【小説】父帰還する
あらすじ
10年前に出て行った父親が帰ってきた。
その父親がどうにも父とは考えられない息子の翔太は、本人かどうか調べようとする。
実はその男は父親の同僚の似た男だった。
父親に頼まれて、父親のふりをして、家に父親の持ち物を持って自分が父だと言った。
それは頼まれた事だった。
翔太は父親が死んで、その代わりに男が来たという事を暴いた。
それを母親と妹に言うと、家族とは何かといわれて、結局はそのまま、生活をする事にした。
その日は早く学校が終わって、自分と妹で留守番をしていた。
留守番と言っても、もう小さい子供では無いのだから、お互いに好きな事をしている。
妹は友達が遊びにくる予定があるらしく、家中にバターと砂糖の匂いが充満していて、キッチンに行って1つ摘んでこようかなと思っていた。
妹の美月が家でお菓子を作るようになって随分になる。
最初は慣れなくて泣いて手伝いを求めていたが、今は素人とは思えない手際の良さに為っている。
最初に作ったのは、母が哀しい顔をしたからだった。
「お母さん、裕子ちゃんのお家に行ったら、手作りのお菓子を貰ったの、美味しかった~。」美月が母に話していた。
「そう、良かったね、お菓子くらい作れたら良いんだけど。」哀しそうな顔で母が答える。
母にすれば、仕事が忙しくて家にいて、クッキーを焼くなんてできない、自分がしてやれないのを、情けなく思っていたのだろう。
その頃の我が家では夕食も総菜を使う事が有る程忙しく、お菓子を作る余裕なぞ何処を探しても無かった。
その次の日の事だ。
「お兄ちゃん、お母さんにお菓子作ってあげるから、お金出して。」美月が声を掛けてくる。
「お菓子なんてできるのか??」食材を無駄にするんじゃないかと聞いてみる。
「大丈夫だよ、裕子ちゃんのお母さんに作り方書いて貰ってきたから。」
妹の手の中には丁寧な字で書かれたクッキーのレシピが有った。
「じゃあ、買い物も作るのも手伝うわ。」未だ1年生の妹を1人で買い物に行かせるのは不安が有る。
ここは一緒に行ってやろう。
その日は宿題もそこそこに、2人でクッキーを作り出した。
「お母さんに美味しいクッキーを食べさせてあげるの。」意気込んだ美月と自分だったが、その時には焼き過ぎた甘いものが皿に乗っていた。
「ただいま。」母が帰ってきた時には、妹が泣きだしていた。
「どうしたの??喧嘩は駄目よ。」疲れた顔で自分達に声を掛ける。
「喧嘩じゃ無いんだけどさ。」自分が口を開くと、美月が声を上げた。
「お兄ちゃんの所為じゃ無いよ、美味しいお菓子が出来なかったの。」泣き声が大きくなる。
「どれどれ。」母がキッチンにある焼き過ぎを見つけた。
「それは駄目、不味いの。」美月が止める間もなく、母が口に入れる。
「ウウーン、美味しいよ、チョット焦げたのも美味しさを挽き立ててる、始めて作ってこんなに美味しいんだったら美月天才かも知れない。」美月が泣き止んだ。
「本当に???」自分も口に入れてみる。
「チョット美味しいかも。」母につられて美味しいと思った様だ。
「お母さんはね、美月と翔太が作ってくれるものなら何だって美味しいよ。」母も涙を浮かべている。
その日の夕食は焦げたクッキーが主食になった。
それから美月はお菓子作りの達人になるべく、自分の小遣いを全てつぎ込んでお菓子を作っている。
今日は友達でも呼ぶのだろう、いつもよりも長い間キッチンに籠って、お菓子を作っている。
自分は甘い匂いの中で勉強をしている、上の学校には行きたいが、家にそれ程の余裕は無い、バイトもするが、国公立大学でなければ、学費も出ない。
生活費は家から通えばそれほど掛からないが、学費を借りるのも大変だ。
家に居る時には勉強だ、それが自分たちの豊かさへの道なのだ、母1人が負担するのは申し訳ないが、学校を出たら楽させてやりたい。
母が生活を担う様になって10年になる。
あの日の事は忘れられない。
「ただいま~。」学校から帰ると返事が無い。
いつもなら母親のお帰りの声が玄関まで響き渡る筈だ。
