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KDDIが親会社でも救えなかった。フードデリバリー「menu」解散を数字で読む

2026年8月19日、menuが消えることが決まった

KDDIが本日、フードデリバリー「menu(メニュー)」の提供終了と、運営会社menu株式会社の解散・清算を発表しました。

公式発表の骨子は次の3点です。

・2026年8月31日、KDDIがレアゾン・ホールディングス保有のmenu株を全株取得し、完全子会社化する(予定)

・2026年9月30日、サービス提供を終了する(予定)

・サービス終了後に、menu株式会社を解散・清算する

理由として書かれているのは、「フードデリバリー市場を取り巻く競争環境の変化や今後の事業見通しを総合的に検討した結果、経営資源の最適配分の観点からサービスを終了する判断に至った」という一文だけです。

正直、この一文だけ読んでも何も分かりません。「競争環境の変化」とは何か。「事業見通し」がどう悪かったのか。公式には数字が一切ありません。

そこでこの記事では、公開されている数字を並べて、menuがなぜ立てなくなったのかを自分なりに読み解いてみます。結論を先に書くと、menuは「サービスが悪かったから」ではなく「3位だったから」消えた、というのが私の見方です。

半年前まで「拡大」を発表していた会社

まず、menuがどういう会社だったかを短く振り返ります。

・2019年4月:テイクアウト専用アプリとして開始(運営はレアゾン系)

・2020年4月:デリバリー機能を開始。コロナ禍の巣ごもり需要に乗って急拡大

・2021年6月:KDDIと資本業務提携

・2022年6月:KDDI・menu・ローソン・三菱商事の4社提携。Ponta会員向け割引を開始

・2023年4月:KDDIが50.6%を出資し、連結子会社化(残り49.4%はレアゾンHD)

・2024年12月:東京・大阪で24時間配達を開始

・2025年8月:ナチュラルローソン76店舗の取扱開始

・2026年1〜2月:関東・関西で数百エリア規模のサービス拡大を発表

注目してほしいのは最後の行です。解散発表のわずか半年前まで、menuは「エリア拡大」を発表し続けていました。

つまり、外から見える限り「じわじわ縮んで消えた」のではありません。拡大の発表を続けたまま、ある日突然「終了」に切り替わった。これは、現場のサービス運営が行き詰まったというより、親会社の側で「この事業には資源を割かない」という判断が下されたと読むのが自然です。

数字で見る序列:3位は2強の3分の1だった

では、市場の中でmenuはどの位置にいたのか。

調査会社ヴァリューズが公開しているアプリの月間利用者数(2023年6月〜2024年5月)は、おおよそ次の通りです。

・出前館:約1,660万人

・Uber Eats:約1,550万人

・menu:約524万人

・Wolt:約375万人



2強とmenuの差は約3倍。しかも2強の間はほぼ拮抗しているのに、3位との間には大きな崖があります。

そして今年、この4社のうち下位2社が立て続けに消えました。

・2026年3月:Wolt(4位)が日本からの撤退を発表

・2026年8月:menu(3位)が解散・清算を発表

半年で3位と4位が消え、日本のフードデリバリーは事実上、出前館とUber Eatsの2強に収束しました。

なぜ「3位」は生き残れないのか

ここからが本題です。私は理由が3つ重なっていたと考えています。

理由1:配達は「密度」の商売で、密度は順位で決まる

フードデリバリーの原価の中心は、配達員に払う1件あたりの報酬です。この1件あたりコストは、注文が密集しているほど下がります。

・注文が多いエリアでは、配達員が1件届けたらすぐ次の注文がある。待ち時間が短く、1時間で運べる件数が増える

・注文が少ないエリアでは、配達員が待つ時間が長い。運べる件数が減り、稼げないから配達員が離れる。配達員が減ると届くのが遅くなり、客も離れる

この「密度が薄いと全部が悪くなる」ループは、エリア単位で効きます。全国3位ということは、ほぼすべてのエリアで密度が2強より薄い、ということです。

配達網は、シェアが低いほど1件が高くつく。この構造がある以上、3位は同じ料理を同じ値段で届けても、2強より原価が高い状態から抜け出せません。

理由2:値下げ合戦が始まり、体力勝負になった

2025年1月、韓国系の「ロケットナウ」が「送料・サービス料0円」「店頭と同じ価格」を掲げて日本に参入しました。これに対抗するかたちで、Uber Eatsは有料会員向けに配達手数料とサービス料の無料化に踏み切っています。

値下げ合戦になると、勝つのは「1件あたりの原価が安い側」です。密度で負けている3位は、同じ値下げをしても傷が深くなる。付き合えば赤字が膨らみ、付き合わなければ客が逃げる。どちらを選んでも詰みます。

