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宮川彬良プロデュース ファミリーで楽しむアキラさんの音楽教室|のらくら音楽評

(以前に執筆したフリーペーパーの発行終了に伴い、記事部分のみ転載したものです)

作品がつなぐ、父と子の言葉を超えた対話

「いつの世の中でも、いろんな意見がある。
だけど音楽とは、調和なくしては何もできないもの。
音楽をやるということはそれだけで、平和に一票投じるということなんです」──本公演の案内人である宮川彬良氏は、アンコール前にそう独りごちた。
筆者にはそれが「アキラさんの音楽教室」と銘打った今回の演奏会の本質を、率直に形容していたように思えてならないのである。

9月に入ってなお残暑の厳しい日曜の午後、台風も近づく予報の中、シーズン・プロデューサー「アキラさん」率いるオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラが、一足早い秋を連れてきた。
オープニングに《ゲバゲバ90分》が演奏されるが、金管群を中心に放たれる勇壮なファンファーレと、早速と披露された小粋なスタンド・プレーによって、冒頭から聴衆が引き込まれていくのがわかる。
耳馴染みのある6/8拍子のメイン・テーマ、曲調がマーチからサンバ風のトリオへ移っていくとともに、会場がみるみるこの楽団の色へ染められていく、そんな感覚すらあった。
そして続く《ズームイン!!朝!》は、同様にテレビ番組のために書かれていながらも、全く趣向の異なる楽曲となっている。
小洒落たイントロのフレーズと、流麗に進行するテンション・コードの響きに始めから心を掴まれ、半音によるコードの平行移動が効果的に散りばめられることで、後半につれますますエネルギーが高まっていく。
どこへ向かうのかという期待感と、その先をいつまでも聴き続けていたいという切なる思いに、図らずもいつの間にか駆られていた。

今回のプログラムで要となっているのが、ポップス界の重鎮として今なお名高い宮川泰(1931-2006)──アキラさんの実父による作品である。
ここからゲストとしてダイナマイトしゃかりきサ〜カスの面々が登場、宮川泰氏の真骨頂である昭和歌謡の世界に入っていく。
ヴォーカルは三者三様、個性の際立つ輪郭の太い歌声を持ちながら、安定感のあるハーモニーの聴かせ方は流石である。
時代特有の美しい節回しと相まって、心地よいノスタルジーをそこここに漂わせるが、深層にはどこか仄暗さが見え隠れする。
いわゆるヒット・ソングを聴き進めていくうちに、人間の性の哀しさであるとか、気丈に生きようとする時代背景であるとか、そんな深読みとともに、楽曲に奥行きが生まれるのを感じていた。
言葉や気質、そして風土。
彼らの持つ「オオサカ」というアイデンティティも、そう確信させるに一役買っていたに違いない。

大団円の響きの彼方に、まだ見ぬ景色を感じる

後半は軸を同じにこそすれ、吹奏楽経験者にとっては嬉しい曲目が並んだ。
年頭の訃報が記憶に新しいミシェル・ルグラン(1932-2019)の代表作《キャラバンの到着》では、遠くから足音が迫ってくるような、シャッフルを伴う4/4拍子の導入、だんだんと近づくそれが拍を欠きながら主題へとなだれ込む。
全体はジャズ・ワルツを基調とし、快活に進行しつつも、随所に光る旋律美が待ち受ける。

そして演奏会のメインといえよう、組曲《宇宙戦艦ヤマト》である。
優美な主題をソロ・サクソフォンが奏すると、木管主体のアンサンブルは金管群に受け継がれながら展開されていく。
憂いをまとう中に微かな光をたたえる〈序曲〉の全貌が少しずつ露わになり、やがて総奏となるが、終止を待たずして次の楽章へ。
唐突かつ劇的に現れるメイン・テーマに、会場の熱気がぐっと高まる。
軍靴のような打楽器群に乗って、荘重な中低音に導かれる音楽は、緊張感を保ったまま終焉へ向かった。
ここで、不意にタクトを降ろした指揮者がピアノへ座し、本来はプログラムに含まれない旋律を紡ぐ。
冒頭の主題の特徴である5度や8度の跳躍を持つ、しかし先ほどより輝きを増したメロディ。
心洗われる、いわば短い〈間奏曲〉が終わると、場面は再びシリアスさを取り戻す。
オーケストラの強奏と、ティンパニの掛け合いとが実にスリリングで、主題歌の断片を用いながらも、解決されないままに不協和な響きにかき消されていく。
慟哭の余韻のようなフルートの独白から、物語がクライマックスへ向かうがごとく、次第に声部が織り重なり、交響楽さながらの重厚な音楽に包まれる中での幕切れとなった。

改めて本公演を鳥瞰すると、その実は「大人向けの音楽教室」でもあったのではないかと思う。
ラインナップを眺めるに、昭和歌謡からゆうがたクインテットまでと、幅広い世代が楽しめる内容であったことは今さら言うまでもない。
しかし筆者には、調和という音楽の本質を通して、ときに辛く悲しい思いを抱えながら、明るく健気に生きていく人間の愛おしさ、それが一人ひとりの枠を超えて、世代としてつながっていくことの素晴らしさ、言葉にできない恭敬の叫びと感じずにはいられないのである。
今回アキラさんとオオサカ・シオン・ウインド・オーケストラが我々に投げかけたものは、やがて大人になる子どもたちにも、しかと受け渡されたことだろう。
異なる文化、異なる風土で生きる人々が、それぞれのエネルギーや意志に影響されながら、長い時間をかけて変わっていく様を、今後も楽しみに見届けていきたい。

プログラム
2019年9月8日(日)14:00開演
@長野市芸術館メインホール

①ゲバゲバ90分(宮川泰)
②ズームイン!!朝!(宮川泰)
③クレージーキャッツ・メドレー
 無責任一代男〜ホンダラ行進曲〜(萩原哲晶)
 スーダラ節〜ハイそれまでヨ(宮川泰)
④シャボン玉ホリデー(作詞: 前田武彦、作曲: 宮川泰)
⑤若いって素晴らしい(作詞: 安井かずみ、作曲: 宮川泰)
⑥恋のフーガ(作詞: なかにし礼、作曲: すぎやまこういち)
⑦恋のバカンス(作詞: 岩谷時子、作曲: 宮川泰)
⑧大阪弁ラーニング(作詞: 下山啓、作曲: 宮川彬良)

[クインテットコーナー]
⑨ただいま考え中(作詞: 下山啓、作曲: 宮川彬良)
⑩真夜中の動物園(作詞: 下山啓、作曲: 宮川彬良)
⑪大きな古時計(訳詞: 保富康午、作曲: H. C. ワーク)
⑫映画「ロシュフォールの恋人たち」から《キャラバンの到着〜マクサンスの歌》(M. ルグラン)
⑬組曲《宇宙戦艦ヤマト》(宮川泰)
 I. 序曲
 Ⅱ. 宇宙戦艦ヤマト〜イスカンダル〜
 Ⅲ. 出撃
 Ⅳ. 大いなる愛
⑭Aquarius / Let The Sunshine In(編曲: 宮川彬良)
⑮マツケンサンバⅡ(作詞: 吉峰暁子、作曲: 宮川彬良)

[アンコール]
⑯微笑みは涙を超える(作詞: 下山啓、作曲: 宮川彬良)

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