何が有ったんだと靴を脱ぎ捨てて、家の中に入る。
其処には母が妹を抱きしめて座っていた、『どうしたんだろう??』子供ながらに何も言えずにいた。
人間はいざという時には言葉が出ない物なのかもしれない。
「お母さん、ただいま。」固まった空気を切り分ける為に声を出す。
「ああ、翔太、おかえり、どうしよう、どうしよう。」何が言いたいのか解らない、母は何時も泰然としていたのに。
「如何したの??」家に帰ったばかりで、どうしたらいいのか。
「お父ちゃんが、お父ちゃんが。」美月が母の代わりに話し始めた。
「お父ちゃんがどうしたの??」次の言葉を待つ。
「お父さんがね、出て行くって手紙を置いて居なくなったの。」母がしっかりした口調に戻った。
「帰って来るんじゃ無いの??」父親が出て行くなんて考えていなかった、出て行っても帰って来るだろうと考えた。
「帰って来ないって書いてあるんよ、おかあちゃんだけに為っちゃった。」母親が手を出して自分に話す。
「おかあちゃんは一人じゃ無いよ、俺も美月もいるじゃないか。」哀しい顔の母を力づけようと、手を握り返して答える。
「そうだね、お父ちゃんも帰って来るかもしれないし。」母がいつもの気概の有る声を取り戻した。
こうして、母と自分と妹の3人だけの生活が始まった。
父親がどんな理由で家から出て行ったのか、全てを捨てて行ったのかは解らない、解っているのは、父親が出て行っても自分たちは生活をしなければ為らない。
それでも、人間が1人いなくなると、家族は先ずは探す、探して探して、探し疲れてから、これからの生活を考える。
母はこれを仕事をして、自分たちの世話をしながらしてのけた。
自分達も子供ながら手伝ったりしたが、子供のする事には限度がある。
小さい頃は父が居なくて大変な日々だった。
母は遅くまで帰って来ない。
幼稚園のお迎えも自分の仕事で、連れて帰ると自分は友達と遊びに行く時間も無い。
その頃美月はよく泣いていた。
机の下に潜り込んで遊んでいるのかと下を覗くと泣いている。
「どうした、誰かと喧嘩でもしたか?」泣いているのが嫌で聞いてみる。
「おかあちゃん、おかあちゃん。」それしか言わない、本当に泣きたいのは自分の方だよ。
寂しがっている美月には言わなかったが、泣きたい思いは家中に溢れ返って、父の不在をそこら中から感じた。
母は父の分も働いて家事をした。
母には親に頼るといった選択肢も無く、近所にも知り合いは居なかった。
「知っている人誰もいなかったんか?」少し大人になってから母に聞いた事が有る。
「そうやね、ここはお父さんの故郷で、私の故郷は遠いから。」諦めの貼り付いた顔で答えてきた。
「おかあちゃんの故郷に帰ったら良かったのに。」美月も話しに混ざる。
「おかあちゃんの故郷にも、もう知り合いは誰も居らんのよ、ここで生きるしかないと思ってさ。」それしか無いでしょって顔で笑う。
自分は早く大きくなって、2人を守らねば、そう心に刻んでいた。
父親の「翔太は男の子やでおかあちゃんや美月を守るんやぞ。」の声が響く。
無口な父親が自分に言い聞かせた言葉だ。
そんなこと言って自分が逃げたくせに、2人を守るのは父親の言葉とは関係ない、頭に浮かぶ言葉を振り払って生活をしていた。
3人の生活は厳しかった。
毎日貰っていたお小遣いは週一になり、外食は夢のまた夢になった。
節約もしていたが、そんな事では自分たちの学費が払えない、母はそう考えて直ぐにしっかり働くことにしたのだろう。
最初に考えた帰ってくると言う想像はもう遠くの果てに消えて、我が家は3人の生活を続けていた。
残された人間は日々の生活をしていかなければ為らない、逃げた人間とは違って生活をしていかなければ為らないのだ。
父が居ても居なくても、自分たちは家族で暮らしてきた家からは離れる事は無かった。
その選択を選んだわけでは無い、他に行く当ても無い、引っ越すお金も無い、父親は居ないのナイナイ尽くしで、仕方なく家に居続けている。
ここに居るのは父親を待っていた訳では無い、きっと父親もそれは解っている筈だと考えていた。
