1000年の都のモダンアート展【杉本博司 瑠璃の浄土:京都市京セラ美術館】 京都市左京区
歴史ある寺社がひしめく千年の都・京都。また多くの企業や組織、個人と多岐に渡る所蔵先にも貴重かつ膨大な宝物や文書類。
公立ミュージアムがそういった大小さまざまな私立施設に対して、差別化を図るのは容易ではないでしょう。
おまけに寄託品が大集合するのは、総本山のような京都国立博物館。
2020年に生まれ変わったのは、京都市を代表する公立ミュージアム・京都市京セラ美術館。歴史ある建物に新しいエッセンスを加えて再構築。
名称変更はネーミングライツによりもの。
ちなみに美術館のすぐそばにはロームセンター京都(京都会館)があり、どちらも地元大企業によるサポートによって公立施設を支える構図。

京都市京セラ美術館

京セラ美術館の源流は、1933年に開館した大礼記念京都美術館。
太平洋戦争後にはGHQに接収されていますが、解除後に京都市美術館へ。
現存する最古の公立美術館建築(国立は公立のカテゴリーではない模様)。
京都府京都市左京区岡崎円勝寺町124
2020年に施設はアップデートされていますが、改修と再構築を担当したのは、青木淳&西沢徹夫。川崎清設計の旧収蔵棟は改修され、最新展示スペース「東山キューブ」に。
所蔵コレクションが近代以降というシバリは、1000年の歴史を持つ京都では相当に不利なのではとお察しいたします。





リニューアルのこけら落としに選ばれたのが「杉本博司 瑠璃の浄土」展。


2020年3月-6月 @京セラ美術館
展示で印象に残っているのは、三十三間堂の仏さま軍団を撮影した「仏の海」シリーズ(1995年)。
そしてズラリと並んだガラス容器「光学硝子五輪塔」シリーズ。
五輪塔は杉本さんの代表作「海景」を仏舎利のように閉じ込めた、海景のスピンアウト作品(たぶん)。その仕掛け方が杉本スタイル。
また鉄板ネタの直島・護王神社(杉本さんにより再構築された社)が、模型展示によって展示室内に鎮座。

当時が撮影可能だったかどうか覚えていませんが、写真があれば後々になってからも他館の作品との違いがじっくり比べられるメリットに気がついたのは、ここ数年の話。

広い軒先にベンチ。元の仕様を見た事はありませんが、外部と内部の中間領域が美しく創り出されています。


当時は知り得ませんでしたが、あの門幕は小田原の測候所で遭遇します。
杉本博司という人
杉本博司(1987- )は現代アーティスト。
立教大学卒業後の1970年にアメリカへと渡り、写真家のワクに囚われず、歴史や美術・工芸の教養をベースに古美術商、建築家と多彩な顔を持つ人。
「ジオラマ」「劇場」「海景」等の写真作品シリーズで知られています。
個人的な杉本作品の初見は、10数年前に松江の美術館にて。

島根県立美術館に所蔵されていたその作品は、当時の自身にはよく分からない系の典型。ただこういう風景が実際にあるのかな?と日本海側へとすぐに確認に行った記憶は明確(写真は隠岐島から北側?)。
偶然にも「隠岐」は京セラ美術館でも展示されていました。
以下は海景シリーズを他館から補完

正直、比較すれば微妙な違いが分かりますが、実際その海域かどうかは本人のみぞ知る世界。地理のお勉強には最適。

また海景シリーズは、ロックバンド・U2(アイルランド)のアルバム「ノー・ライン・オン・ザ・ホライゾン」(2009年)のジャケットにも採用。
撮影場所はドイツ・オーストリア・スイス国境のボーデン湖で、気持ち水面は穏やか。

さらに発展形の作品が、タイム・エクスポーズド・シリーズ。
写真を屋外に長期間放置したという適当さ(ガルガーノ・アドリア海)。
ここまでくると、何でもありな現代アートの世界。
随分前の出版物ですが、雑誌ブルータスでも取り上げられています。
杉本さんの入門書として役立つ2冊。
結構なプレミアムが付けられていますが、古本は玉石混交。
古美術品同様、あなたの見る目が問われます。
レギュラー版の表紙は、杉本作品の代表作「Theaters」。
こちらは2005年レギュラー版に加筆された特別編集版。
表紙は三十三間堂の観音様大軍団。内容的にはこちらがあれば十分かと。
ただコレクター的には当然・・・
展示室を見終わり、館外をブラブラ。変な物体が目に入ります。


実は屋外展示。2014年にイタリア・ヴェネチア建築ビエンナーレでお披露目されたガラスの茶室聞鳥庵(ヴェネチアンガラス製:杉本作)。
設置場所は7代小川治兵衛が作庭したとされる池の上。
茶室名の由来はピート・モンドリアン(オランダ:1872-1944)のコンポジションから(茶室の面構成と似てるといえば似てますけど)。

茶室は2018年にフランス・ヴェルサイユでのインスタレーション、そしてここ京都を経て、現在は香川・直島へというヒストリー。
貴重な茶室の移築や流転はよくある話。あえてそこも狙ったのかも。

近づけば茶室内が覗けるかと思いきや・・・
通路の部材は外されていました。

室町から江戸期のテクノロジーでは成しえなかったガラスを主体に、極小居室空間・茶室を構築するのが杉本的解釈。
かつての武家に内緒話の最適空間として好まれた茶室。それを視覚的にフルオープン化してしまうのが現代アート的思考(たぶん)。
実は同様のスタイルの茶室は、2022年に国立新美術館(東京都港区)でも見掛けています。

ガラスの茶室・光庵はデザイナー&アーティスト吉岡徳仁(1967- )の作品。2011年ヴェネチアビエンナーレで発表され、一時期国立新美術館で展示されていました。デジャヴュような足取り。
時系列で見れば、杉本さんによる吉岡さんの本歌取りか? 真相は不明。
見た目のクールさとは違って、暑い季節には拷問部屋となりそうな茶室。
使えるかどうかはさておき、移動もできるその構造設計や技術は興味深い。

個人的には杉本ワールドの転換点になったのが京セラ美術館(このあと2021年、2023年には関東の地でワールドが炸裂する事に)。
そしてリニューアル効果もあったのか、歴史ある建物と現代アートの相性にも違和感はまったくナシ。
杉本作品は何らかの歴史に根差した文脈上にあります。現代アートもこういう方向性(客観的な基準線が引ける)なら楽しめます。

