#10 大学教員の憂鬱「単位、何とかなりませんか」
単位って、数字だ。
でも、数字の顔をした「事情」でもある。
ちゃんと出席して、課題を出して、試験を受けて、落ちる人は落ちる。
それが当たり前で、だから単位には意味がある。
……はずなのに、年に何回か、その前提がぐらつく瞬間がある。
「何とかなりませんか」の正体は何か
たとえば、期末試験が近づいてから突然はじまる相談。
メールの件名が、やけに丁寧だったりする。
「ご相談」「お願い」「至急」みたいな言葉が並んで、だいたい読んだ瞬間に胃が重くなる。
「何とかなりませんか」
言い方は丁寧で、目はわりと必死。
ここで言う「何とか」は、理解を深めることではなく、単位(成績)の数字を動かすことだ。
理由はいくつかある。
体調、家庭、バイト、メンタル、環境。
どれも、本当に大変なことはある。そこは疑わない。
ただ、話が進むにつれて、別の論点が混ざってくる。
「出席は足りないけど、意欲はあります」
「課題は出してないけど、気持ちはあります」
「試験は受けてないけど、今なら頑張れます」
気持ちは大事だ。
でも単位は、気持ちの証明書ではない。
学んだことの最低ラインを、最低ラインとして守るためのものだ。
あいまいな基準で壊れるもの
それでも現場には、現場の事情がある。
退学率とか、留年率とか、進級とか、就職とか。
数字がぶら下がってくると、空気が変わる。
いつのまにか「学び」の話から、「手続き」の話にすり替わっていく。
ここが、単位認定のいちばん怖いところだと思う。
誰かが悪人だから起きるわけじゃない。
“みんな少しずつ困っている”状態で、少しずつ基準が溶ける。
そして、溶けた単位の基準は、元には戻りにくい。
頑張った人が損をする瞬間
学生の側も、薄々気づく。
頑張った人と、ギリギリで滑り込んだ人が、同じ「合格」になる。
すると次の学期、頑張る理由が少しだけ減る。
頑張らなかった人は「次も何とかなる」を学ぶ。
頑張った人は「何だったんだろう」を抱える。
その「何だったんだろう」は、見た目より重い。
単位は学生を守るためにある
教える側も、ちゃんとしんどい。
落とすのが目的じゃない。
できれば全員に単位をあげたい。
ただ、単位を認定するなら、最低ラインに必要な内容を学ばせなきゃいけない。
その“学ばせる”の方が、本当はずっと手間がかかる。
ラクなのは、合否の線(基準)を曖昧にするほうだ。こっちは、たぶんいつでもできる。
単位は、学生を追い詰めるためのものじゃない。
到達すべき最低基準を示し、学びを次につなげるためにある。
どこまでやればいいかが見えるから、次に進める
教員がやってはいけないこと
闇って言うと大げさだけど、暗がりは確かにある。
暗がりのいちばん厄介なところは、慣れると見えなくなることだ。
たとえば、えこひいき。
言い切るのは乱暴かもしれないけど、たぶん「ない」とは言えない。
僕は学生の頃、それを食らった側なので、いまでも根に持っている。笑
単位の話って、数字の話のふりをして、わりと感情の話でもある。
もちろん、教員は機械じゃない。
学生が「あの教員が苦手」と思うように、教員側にも同じ種類の感情がある。
相性もあるし、言い方ひとつで引っかかりもする。
厄介なのは、そのすれ違いが「気分」で終わらず、レポートの合否みたいな“結果”に触れてしまうことだ。
本人は採点基準のつもりでも、受け取る側は別のものを感じる。
逆もある。学生の態度ひとつで、教員の心の温度が変わる。
その温度差が、レポートの点数の境界線にじわっと染みることがある。
だから、せめてこの暗がりを言葉にしておく。
単位は、優しさの代わりに配るものじゃない。
優しさは、別の形で出す。
僕が引く線、引かない線
僕が心がけているのは、最初の講義で基準をはっきり示すことだ。
たとえば最低点。試験はマークシートにしている。点数はそのまま結果になる。改ざんの余地を残さない。出席点みたいなものも作らない。つまり、加点はしない。
レポートは、期限を過ぎたら受け取らない。
ここは情が入りやすい場所だから、先に線を引く。
とにかく、頑張っている人は評価される。やらない人は評価されない。
ただ、それで終わりにしない。やり直せるように、選択肢は残す。
次に進むための選択肢だ。言い訳の逃げ道じゃなくて。
公平って、冷たいことじゃなくて、最初に約束して、それを守ることだと思う。
たぶん基準の約束があるだけで、誰かの「何だったんだろう」が少し減る。
……とはいえ、期末試験が近づくと、今日も件名が丁寧なメールが来る。
嗚呼、胃がいたい‥。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
たぶん、みんなの知らない大学の闇。まだあります。笑 また書きます。
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