玄関のベルが鳴った。
「ハーイ。」友達が来る予定でも有ったのか、妹が手を止めて大声で玄関に向かっていった。
「ただいま。」男の声が聞こえてくる、誰だ、誰も来る予定はなかったぞ。
「エッ、あの、ちょっと待ってください。」美月の戸惑った声が聞こえてくる。
親戚でも来たのかな、仕方が無い、追い返してやるか。
部屋のドアを開けて、玄関の方に向かうと、「どうした??」声を掛ける。
「お兄ちゃん、変な人が来たの。」戸惑った妹が居る先に、何処かで見たような顔の男が立っている。
「おい、翔太か、随分大きくなったな、俺が解かるか??」自分にとってはさっぱりだ、それでも自分の名前を呼ぶ親戚などいない。
「若しかして、親父か??」自分も予想して居なかった事態に、言葉は口から留まって、出てくる気配がない。
「お父さん???」妹が素っ頓狂な声を上げる。
「おお、美月も大きくなったな、もう中学生か??」父似の男が話し出した。
「10年ぶりかなー、未だここに住んでいたんだな、待っててくれたのか?」スラスラと言葉が続いている。
『親父ってこんなにおしゃべりだったかな?』心の中で呟きながらも、記憶にはうっすらしか残っていない男が父親だと言うと、どう返していいか解らない。
『そうだ、親父が帰ってきたら言ってやりたい言葉が有ったんだった。』
頭に浮かんだその言葉を、10年ぶりに声に出してみた。
「親父自分勝手に出て行ったのに、急に帰ってきて、ただいまは無いだろ、もうここには親父の居場所は無いぞ。」
「お兄ちゃん、お父さんなの?顔憶えてなかったから、私は解らない。」美月が言いつつ、ハッと何かに気付いた様に、キッチンに駆けこんだ。
「オオーイ、お菓子は無事だったか??」玄関から声を掛ける。
「大丈夫だった、でも今日は友達に来ないでって連絡して於くね。」キッチンから声が返ってくる。
「別に俺が居るからと言って、友達と遊ぶのを止めなくて良いんだぞ。」父に似た男が図々しく声を掛けている。
「あんたが来たから、約束の変更をしたんだよ、あんたが又出てったらいいんだ。」ずっと言ってやりたかった言葉だ。
「翔太そんな事言って良いのか??母さんはそんな事言わないんじゃないか。」出て言って欲しいのに、出る気配もない。
『何処まで図々しいんだ。』心の中で叫んでいる、それでも母の気持は解らない、自分が追い返しても良いのか??
「お兄ちゃん、取り敢えず入って貰ったら。」美月が何時の間にか玄関に戻ってきていた。
「でもな、俺たちが家に入れて良いのか??」母親の気持を考えても、家に入れるのが正解なのか。
「仕方ないよ、ここにいても困るでしょ。」美月が男に入る様に促している。
あんなに大変だった10年を美月は許せるのか??顔を見ると良いんじゃないという顔をしている。
「ありがとう、美月は優しいな、翔太の言うのが当たり前だ、10年も顔を出さなかったんだからな。」男は照れ笑いをしている。
「別に優しいわけじゃ無いよ、そこに居ても困るでしょ、お母さんが帰って来るまでそこに居て、お母さんも言いたい事有ると思うし。」
キッチンが見える居間に男が座っている。
母が帰ってきたら追い出してやる、そう考えながら勉強は止めて、居間にいる事にした。
この男が良い人間かどうかは解らない、もしかすると殺人犯だってことも有り得る。
その時には力のある自分が押し留めよう、此処にいる男は子供の時に大きいと思っていた男とは違って、自分よりも一回り小さい、体の大きさでは負けなくなったのだ。
その時だ、ドアが開いて、「ただいま。」という言葉が流れてくる。
「何か知らない靴が在るけど、友達でも来てるの??」母が靴を片付けてから入って来る。
「誰???」男を見て、母が大きな声を出す。
誰かと言われた途端に男がその場で土下座する、そうしてゆっくり顔を上げて、コホンと咳をしてから話し出す。
「俺が急に出て行って、誰って言いたいのは解る、だけど俺も反省したんだ、また一緒に暮らしてくれ。」
母は落ちるかと思うほど目を開けて、考え込んでいる。
