯足るを知る」的なサイズ感のミュージアム。

