カウントダウンは終焉それとも休眠? 【資生堂アートハウス:谷口吉生7】静岡県掛川市
どうしても行きたい!という程ではありませんが、予定に余裕がある時にはオプションとなるミュージアムは重宝します。少なくとも1度は足を運んでいて、主役とまではいかないけれど何かが期待できるようなイメージ。
以前はガチガチのスケジュールを組みがちでしたが、移動のバリエーションが増えてくると、余白多めの計画からは得る物は多い気がします。
仕事にせよプライベートにせよ、ある意味テキトーな行動予定が意外に〇。
そういう目線で見ていると、気がついた時には閉館しているミュージアムに遭も遇する事が。しかも再び見れない!となるとダメージも割増。
気になった時には行けない理由を探すよりも、行く方法を考える事が何より大切。行ける時には行っておかないと後悔しがちです(特に地方部)。
今回は閉館カウントダウン進行中のミュージアムの記録。急ぐべし!
静岡県掛川市の人口は、意外と少なめの113,000人。
一応JR掛川駅には新幹線が停車します。「こだま」のみですけど。
農業では県内有数のお茶生産地として知られ、工業では静岡県の屋台骨スズキにヤマハ発動機系&ヤマハ(楽器)の工場が城下町近くに。
ちなみに江戸期の掛川に配置されたのは、譜代・親藩の小規模な大名。

資生堂企業資料館
駐車場から歩くと最初に目に入るのが企業資料館。

資生堂企業資料館は、創業120周年にあたる1992年の開館。
資生堂の生み出した商品やパッケージ、加えてポスターや広告といった宣伝制作物を収集・保存そして公開するための企業ミュージアム。
パンフによる紹介は「美と知の資料館」!


当時の感涙ネタ(人によるけど)がテンコ盛り、昭和世代の見学者は「懐かしい!」を連発。当然女性の方がテンション高目。
ただ前田美波里のポスターを見ると、どうしても笑ってしまうのは何故。

2016年1月-10月 @企業資料館

残念ながら2025年11月に閉館されており、現在は立ち入れないエリアに。

資生堂アートハウス

主役の資生堂アートハウス(以下アートハウス)は、1978年に開館した私立ミュージアム。2002年にはリニューアルが施されてパワーアップ。
設計は谷口吉生(1937-2024)と高宮眞介(1939- )のコンビ。
「長く地域の環境に貢献し、風雪を耐え、美しく維持され、社会に対して建築の意義を語りかけてきた建築物」と評価されている美術館です。

所蔵品は1970年代以降の日本人作家作品を中心に約1,600点。
ジャンルは日本画、洋画、彫刻に現代美術に加え、陶芸、漆芸、金工、染織等の観賞用だけでなく実用も考えられた工芸品までカバー。
資生堂が文化芸術支援活動の一環として、東京・銀座の資生堂ギャラリーで開催してきた「椿会美術展」や「現代工藝展」にも出品された品々です。

2030中期経営戦略において、アート支援活動は東京銀座の資生堂ギャラリーに集約され、アートハウスは2026年6月27日をもって閉館との発表・・・
静岡県掛川市下俣751-2
谷口吉生という人
建築家・谷口吉生はモダニズムの人。その作品には寄り添うように水盤が。
多くのミュージアム建築を手掛け、そのデザイン文脈は初見でも何となく分かる気がします(あくまで気が)。
父の谷口吉郎(1904-1979)もまた昭和の名建築家。
その谷口建築を3選、プラス1。
・土門拳写真美術館 (1983年:山形県 酒田市)

土門拳写真美術館(旧土門拳記念館)は写真家土門拳の故郷に、1983年開館した日本最初の写真専門美術館。。

設立にあたり作家本人から寄贈された全作品約70,000点(現在は135,000点)を収蔵。1998年には収蔵庫を増築しています。
隣接する池は白鳥池(拳湖)と名付けられた人造池(湖)!
建物と水盤(と呼べるのか?)の関係がすでに見られる、建築家初期作品。

続いては奇しくも博物館の最高峰トーハクで、父との共演となった建物。
(そのそばに建つ表慶館は片山東熊の設計)
・東京国立博物館:法隆寺宝物館(1999年:東京都台東区)