普通に考えて10年いなかった父親なんて他人だ。
母が悩むのが信じられない。
「これまでの10年を考えれば、こんなもんではどうにも為らないんだろうが、ここに金がある、せめてこれを受け取ってくれ、本当は一緒に暮らしたいけど。」最後は小さい声になっている。
開けた通帳には相当な金額が書かれてあった。
「仕事はどうしたの??」母が聞いた。
「ここを出てからしていた仕事が無くなって、こっちで仕事を探してきた、今度は迷惑はかけない。」もう一度頭を下げる。
「どうぞ。」小さい声で母が返す。
「エッ。」男が驚いた声を出す。
「どうぞと言ったんです、居たかったら居てもいい、でも生活費は貰います、それと私達の部屋はこちらに有るので、あなたは離れで寝泊まりしてください、朝ごはんは6時半、夕ご飯は7時、お弁当は自分で作るのが我が家のルールです。」知らない人間に同居のルールを教えているみたいだ。
「ありがとう、恩に切る。」男がそう言って、通帳と印鑑を渡そうとする。
「今の銀行は通帳と印鑑を他人が持って行っても出して貰えないんですよ、私達にくれると言うなら、引き出して持って来て。」そう言って母はキッチンに向かう。
「夕食は簡単なもので良いよね、食材が足りるかな?」そう言って何かを作り出した。
「お母さん、お菓子置いてあるから、退けるね。」美月もキッチンに入って行く。
自分と男はキッチンの様子を伺いながら、お互いを見ている。
剣道でどちらが先に切っ先を出すか探っているようだ。
「ご飯でき上ったら呼ぶから、翔太は勉強してきて。」母の声に、剣を下して自分のお部屋に行く。
そうだ、勉強しているんだ。
朝には3人家族だったのが、夜には4人になったなんて、誰に言っても信じて貰えないだろう。
そんな風に4人の生活が始まった。
やっとここに来た。
徹は家の前で緊張していた。
ここには修として帰ってきた、自分が徹だとは悟られてもいけない、10年も経つとハッキリとは憶えて居ないだろう、いや憶えて居ない事を祈るばかりだ。
玄関の前で顔を作ってみる。
久しぶりに帰ってきた父親がする顔が想像できない。
口を開けたり、眼を開いたり、他人から見たら何をしているんだと思うだろう。
いつまでもドアの前に居る訳にはいかない、意を決してベルを鳴らす。
「ハーイ。」声が聞こえてくる。
修に家族の話を聞くと、子供は2人で下の子が女の子で美月、男の子は上の子で翔太だった。
昔の話だが、それは何度も聞いているから、忘れてはいない。
若い女の子の声だから、これは美月の声だ。
何と言っていいかは考えてきた、ここは『ただいま』でいこう。
「エッ、あの、ちょっと待ってください。」美月が戸惑っている、そりゃそうだ、誰かも知れない男がただいまと云うんだ。
「どうした??」今度は男の子だ、子と言うには身体が大きい、俺よりも大きくなっているのか、想像して居なかったな。
「お兄ちゃん、変な人が来たの。」美月が翔太の後ろに下がる。
こんな男が来たら、警戒してしまうよな、思わず自分を卑下する気持ちが湧き出てくる。
それでも、ここにいなければ為らない、これは修の為でもあるのだ。
「おい、翔太か、随分大きくなったな、俺が解かるか??」解らないのが本当だ、だって父親では無いのだからな。
「若しかして、親父か??」翔太の方から言ってくれたのは有難い。
俺は出来たら嘘は避けたい、まあ、自分の存在自体が嘘に為っているのだがな。
「お父さん???」美月も声を上げて自分を見てくる。
勘違いは有り難い、嘘の自己紹介なんて虚しさしか生み出さない。
「おお、美月も大きくなったな、もう中学生か??」
「10年ぶりかなー、未だここに住んでいたんだな、待っててくれたのか?」
怪しまれない様にと思わず口数が多くなる、修は無口だったのだから、話してはいけないのに。
頭の中で怪しまれた時の言い訳を考える。
10年も会っていなかったら、どう変わっているかは解らないからな。
言い訳を使う間もなく、ここに住めることになった。
俺がこの家族になって良いのか?
