【小説】父帰還する。
第三話
『ここが親父の居た会社なのか。』意外に綺麗な建物を見上げて考えた。
中に入ると雑な受付があって、おばちゃんが座っている。
「すいません、ここに居た人の事を聞きたいんですけど、良いですか?」丁寧に聞いてみる。
「良いけど、全員の事を知ってるわけじゃ無いからね、そうか個人情報が有ったか、まあいいか駄目だったら言うわ。」気楽に答えてくる。
「森修って人間なんですけど。」と口に出す。
自分の親の名前を他人の様に言うのは、離れた時間が長いからかも知れない。
「もう一度言って、森何だって。」おばちゃんが労働者名簿を捲りながら、聞いてくる。
「森、修です。」ハッキリと答えた。
「可哀そうにその人亡くなっているよ、何か喧嘩でもしたのかな、身寄りが無いって言うのでここで葬式したんだよ、あんた親戚か何か??」
唖然とした。
勝手に出て行って、10年も帰って来なかったから、帰ってきたら文句を言ってやろうと思っていた。
恨みがあっても死んでほしかったわけじゃ無い、自分は文句が言いたかっただけだ。
それに、家にいるあの男は誰だ、父親に似ているが、父に兄弟なんて居ない。
「間違いじゃ無いですか、違う人じゃ無いですか。」慌てて聞いてみる、今家にいるのは誰なんだ。
「こんな事件あっては困るだろ、だから皆覚えている筈だよ。」疑うなと言いたげだ。
「私は森修の息子なんですが、数日前に10年ぶりに父親が帰ってきたんです、じゃあ、それは誰なんです??」
「私には解からないけどね、亡くなってるよ、死亡証明を貰って行ったらいいよ。」
あれは誰なんだ、何故父親のふりをしているんだ。
役所で死亡証明書を貰って慌てて家に帰る。
「ただいまー。」あの男は仕事で遅くまで帰らない、2人に父親は死んだと言おう。
「お母さん、美月、話したいことがある。」
「なあに、改まったりして、大学は行きやすくなったから、私大にでも行きたいの??」美月が茶化す。
「真面目な話なんだ。」座り直して2人が座るのを待つ。
「どうしたの??」母が手を拭きながら、キッチンから出てきた。
そう言えば、家にバター醤油の香りが広がっている。
父親は鶏肉をバター醤油で焼くのが好きだったなと思いだした。
「これ見てくれ。」父親の死亡証明書を目の前に出す。
「これがどうしたの??」さも当たり前の様に母親が答えた。
「だって、あの男は父親じゃ無いんだぞ、おかあちゃんそれでいいのか??」
「ねえ、翔太、家族って何だと思う??」いきなり母親が話し出す。
「一緒に暮らす仲間みたいなもので、血が繋がって居たり、愛情で結ばれたりしているグループかな?」
「そうだと思うんだよ、おかあちゃんもね、でもさ、お父ちゃんとは一緒に暮らしてこなかったでしょ。」
その問いに、自分と美月は頭を縦に振る。
「血が繋がっていたって、出てっちゃうんだよね、言いたいこと解る??」母が続けて言う。
「愛情なんてさ、不確かで訳が分からない物信じられないよね、実際お父ちゃんは出て行ったし。」
「でも、あいつは父親でも無ければ、知り合いでさえ無かったんだよ。」折角調べてきたのに否定されるとは思わなかった。
「うん、だから信頼はしてない、でもねお父ちゃんは信頼して任せたんだよね、だって通帳や印鑑を盗まないで持って来てくれたんだよ。」
「うん、私もそう思う。」何時の間にか、美月も話し出す。
「私もちょっと違うと思ったんだよね、お父ちゃんのやけどの跡はさっきできたみたいfだし、無口だったのによく話すし。」
「でもさ、お金持って来てくれて、この家で悪い事をする訳じゃ無いよね、大体あの通帳程大事な物なんて家には無いよ。」
確かに、あいつが何故来たのかが解らない、通帳や印鑑はおかあちゃんに預けて、家事は手伝って、生活費は出す。
ここに来てあいつに良い事なんて何もない。
「考えたら、損得で行ったら、この家に居るのは損でしょ、なのに居るなら私は共同生活者で良いじゃない。
「じゃあ、折角死亡証明書持ってきたのは無駄か~。」何だか疲れてきた。
「それは必要だよ、保険の手続きや、銀行に出してお金を引き出さなきゃ、あのくらいの金額なら税務申告は必要ないだろうけど。」おかあちゃんはヤッパリよく考えている。
「今親父だって言っている奴は如何する?」
「良いんじゃない、このままで、気にしないよ。」
「それにしても、何でここに来たんだろう??」
「解らないけど、きっとお父ちゃんに頼まれたんじゃ無いかな。」
「このままでいいの?」
「良いんじゃない、このままでも。」
その時に玄関のドアが開いて、声が聞こえた。
「ただいまー。」家族になった他人が言った。
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