【noteでBL】資料室の噂
〇まえがき
企画に参加させていただきます! 素敵な企画をありがとうございました✨
https://note.com/triple_combo/n/n1d68e55bfd91
皆さんのフライングパンツ作品を拝読していたら「パンツ履き忘れた」って言いながら平然と段ボール作業をしている&パンツを履き忘れたことも平気で&パンツを履くよりも作業を優先する段田箱根(ダンボールの王子)が頭から離れなくなってしまったのでそのお話を書きました。
そういえば先日ラングレイズデビューしました。あのシリーズで一番のお気に入りはエリーゼです。でもやっぱりどれも美味しい。
以下本編です(4999文字)
※ほんっとうにうっすらですが虫にまつわる要素・ホラーっぽい要素があるため、苦手な方はお気を付けください。
〇本編
9月頭。午前10時。長い大学の夏休みを過ごしていた水菜卯月。彼は今日も段ボールの王子、こと段田箱根の隣にいた。段田は鼻歌を歌いながら段ボールを組み立てていて、卯月はそれを眺めている。
卯月は夏休みの予定は得にない。バイトと友人との突発的な遊びの予定以外は、こうして美術棟の205号室に来て、段田の様子を眺めているだけ。段田の方は美術科で文化祭の作品展示をするらしくなんとなく忙しそうだ。今日も午後から集まりがあるらしい。
「あ……」
卯月の口から小さく声が出て来る。段ボールの紙の匂いに混じって、ふんわりとした石鹸の匂いが卯月の鼻をくすぐる。風呂上がりのような匂い。卯月の心臓が高鳴った。
「ん、卯月さん、どうしたの?」
「いや……、その、朝風呂したのか? 石鹸ぽい匂いがしたから」
「うん。よく分かったね。朝寝坊しちゃって、急いでシャワー浴びて電車飛び乗ってきたんだよねー……。今日、これから集まりあるし、これに乗らないとやりたいところまで作業出来ないーって思ってさ」
「なるほど……」
急いでいた、こともあってか、上は黒シャツ。下はジャージ。しかしそれがどこか緩く抜けた、取り繕わない感じで卯月にとって魅力的に感じていた。例えるならば雑誌に掲載されたモデルのオフ写真のような……。その美しさと距離感の混ざった感情を抱きながら、段田を眺めていた時だった……。
「あ」
「どうした?」
「パンツ履き忘れた」
「は!?」
焦りも慌ても動揺も一切なしに段田はそんな言葉を口にした。隣のクラスに借りること出来る余裕がある時の「教科書忘れた」みたいな雰囲気で。卯月の方が動揺していた。
「そ、そ、そんなことある!?」
「いやー、ほんとに急いでて……。靴下を左右違う柄の履いちゃうのとかあるよね。そういうやつ」
「それとはあまりにもスケールが違う気が……」
着替えの順番的に、靴下は最後の方に履くけれども、パンツはほぼ序盤に履いている。それを忘れる、とはよっぽど焦っていたのかもしれない。
「どうしよっかなあ……」
「それこそ今コンビニに行けば集まりには……」
「今、いいとこなんだけどなあ……。もうちょっと作業したいし……」
「迷うとこそっち……!? コンビニ、走れば間に合うだろ……!」
「でも……」
段田が迷っていたのはこの状況をどう切り抜けるか、ではなくて作業を止めるかどうか、という話だった。もしも履き忘れが周りにバレたら“ダンボールの王子”ではなくて“パンツ履き忘れ王子”になってしまうかもしれない。当の本人は全く気にしてなさそうだけど。卯月としては大問題だった。
「俺がコンビニに行って来る。ちょっと待ってろ」
「ほんとに!? ありがとう、卯月さん!」
段田は多分このままだとパンツ履き忘れ、で一日を過ごしそうだと思った卯月は、王子の名誉を守るため、すぐそばにあるコンビニへと向かった。
コンビニに到着し、自分よりもワンサイズ大きい男性用のパンツを買う。多分これだったら入るだろう、と思って。コンビニって、便利だ……、と卯月は、現代の便利さに感謝しつつ、無事に会計を済ませた。
コンビニから美術棟へと向かっていく卯月。時間を確認する。段田の集まりにはまだ時間的な余裕があって安心する。美術棟の中に入り、205号室に向かおうと歩いていた時だった。
「そういえばさあ。出たらしいよ? 美術棟の地下資料室」
美術棟の入り口、エプロンを着た女性二人が深刻そうな顔で立ち話をしていた。両手には大きな紙袋が提げられている。
「また……?」
「……撒いた方が、もしくは、呼んだ方がいいんじゃ……」
「でも、怖いよ……。私には無理だよ……」
