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【ピリカ文庫】ひまわり【ショートショート】

ただどこを目指しているわけでもなく、ふらふらと歩いていた。「散歩」と言えばポジティブに聞こえるだろうか。
ふと、場の雰囲気が変わったような気がして顔を上げると、目の前に広がっていたのは濃い緑色の世界。なんて深く優しい景色なんだろう。先ほどまでうるさく鳴いていたはずのセミの声も今は聴こえなくなっていた。この静かな世界でひと休みしたい。そうすれば、少しは私の心も晴れるかもしれない。

そこはひまわり畑だった。しかし私の心を惹きつけたのは、太陽のような花ではない。それを支える茎、そしてその茎から出る沢山の大きな葉っぱたちだ。真っすぐと立ち並び、「畑」というよりは森林に近い雰囲気を漂わせている。樹海、とは言い過ぎだろうか。とにかく今まで知っているものとは違う。それに眩し過ぎるひまわりの花は、私の背丈からは随分と遠い位置にあり、心はそこまでたどりつけそうにない。

そっとひまわり畑に近づいてみる。

『ひまわりの葉ってこんなに大きかったかな。』

花に比べ、随分と大きい。なんて力強い葉なのだろう。
「なんだこんなにも力強く支えられていたのか」と、何と重ね合わせたのか、ふとそんな言葉が浮かぶ。
たしか小学生の頃、観察日記をつけたはずだ。あの頃はひまわりの眩しさに負けないくらい、こちらも目を見開いて、その大きな瞳で花や、ぎっしりとつまった種ばかりを見ていたのだろう。そして何もかも分かったように思っていたけれど、肝心なところを見落としていた、あるいは幼くて気づけなかったのかもしれない。

そんなことを考えながら葉を眺めていると、ここ最近みんなが私にかけてくれた言葉を思い出した。みんな、私を想っての言葉だったけれど、何一つ響いてこなかった言葉たち。悲しみのどん底にいる時はどんな言葉も鬱陶しく感じてしまい、またそれを返す時の顔を用意するのも面倒だった。

それが今は、一枚一枚の葉からみんなの顔が浮かび、そこから一つ一つの言葉が私の中に響いてくるではないか。

この大きな葉は、そのまま広い心を表しているかのよう。

いつの間にかぽろぽろと涙がこぼれ落ちていた。その涙が大きな葉の上でパラパラと心地よい音を立てて、リズミカルに上の葉から下の葉へと順番にはじかれていく。まるでビー玉で遊んでいるみたいだ。その軽やかな様子を見ていたらいつの間にか、心がすっきりと晴れていることに気がついた。

きっとみんなも分かっていたのだろう。どんな言葉をかけても、今は響かないことを。それでも広い心で、声をかけ続けてくれた人たち。黙っていられない人たち。私もみんなも不器用で、そして愛すべき人たちだ。

それにしてもここが樹海でなくて良かった。戻ってこなくちゃならないのだから、「畑」くらいがちょうど良い。思わず、ふふっと笑いがこみ上げる。

またセミのうるさい声がしてきた。
そしてひまわりは先ほどとは角度を変え、今はこちらを見ている。そして変わらず、眩しく輝いていた。


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