【Lil Fovnt #79】ノイズに消された究極のモノづくり — マイケル・ジャクソン『インヴィンシブル』
今、伝記映画の話題で再びマイケル・ジャクソンに注目が集まっている。
自分もそんなマイケルの映画を楽しみしており、公開してすぐに映画館に向かった一人である。
このタイミングでマイケルのアルバムについて少し書いていこうと思う。
マイケルのアルバムといえば、『スリラー』や『バッド』といった歴史的なモンスターアルバムを思い浮かべる人が大半だろう。
しかし今回あえて取り上げたいのは、彼が生前に残した最後のオリジナルアルバム『インヴィンシブル』(2001年)だ。
このアルバム、マイケルを語る中で登場することは少ないアルバムかもしれない。
しかし、個人的にはすごく好きで、その背景にあるストーリーも含めて非常に面白い作品だと思っている。
当時、自分はこのアルバムの発売を心待ちにしていて、すぐさまレコードを買いに走った思い出がある。
1曲目の「アンブレイカブル (feat. ノートリアスB.I.G.)」の重厚なビートには喰らったし、「バタフライズ」のメロウな心地よさも最高だった。マイケルの挑戦がわかる内容だった。
そして、自分は、純粋に「新しいマイケルの音」にワクワクしていたのだ。
しかし、世間の反応、特に日本での扱いは驚くほど冷ややかなものだった気がする。レコード屋は入り口すぐに置いてたが、それほど大きなインパクトはなかった。
当時の報道といえば、彼の音楽そのものよりも、スキャンダルやネガティブなゴシップばかり。メディアの嫌なニュースに覆い隠され、肝心の「音」が正当に評価されていない空気が蔓延していた。
だが、このアルバムの裏側にあるのは、狂気じみた「究極のモノづくり」だ。
制作には数年の歳月と、約3000万ドル(当時のレートで数十億円)という異常なコストがかけられている。
「毎日3つのスタジオを同時予約して、起きた時の気分で録音場所を選んでいた」というエピソードが残っているほどだ。
当時のヒップホップシーンの頂点にいたDr.Dreにプロデュースを打診して断られるなど、時代の変化の中でもがきながらも、最先端のサウンドを執念で追い求めた。
しかし結果的に、所属レーベルとの泥沼の確執という「大人の事情」によってプロモーションは途中で打ち切られ、作品は不当な扱いを受けた。
彼に対する世間の評価がひっくり返ったのは、皮肉にも彼が亡くなり、映画『This Is It』が公開されてからだ。
リハーサル映像に映っていたのは、ゴシップまみれの変人ではなく、音の細部や照明のタイミング一つにまで徹底的にこだわる、ストイックで天才的な「職人」の姿だった。
その死によってメディアのノイズが消え、世界はようやく手のひらを返したようにその凄さに気づいたのだ。
どれだけ途方もない熱量とコストをかけて究極のモノを作っても、巨大なシステムや世間のノイズによって、その本質が歪められてしまうことがある。
純粋なカルチャーが権力やノイズに消費されてしまうのは、本当に恐ろしく、悔しい。
もっと評価されるべきアルバムだった。
自分はそう思う。
今日あたり、世間のノイズをすべて取り払って、もう一度あのレコードに針を落としてみようと思う。
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