卯月は段田のいる205号室に足を進めていって、遠ざかってはいくものの、彼女達の話し声は断片的に聞こえてしまっていた。
出た、撒く、怖い、呼んだ方がいい。なんとなくそれで連想するもの、お化け。
2階に上がった時に、卯月の身体にぞくり、と鳥肌が立った。
怖い話は極端に苦手、というわけでもない。小学生の頃は児童向けの怪談小説を友達と読んで感想を語り合った。ホラー映画も観ることもある。
けれどもそれはフィクションであるから楽しめるのであって、身近にそんな話があるのは卯月にとっては恐怖でしかなかった。
途切れ途切れに、ひそっと聞いてしまった、得体の知れない話に少し怖がりながらも、卯月は段田の元へと向かった。
205号室では段田が変わらず作業をしていて卯月は安心する。
「はい、パンツ」
「ありがとう~! 卯月さん! 履いてくるよ!」
パンツの入った袋を渡すと、段田は無邪気な笑顔を見せてくれた。パンツを履きに向かった段田を手を振って見送った。しんと、静まった205号室。先ほどの「出た」という言葉と、一人であることを思い出して少し恐怖感が過る。同時に、自身の隣には、ダンボールの作りかけオブジェがあった。
「失礼しまーす」
「段田くん、いる~?」
突然の知らない声に、卯月の身体がびくっ!と跳ねた。恐る恐る視線をそちらに向ける。入ってきたのはさっき美術棟の入り口そばで“出る”何かについて喋っていた女性二人だった。
「あ、段田くんの仲良しの子」
「私達、美術科でお菓子作りサークルの2年なんだけど、段田くんっている?」
「い、今諸用でちょっといなくて……。あと数分もしたら戻ってくるとは思うんですけれど……。何か御用でしょうか?」
流石にパンツ履き忘れて着替えてます、なんて名誉のためにはいかないからぼかして答えた。
「あ、これ、段田くんに渡したくって。文化祭の試作品なんだけど、いっぱい作りすぎちゃって。サークルメンバーだけでは食べきれなくってお裾分けしたかったの。もしよかったら段田くんと一緒に食べて」
「味は自信作だから! もしよかったら今度感想教えてね!」
重みのある紙袋を二つ分受けとった。ちらっと見えた中身はスイートポテトに栗とかが入った蒸しパンに栗まんじゅう……。秋の味覚で作られた美味しそうなお菓子がたくさん入っていた。
「あ、ありがとうございます……」
受け取ったところで、少し気になった。あの時話していた“出る”ものの正体は一体なんなのか。
「あ、あの……」
「ん? どうしたの?」
訊ねようか迷ったものの、恐怖があったのと、盗み聞きみたいな形で話題を出すのもどうか、と思って。
「い、いえ……。その、段田に伝えておきますね」
「うん! ありがとう! よろしくねー」
「失礼しましたー」
扉を開けて彼女達二人は外に出た。「段田くん!」と彼女達の声が聞こえてきたから、段田と遭遇したみたいだ。そこまで時間が掛からずに段田は卯月の元へと戻ってきた。
「いやーほんとにありがとう~。パンツ、助かったよ~」
そして段田に紙袋を渡す。段田は先ほど先輩の女性二人と会っていたから、話はスムーズに進んだ。
「お腹空いちゃったし、二人で食べようか」
「あ、ああ……」
段田は作業を中断。二人で貰ったお菓子を食べる。卯月はスイートポテトを、段田は栗まんじゅうを食べていた。
「美味しい~!」
「ああ、美味しいな……」
自信作、と言っていただけある、お店に売られていてもおかしくないくらいの美味しさだった。
「朝ご飯、カロリーフレンズだけだったから嬉しいな~」
「ちゃんと食えよ。お前、前大変なことになってたんだから」
「大丈夫! 最近はみんなで飲み物もお菓子もストックしてあるから!」
段田は教室の端の机を指さす。その上には美術学部専用食料ボックスと書かれたダンボール箱。その中にはお菓子や飲み物が入っていた。丸いキャラクターが描かれた棒タイプの駄菓子に、せんべいやチョコの大袋。段田が好きな紫色のあのクッキー菓子やそのシリーズもあった。夜遅くまで作業をしていたり、遅刻しかけて何も食べていない、という生徒がいるために、有志でお菓子ボックスを設置しているらしい。
「卯月さんもお腹空いたら食べていいからね! 食べたら何かしら足しておいてね」
「あ、ああ……。いつか、ほんとにやばい時にな……」
流石に違う学部の生徒のものを食べるわけにはいかないので、そんな風に返した。
あっという間にもらったお菓子を食べ終わり、段田は再び作業に入った。段田は楽しそうに作業をしていたけれど、その手が再び止まってしまった。