参考までに、2位の出前館の業績を見てみます。

・2025年8月期:売上高397億円(前年504億円から約2割減)

・営業損失49.2億円、最終損失49.7億円

・2019年8月期以降、一度も黒字になっていない

2位でこれです。1位のUber Eatsは黒字化したと報じられていますが、2位ですら年間50億円近い赤字を出す市場で、3位が儲かる理屈は見当たりません。

理由3:親会社の「経済圏」は、集客には効いても原価には効かない

「でもKDDIが親会社でしょう。au経済圏があるじゃないか」と思う人もいるはずです。私も最初はそう思いました。

たしかにKDDIはPontaポイントの割引、auスマートパスプレミアムの特典、ローソンとの連携など、注文を呼び込む仕掛けは用意しました。

ただ、ここに構造的な問題があります。経済圏の特典で呼んだ注文は、割引がついている分だけ1件あたりの粗利が薄いのです。密度が薄くて原価が高いところに、粗利の薄い注文を積み上げても、赤字の額が増えるだけになります。

親会社の力は「集客」には効きますが、「配達員1人が1時間に何件運べるか」という物理的な原価構造には効きません。そして勝敗を決めていたのは後者でした。

KDDIの発表文にある「経営資源の最適配分」という言葉は、裏を返せば「通信・金融・AIといった本業周辺に資源を寄せる。フードデリバリーは、追加投資しても勝ち筋が見えない」という判断だと私は読みます。

「大手が親会社なら安心」は、もう根拠にならない

今回の件で一番はっきりしたのは、「大手の連結子会社である」ことも、「月間500万人が使っている」ことも、単独ではサービス存続の条件にならない、ということです。

これはフードデリバリーに限った話ではないと思っています。個人開発やWeb運営をしている立場からすると、自分が乗るプラットフォームを選ぶとき、つい「親会社が大きいか」「利用者数が多いか」で安心してしまいます。

でも本当に見るべきなのは、そのプラットフォームがその市場で「2位以内にいるか」、そして「その事業が親会社にとって本業か、それとも実験か」の2点ではないでしょうか。

menuはKDDIにとって本業ではなく、コロナ禍で伸びた市場への「相乗り」でした。市場が頭打ちになり、値下げ合戦で見通しが暗くなれば、実験は畳まれます。それが今回の答えでした。

利用者・加盟店・配達員はどうなるか

KDDIの発表では「お客さま・加盟店さま・配送員さまへの各種対応」を進めるとだけ書かれており、具体的な内容はまだ公表されていません。現時点で言えるのは次の程度です。

・利用者:サービス自体は9月30日まで使える予定。アプリ内のポイントやクーポンに期限がある場合は、早めに使い切る方が安全

・加盟店:menu経由の売上がある店は、9月末までに他社への切り替えや自社受注の準備が必要

・配達員:menu専業の人は収入源が9月末で途絶えるため、他社登録の準備を

いずれも公式の案内が出次第、そちらを優先してください。

私の見方:淘汰は「質」ではなく「順位」で起きる

最後に、私の意見をまとめます。

menuのアプリが特別に悪かったとは思いません。24時間配達やローソン連携など、やっていたこと自体は筋が通っていました。それでも消えたのは、密度の経済が効く市場で3位だったからです。

そしてこの市場は、まだ終わっていません。ロケットナウは0円路線で参入したばかりで、赤字を掘っている最中でしょう。出前館はLINEヤフー傘下で赤字を続けながら「配送料無料の常態化」まで検討していると報じられています。

1位でようやく黒字、2位で年50億円の赤字、3位は退場。 これがフードデリバリーの2026年の現在地です。次に何が起きるかは分かりませんが、「順位が低い側から消えていく」というルールだけは、はっきり見えたと思います。

出典

・KDDI News Room「フードデリバリーサービス『menu』の提供終了およびmenu株式会社の解散・清算について」(2026年8月19日)

・Wikipedia「menu (アプリケーション)」(沿革・資本構成)

・ヴァリューズ「人気デリバリーアプリ『Uber Eats』『出前館』『menu』『Wolt』のポジション分析【2024年最新版】」(月間利用者数)

・ITmedia ビジネスオンライン「赤字続きの出前館と『2期連続増収、黒字』ウーバーイーツ、どこで差が付いたのか」(2025年10月)(出前館の業績)

・ライブドアニュース「Wolt撤退、Uber Eatsと出前館が『2強』のフードデリバリーは価格競争の次の段階へ」(2026年3月)

※本記事は2026年8月19日時点の公開情報をもとに書いています。数値は各出典の集計時点・集計方法によるもので、最新の状況は各社の公式発表をご確認ください。文中の分析・意見は筆者個人のものです。

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