新陳代謝のゆくえ 【中銀カプセルタワービル:黒川紀章】 SHUTL 東京都中央区
旧い建築物の取り壊しもしくは建て替え時に、建築系の専門家や市民団体から保存の声が出てくるケースが見られます。保存運動に発展する場合も。
歴史や由緒を持つ建物や著名な建築家作品であれば、その価値を理解しやすいのですが、経済効率を重視する方々にはあまり意味がありません。
そもそも他者の持ち物に、外野がアレコレ言うのはどうなんだという考えもごもっとも(残したいなら、口を出すよりお金を出せばという事)。
今回は50年前に今風のSDGsと重なる思想で建てられたものの、やっぱり時間というハードルを越えられなかった建築(パーツ?)の記録。
メタボ(メタボリックシンドローム)とはまったく無関係のメタボリズム運動は、1960年に建築家を中心にしたグループによって考えられた建築思想。それは建築を環境の変化や成長に合わせ新陳代謝するかの如く有機的に適応させようとする運動(かなりザックリ)。
当時の知見では未知の部分も多く実験的な試みだったと思われますが、21世紀の現代でも通用する考え方も備えています。
中銀カプセルタワービル

中銀カプセルタワービルは1972年の竣工、2Fのオフィスフロアから上層部には10㎡のカプセル(個室)140個が並んでいました。設計は黒川紀章。
25年ごとに新規生産されたカプセルへと交換し、200年間の維持をコンセプトとした意欲的かつ実験的な建築でした。ただし現在はビルとしては消滅。

ビルは周辺環境の変化や設備の老朽化を原因に、改修や建て替え計画が紆余曲折。住民による保存活動も組織化されましたが、結局解体される事に。
外壁内側のアスベスト処理や配管設備の維持管理にも問題があり、区分所有者の合意形成も障害に。
近年、築年数の古い集合住宅(マンション)でも顕在化している問題ですが、メンテナンスに対するオーナーの考え方の違いに住まい方の変化、懐事情をうまくまとめるのは大仕事です。住み手も理論武装が必要。
タワービルは2022年から解体され、一部のカプセルが部分保全に。
黒川紀章という人
黒川紀章(1934-2007)は愛知県出身で、丹下健三に師事。メタボリズム提唱者の1人。
運動の参加メンバーには、建築家の槙文彦、菊竹清訓、大高正人や工業デザイナーの栄久庵憲司等々。
個人的なメタボリズムのイメージは、伊勢神宮のような20年に一度の遷宮(建物だけでなく建築技術も含め伝承)。あるいは槙文彦のヒルサイドテラス(1969-1998)のように、計画・建築プランが長期にわたるケース。
黒川紀章といえば公共ミュージアムをいくつか手掛けられていますが、国立ミュージアムを関東と関西に2作品!


ちなみにメタボリズム運動の同志・菊竹清訓は、地元九州で。

新美術館とキューハクには、有機的なアウトラインが共通。
中銀カプセルタワービルに話を戻します。
解体されたカプセルの現在を2件。
1つはヨドコウ(株式会社 淀川製鋼所)の手によりトレーラーハウスに。
また木造で新たな価値を。
こちらは埼玉県立近代美術館へ寄贈され、北浦和公園彫刻広場に展示中。
外観からの見学のみという、いわばご隠居の身。
そしてかつての中銀ビルから割と近くの場所で、2基が保存されています。
SHUTL


東京都中央区築地4-1-8
SHUTLは株式会社松竹によるギャラリー。
再開発を待つ土地の短期活用としての実験的プロジェクトのようです。
コンセプトは、
現代の表現者が日本文化と出会い直し、自らの表現と伝統を結びつけることによって、新たな表現方法を模索することのできる、開かれた創造活動の実験場(ラボ)。
正直よく分からない(ゴメンなさい)。
現代アート系によく見られる抽象的なカンジですが。

2023年10月-11月 SHUTL

カプセルは2基あって、1基はスケルトン(内装なし)。
もう一基がオリジナルの内装。それらを簡素な建築内に配置。



スケルトン型は分かりやすいギャラリー用に。

三重野龍の作品が6点。
よく分からない系ですが、じっと見てると文字が浮き出てくる的な。

もう一方のオリジナル型。
こちらにもアート展示が何げに。




内装オプションとして、当時の最新機器等をチョイスできたそうです。
オープンリールデッキは使った経験がありません(カセットデッキでさえ今や薄れゆく記憶)。チューナー・アンプも含めソニー製。


スマホ写真では分かりにくいのですが、10㎡はさすがに狭い。
オフィスやセカンドハウスが想定されていたようですが、ビジネスホテルでもこの空間サイズではちょっとキビシイ印象。
最小ビジネスホテルとカプセルホテルの中間でしょうか。
最新のビジネスホテルでは、ここまでせまいバス・トイレは見ないレベル。

当時窓の向こうには首都高速が走り、音や匂い(排ガスもきつかったでしょう)に日当たりと住環境はあまり良くはなかったと想像します。
汐留あたりの高層ビル群はなかったので、風は通っていたのでしょうか。
SHUTLさんのラボという試みですが、この展示では古民家に現代アート的な展示空間の表層的差別化という印象を受けます。
自ら短期的と表明されているように、持続的ではなさそうな点が原因かもしれません。
メタボリズムの思想的な部分もしくはこのカプセルの必然性はどこに?
中銀カプセルタワービルはメタボリズムを代表する建築と評されます。
現代ならカプセル部分を3Dプリンター等を使い、生産性の高いパーツ(コンテナやユニットハウス)に置き換えられるかもしれません。
配管系もまたメンテナンス性を含め、より進化しているでしょう。
ただ必要な部品を交換すればOKという機械部品的な扱いでは、有機的とは言えないようにも思えます(人間だったら擬体化?)。
さらに工業化が進みすぎて標準化されてしまうと、ハードとしての魅力が陳腐化するおそれも。
カプセルは他にも何ヶ所かへとタンポポの綿毛のように飛散しています。
アートは使い勝手の良い表現方法ですが、そちらの方向性ではなく思想やハード面での新陳代謝が進化していくと面白くなる気が。