「どうした?」
「うーん、ここから先、小さいカッター使った方が早いなって思って」
段田は少し迷ったように言う。これは「ダンボールのそばから離れたくない」という雰囲気。先ほどのパンツの時に動こうとしなかったのと同じ迷い。けれども、作業の進行上、やっぱり必要なようだ。段田は立ち上がった。
「地下資料室にあるから取りに行くと思うんだ」
「ち、地下資料室!?」
地下資料室。あの二人が言っていた場所。卯月の身体に恐怖感が走る。
「ん? どうしたの?」
「い、いや……」
「卯月さん、付いてくる? 一人でここにいても退屈だと思うから」
「あ、ああ……」
そして、卯月は恐怖心を抱えながらも、その場所に向かうことになった。
一階の奥に扉があって、扉を開けて下り坂のような構造になっている道を20歩ほど歩く。
「厳密には地下、じゃないんだけど坂っぽくなってるから“地下資料室”って言われてるんだ。どうしても収まり切らないものとかいろいろ置いてたらこうなって。どっちかと言うと物置部屋」
「そうそう」
少し歩いた所に扉があって、暗いごちゃついた部屋があった。地下だからか電気を付けてもなんとなく薄暗い。
段田はぐんぐんと、それこそ探検隊のように進んでいく。卯月もそっとその後を着いていく。
「宝探しみたいで楽しいんだよね~。たまにいいダンボールとかあって」
「ば、バチとか当たんないのか?」
「バチ?」
「そ、その、勝手に持っていって……」
「あ、ここにあるもの、名前書いてるものとか備品以外は大体持っていってOKになってるよ~。それこそ文化祭の看板とかよくリサイクルされてるんだ~」
「なるほど……」
恐怖心を味わいながらも、卯月が進んでいた時だった。
「ひっ……!?」
恐ろしい表情をした人影……、ではなく、人形。人を驚かすような表情をしている。人形だと分かっていても卯月の身体に恐怖が走る。
「ああ、これねー、去年のお化け屋敷で使ったらしいよ~? 卯月さん、怖いのだめ?」
「そ、そんなことはないけど……」
本当にそんなことはない。でも、この状況でこの言葉は強がり感があるなと卯月は思った。
「じゃ、手繋いで行こっか」
「っ……!」
パンツ履き忘れた、からは考えられないようなスマートさ。卯月の心臓がどきりと跳ねた。
「あったあった!」
部屋の奥のペン立て、そこの中に乱雑に突っ込まれた刃物。その中から段田はす、とお目当てのカッターを取り出す。後は戻るだけだ。卯月はほっとした感情を味わっていた。
「卯月さん、この辺り、気を付けてね。何かあったら教えてね。出るから……」
「えっ……、ゆ、幽霊が!?」
けれども、安心感が恐怖に変わる。その時に、食い気味に卯月は訊ねる。
「卯月さん、以外と怖がりさんだね~。幽霊は出ないよ~? 出るのは虫だよ」
「虫?」
「そう。この部屋、外と近いからさ……虫関連でいろいろあるんだよね~。先輩達、とっても大変だったみたいだよ~。去年とかもなんかいろいろあったみたい……」
思わず、お化けの恐怖、とは違った意味で顔が青ざめた。何を話されたのかは自主規制。要約すると、「毒のある虫の被害ではないものの、先輩達がとっても大変だった」ということ。
そこであの二人が話していたことを思い返す。
出る、撒く、怖い、呼ぶ。
出るは虫が出るということ、撒く、は殺虫剤を撒くということ、怖い、は虫が怖い、ということ。呼ぶ、は業者を呼ぶとか助けを呼ぶ、とかそういうことだったのかもしれない。
全部、卯月の早とちり的勘違いだったのだ。
「そういうことだったのか……」
「そ、でも。帰りもさ、手、繋いでいこっか。卯月さん、怖がりさんみたいだし」
「あ、ああ……」
「虫が出てもちゃんと逃がせるから言ってね」
「ありがとう……」
卯月は頷く。安心感と、結果オーライ、という言葉、そして甘い感情が、卯月の胸の中にあった。
〇あとがき
☆“お化けが出ると噂の資料室”は一応実話を元にしています。
・中学校の(確か)3階の端に空き教室的な教室(物置状態で使われていなかった)があり、そこに“出る”という噂があった。
・ただ“何の幽霊がどういう目的で出る”のか、みたいなのは分からなかった&遭遇もしなかった。
・その部屋に文化祭かおみこしで使ったであろう不気味な人形があったためにそれを怖がった誰かの話に尾ひれがついてお化けになったんじゃ……?と推察。でも本当にいたのかもしれない。
・すぐそばが外だから虫が怖い、も本当にあった怖い話。