修に問いかけてみるが返事は返って来る訳が無い。
1人では無くなり、その上住む所にも困らない、今はそれだけでいい。
父親が帰ってきた。
自分が7歳、美月が5歳の時に家を出て行った人間が、10年経っても言い訳せずに家に居ついている。
本来なら怒りで震える所だが、一緒に暮らしてみて、この状態が意外と心地いい。
無口だった父がよく話す男になっていて、この人間が本当に父親なのか、探ったりしている。
誰かが入れ替わったんじゃないか、そんな疑念が頭から離れて行かない。
人間は10年も経つと変わるのは解る、それでもこう変わって居たら、本当なのか??と疑問が貼り付いて離れない。
「親父、今迄何処に居たんだ??」話したくは無いが意を決して声を掛ける。
「そうだな、何処にいたのかは言わなけりゃならないよな.」考え込みながら、少しづつ話し出す。
「ここから出て、仕事を探そうと思ったんだ、だけど見つからなくてな、家も無かったから住み込みで働けるところを探した。」そう言って、ふうと溜息をつく。
そんなに大変なら何故ここを出て行ったんだ??
自分たちも母も父親がいなくて大変だったんだ。
自分が大変だったなら帰って来たら如何だったんだ??
疑問はしまって置いて、父親の言葉をそのまま聞くことにする。
「ここからは随分離れた所になるが、住み込みで働ける会社があって、前職も気にしないで雇ってくれたから、そこで働いていたんだ。」住み込みの仕事など想像もつかない。
「体力は必要だったが、気にしてはいられないからな。」そこで一息ついたようだ。
「大体、何でここを出て行ったんだよ。」つい厳しい口調になる。
「お兄ちゃん、お父さん帰ってきたんだから。」美月が庇う。
父親が家に帰ってきただけで許せるのが、自分には信じられない、10年だぞ、10年。
「美月は帰ってきただけで許せるのかも知れないけど俺は許せない、温情として理由を聞いてやっているだけだ。」つい言い放ってしまう。
「すまんな、そこは子供には難しいかも知れないが。」父親が言う。
「女でも出来たのかよ。」吐き捨てた。
「お兄ちゃん止めてよ、折角帰ってきたのに。」何故か美月は父親に
「すまん、否定はせん、だけど直ぐに別れたんだ。」言い訳しか出て来てない、そりゃ言い訳も無いよな。
「だからと言ってここに帰って来る訳にもと考えてな、それで違う土地で仕事を探したんだ。」仕事は必要だと解ってたんだよな。
「なるほどね、それで10年も経って何故帰ってきたんだ。」それが一番聞きたかったことだ。
人間は他人を利用する生き物だ、だから今更帰ってきた理由が解らない。
「そうだな、10年経って昔が恋しくなったんだ、当然お前たちもな。」俺の父親はこんな風に素直に気持ちを話す人間だったのか??
「ここに来れば歓迎されると思ってたのか?」歓迎してない自分が聞く。
母親がいないと思うほど静かで話さない。
「歓迎されるとは思って無かった、追い返されたらその時だと思っていた、どっちにしても当ては無い、ここに来る前に戻るだけだ。」何故か言葉を区切りながらゆっくり話している。
「ふん、わかった、ここに住んで仕事は有るのか?」自分が結婚を認めない父親のようだとの考えが浮かんだ。
仕事は有ると言っていた筈なのに、何度もそれを聞いてしまう。
言わなくても良い事を言っているのかも知れない、だけど10年の時間は自分達には開いたままなのだ。
「仕事はする、生活費も出す、それじゃ駄目か?」
「最終的には俺の問題じゃ無いしな、おかあちゃんが決める事だろ。」
3人の顔が母に向く。
「どうぞ。」一言、母親はどうぞとしか言わない。
「良いのか、ありがとう。」父が嬉しそうに言った。
それにしても、何だか違和感がぬぐえない。
自分の父親は話しが下手で、何も言わずに自分のしたい事だけをしていた。
他人が父親に成りすましている気がしている。
そうだ、調べてみよう。
父親に前職を聞いて、その会社に行ってアイツの話を聞いてみよう。
第二話
https://editor.note.com/notes/n7de8bbc20ab3/edit/
第三話
https://editor.note.com/notes/n990d1a9af59c/edit/
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