地域ヘルスケア経営シリーズ介護施設編第4回
第4回 介護経営で最初に見る5つの数字──利用率95%でも赤字になる理由
介護施設の経営者とお話しすると、「利用率は95%です」という言葉をよく耳にします。
確かに利用率は重要です。 空床が多ければ収益は上がりません。
しかし私は、利用率を聞いただけでは安心しません。
なぜなら、利用率95%でも赤字の施設を見てきたからです。
逆に、利用率85%台でも安定した利益を出し、職員が定着し、キャッシュも積み上がっている法人もあります。
この違いは何でしょうか。
私は事業再生や経営改善の相談を受ける際、決算書を開く前に必ず確認する数字があります。
それは、介護経営の構造が見える数字です。
今日は、私が介護法人を見る時に最初に確認する5つの数字についてお話しします。
■ 利用率だけ見ていると経営を間違える
介護施設の経営会議では、利用率だけが毎月報告されることがあります。
もちろん重要な数字です。
しかし、95%だから安心。 90%だから危険。
という単純な話ではありません。
例えば、要介護5が多い施設と、 要介護3が多い施設では収益構造が違います。必要な人員配置も違います。 ケア負担も違います。
つまり、同じ利用率でも利益は大きく変わる。
介護経営で本当に重要なのは、利用率ではなく、利用者構成と運営構造です。
■ 私が最初に見る5つの数字
① 要介護度構成(収益と負荷の“軸”)
最初に見る数字です。
介護施設の収益構造は、要介護度構成でほぼ決まります。
要介護3中心なのか。 要介護4・5中心なのか。
収入は変わりますが、同時に必要なケア量も変わります。
私はまず、利用者の要介護度構成と、現在の人員配置が合っているか
を確認します。
ここがズレている施設は少なくありません。
② 人員配置バランス(赤字の最大要因)
次に確認するのが人員配置です。
介護職員だけではありません。
看護職員。
生活相談員。
ケアマネジャー。
機能訓練指導員。
管理者。
事業再生の現場でよくあるのは、
人が足りないのではなく、配置が最適化されていないケース です。
慢性的な残業。
高い離職率。
加算取得不足。
こうした問題の背景には、配置バランスの崩れが隠れています。
私はここを非常に重視します。
③ 空床率ではなく「空床理由」
利用率を見る際、私はもう一歩踏み込みます。
空床がなぜ発生したのか。
入院による空床なのか。
死亡退所による空床なのか。
待機者不足なのか。
紹介不足なのか。
原因によって対策は全く違います。
単に利用率だけを見ていると本質が見えません。
私は空床率ではなく、空床理由の内訳を確認します。
そこに経営課題が現れます。
④ 紹介元構成(営業構造の強さ)
介護施設も営業構造が重要です。
どこから利用者が来ているのか。
病院なのか。
居宅介護支援事業所なのか。
地域包括支援センターなのか。
紹介ルートが一つしかない法人は脆い。
特定の病院に依存している。
特定のケアマネに依存している。
こうした施設は環境変化に弱い。
一方で、紹介ルートが多様な施設は安定しています。
これは病院経営にも共通する考え方です。
⑤ キャッシュフロー(黒字でも倒れる理由)
最後に見るのがキャッシュフローです。
ここで初めて財務の話になります。
私は以前から、黒字と安全は違うとお伝えしています。
利益は出ている。 しかし現金が残らない。
そんな法人は珍しくありません。
人件費上昇。 設備更新。 車両更新。 物価高。
これらに対応できるだけの資金余力があるか。
私は必ず確認します。
なぜなら、経営を守るのは利益ではなく現金だからです。
■ 財政審議会が見ているのは「効率化」ではない
政府の「骨太の方針」の基となる財政制度等審議会の議論は時間差で実際の政策に反映されますが、それを見ると、「効率化」 「重点化」 「集約化」という言葉が繰り返し出てきます。
これを「介護報酬が厳しくなる」という意味だけで捉えるのは早計です。
私はむしろ、持続可能な介護経営を作れるかどうかという問いだと感じています。
利用者は増える。 介護ニーズも増える。 しかし人材は不足する。
だからこそ、経営の質が問われる時代になる。
ただし間違えてはいけないのは、効率化=単なるコストカットではなく、
限られた人材で価値を最大化することです。
■ 2040年に生き残る法人の共通点
2040年問題が近づくにつれ、介護業界の格差は広がると思います。
その差を生むのは、施設の大きさではありません。 利用率でもありません。
私が見ている限り、生き残る法人には共通点があります。
要介護度構成を把握している。
人員配置を管理している。
空床理由を分析している。
紹介ルートを広げている。
キャッシュを残している。
つまり、数字を経営に使っている。ということです。
■ 最後に──介護経営は「構造」を見る時代へ
介護経営で本当に重要なのは、利用率を追いかけることではありません。
要介護度。
人員配置。
空床理由。
紹介元。
キャッシュフロー。
これらを一体で見ることです。
私は経営相談の際、まず数字を見ます。
しかし見ているのは数字そのものではありません。
数字の裏にある経営構造です。
2040年に向けて、介護ニーズは増えます。 一方で人材は不足します。
その時に生き残る法人は、利用率が高かった法人ではありません。
自法人の構造を理解し、早く手を打てた法人です。
私は、その差が今後ますます大きくなると考えています。
次回予告
第5回 2040年に生き残る介護法人の条件──規模よりも重要なもの
大規模法人が必ず勝つわけではありません。 小規模でも地域で選ばれ続ける法人があります。
シリーズ最終回では、2040年を見据えた介護経営の本質について考えてみたいと思います。