法隆寺に伝来した数々の宝物のうちトーハクで保管される300点を展示するため、1964年に開館したのが法隆寺宝物館。
そして1999年に新設計された現在の建物が谷口吉生作。

インバウンド客は比較的少なめで、静謐な空間が広がります。
また鳥取藩江戸藩邸長屋門とのマッチングも絶妙。
そのデザインは谷口フォーマット。

3つめは京都。ココでは父とではなく片山東熊との共演に。
・京都国立博物館:平成知新館( 2014年:京都市東山区)

平成知新館はキョーハク開館100周年記念に計画され、2014年の開館。
現在の展示棟および南門&その周辺もまた谷口建築。


この3館に共通するのは水平線と垂直線による構成。クリーンかつ静謐な空間が広がり、茶の湯でいう所の奇麗さび的なデザイン(たぶん)。
過剰なデザインとは対極にある、引き算による美学の到達点です。
プラス1は、上記3館とは異なるデザインによる水族園。
・東京都葛西臨海水族園(1989年:東京都江戸川区)

エントランスとなるガラスドームが特徴的な水族園は、平面図が丸い建物。
当然館内外にも曲線・曲面が表出。水槽のせいか?

水族園は目下新館建設が進行中です。
現在の建物も保存と発表されていますが、利用プランは未定。

2014年には、11館の谷口作品による建築交流ネットワークが結成されています。葛西臨海水族園を除く上記3館とアートハウスはそのメンバー。
11館の中では、最も古い設計になるのがアートハウスです。
超簡略化した谷口建築チョイスでしたが、ここから資生堂アートハウスへ。
ちなみにアートハウスでは建築概要をまとめたパンフを配布中。

閉館前の企画展示は、展示目録のみでチラシ制作はナシ。
タイトルはシリーズ化している「工藝を我らに」。

2026年3月-6月 @アートハウス
広告にも力を入れている資生堂。参考に過去チラシも。
コチラは資生堂の鉄板ネタ「小村雪岱と資生堂書体」。

2016年7月-9月 @アートハウス
そして4年前の「工藝を我らに」。

2022年4月-8月 @アートハウス
小村雪岱(1887-1940)は、資生堂意匠部(現 宣伝・デザイン部)の創設期デザイナー(在籍期間は1918年から1923年)。
そして資生堂書体の基礎を築いた人。
意匠部設立を主導したのは資生堂創業家の福原信三(1883-1948)です。
外を眺めていると、館のすぐそばを頻繁に新幹線が駆け抜けます。
こういう環境にあるミュージアムも珍しい。その向こうには掛川市役所。


展示室へは、谷口建築ではレアな半円状の階段を上がります。
初期作品となるアートハウスは、葛西水族園のように曲線・曲面が見られるのが特徴。展示室のガラスはアールを描きます。


撮影は展示場所によってルールが変わります。
展示品のアップ写真は不可、背景としてはOKというグレーゾーンも。

展示室は四角と円に高低差を組み合わせた不思議な動線で構成。




小村雪岱の作品や装幀本とセレクトショップ的な工芸品が並びます。
雪岱は香水のビンもデザインしています。色によってはウイスキー。

工芸品は四季のしつらえを洒落たテーマで展示。おそらく超高級。
展示品のセレクションと組み合わせに資生堂のセンスが。
九州勢では14代今泉今右衛門が目に留まります。華やかさは控え目。
また小村雪岱の書斎的設定なデスク展示が印象に残ります。

こうして見ると、トーハク法隆寺館の展示起源はココからとも思えます。


ここで過去の展示状況も。基本的に現在に準ずるスタイル。

昭和な奇麗さび的風景でしょうか。谷口ワールドに通じます。

スタッフの方によると建物はそのまま、収蔵機能は残されるというお話。
「中期経営戦略により」と閉館が発表されたのは2025年11月。
またここ2年ほどは会社の業績は振るわず、プロ経営者(自称か他称か知りませんが)とやらが資生堂から静かに退場したのが2025年12月末。
閉館&集約が経営状況に連動していると考えるのが自然なのかも。
ただそうであれば、復活の可能性もあるのかもしれません。
どちらにせよ後悔のないように。また変則的な開館日にはご注意を。

