違和感はサインだった。自分を「開く」ことで見えた本質の話
深夜2時。
パソコンの画面が発する青白い光だけが、暗い部屋をぽつんと照らしていました。

「あと少しで終わるから」
「これを納品すれば楽になるから」
そう自分に言い聞かせながら握っていたマウスの手は、ひどく冷たくなっていて。
ふと鏡に映った自分の顔を見たとき、そこには、ひどく疲れていて、呼吸の浅さにすら気づいていない、余裕のない私の姿がありました。
「私、何のためにこんなに自分を追い詰めているんだろう」
画面の向こうにいる誰かのために一生懸命になっているはずなのに、
一番近くにいる「私自身」のことを、すっかり置き去りにしている。
その事実に気づいて立ちすくんでしまった夜のことを、私は今でも鮮明に覚えています。
今思うと、あのとき感じた違和感は、ちゃんとサインだったんだと思います。
1. 気づかないうちに、自分を「後回し」にしていた日々
「頑張ること」と「自分を削ること」の境界線が、少しずつ分からなくなっていました。
フリーランスのデザイナーとして歩み始めた私は、いわゆる「駆け出し」と呼ばれる時期の真っ只中にいました。
ありがたいことに、少しずつご縁がつながり、これまでに10件ほどの案件を担当させていただく機会に恵まれました。
自分のデザインがお金に変わり、誰かの役に立っているという実感は、本当に嬉しくて、もっともっと頑張りたいという原動力になっていました。
でも、その「嬉しさ」と背中合わせに、
「期待に応えなきゃ」
「絶対に失敗できない」
そんな思いも、少しずつ大きくなっていったんです。
クライアントさんの要望に120%で応えたい。
納期よりも早く、期待を超えるものを提出したい。
その気持ちが強くなるほど、気づけば私の生活は「仕事」を中心にしか回らなくなっていました。
お昼ごはんは、キーボードを打ちながら片手で食べられるもので済ませる。
睡眠時間を削ってまで、細かい修正に没頭する。
肩こりや目の奥の痛み、何となく気分が落ちるような小さな不調を感じていても、「今はそれどころじゃない」と見ないふりをしていました。
タスク管理ツールには、今日やるべきことがぎっしり並んでいるのに、
そのどこにも「自分を休ませる時間」や「ただぼーっとする時間」は入っていなかったんです。
自分の身体と心を燃料にして、無理やりエンジンを回し続けるような日々。
それは、一時的には進めても、長くは続かない走り方でした。

2. 30代の体が教えてくれた、「立ち止まる」という選択
限界って、大きな音を立てて急に壊れるものじゃなくて、
案外、静かに近づいてくるんですよね。
20代の頃は、1日や2日無理をしても、少し寝れば何とかなっていました。
「気合と根性でどうにかなる」と、どこかで自分の若さと体力を当たり前に思っていた気がします。
でも、30代に入ってから、その「気合」が全然通用しなくなってきました。特に大きかったのが、ホルモンバランスの波です。
PMS(月経前症候群)の時期になると、自分でも驚くほど些細なことでイライラしたり、逆に、何があったわけでもないのに急に気持ちが沈んだりする。
以前なら「ちょっと調子悪いな」で済んでいたものが、
今は仕事のパフォーマンスにまで影響するくらい、大きな波としてやってくるようになりました。

ある日の午後、どうしてもいいデザインのアイデアが浮かばず、画面の前で何時間も止まってしまったことがありました。
焦れば焦るほど頭の中は真っ白になって、指先は動かない。
ため息ばかり増えて、自分を責める言葉ばかりが浮かんでくる。
そのとき、ふと気づいたんです。
「自分を大切にできていない私が、誰かの心を動かすようなデザインを作れるわけがないんじゃないか」って。
デザインって、人と人とのコミュニケーションをつなぐものだと思っています。
相手の想いを汲み取り、形にして、届ける。
それなのに、私自身の内側がカサカサに乾いていて、自分の小さな声すら聞けていないのに、どうして他者の繊細な気持ちを形にできるんだろう。
自分の内側が枯れている状態では、誰かに温かいものを渡すことなんてできない。
そう思ったとき、私は初めて「立ち止まる」という選択肢を、自分に許すことができました。
3. 正解を探すのではなく、「今の自分」を知ることから
「自分を整える」と聞くと、毎朝早起きして、きれいな朝食を作って、ヨガをして……みたいな、完璧で整った生活を想像する方もいるかもしれません。
少なくとも、私は最初そうでした。
でも、私がやり始めたことは、もっと地味で、もっと静かなものでした。それは、「正解」を探すのをやめて、「今の自分」を知ることでした。
フリーランスという働き方は、自由な分、全部を自分で決めなければいけません。
だからこそ、「毎日同じように、一定のパフォーマンスを出し続けなきゃ」と、どこかで思い込んでいたんだと思います。
でも、私たちは機械じゃない。
30代の女性の体には、1ヶ月の中だけでも波があります。
季節の変わり目に揺らぐこともあるし、気圧で頭が痛くなる日もある。
だから私は、「毎日同じように整える」ことを目指すよりも、
自分には波があることを受け入れて、その波を見ていくことに意識を向けるようになりました。
まず始めたのは、自分の体調や心の状態を、手帳の片隅にひとこと書くことでした。
「今日は朝から頭がスッキリしている」
「今日はなんだか体が重い」
「ちょっと心がそわそわしてる」
そんなふうに、ただ今の自分の現在地を見ていく。
それを続けるうちに、自分の波のパターンが少しずつ見えてきました。
「あ、今はホルモンバランスが崩れやすい時期なんだな」
「このタイミングは、あまり無理が効かないな」
そうやって、自分を責める代わりに、自分を理解することが増えていきました。

4. 心地よさのグラデーションを、自分で選ぶ
自分の状態が少しずつ見えてくると、
仕事の進め方も、日々の過ごし方も、変わってきました。
調子がよくて、クリエイティブなことに集中できる日は、アイデア出しや重い作業を進める。
逆に、体が重い日や気持ちが落ちやすい日は、無理に大きな判断をせず、単純作業や整理に時間を使う。
あるいは、思い切って午前中は休む。
白湯を飲む。
深呼吸する。
少し散歩する。
お気に入りの香りを使う。
今日は何もしないと決める。

以前の私なら、こういう時間にすごく罪悪感がありました。
でも今は、それを「甘え」ではなく、「長く続けるための必要な時間」だと思えるようになってきました。
誰かが言う「正しい整え方」じゃなくて、
今の自分が少し楽になれるものを、自分で選んでいく。
その感覚が、すごく大事だったんです。
結局、私に必要だったのは「ちゃんと整った人になること」じゃなくて、
今の自分に気づいて、その日その日の自分に合う選択をしていくことだったんだと思います。
5. 最後に。自分を整える旅は続く
日々やることに追われていると、
自分のことって、本当に後回しになりやすいです。
でも、どんなに頑張っても、
その土台になる自分自身がぐらついていたら、続かない。
私は、自分を整えるために一番大事なのは、高価なものでも、特別な習慣でもなくて、
まずは「今の自分を知ること」なんじゃないかと思っています。
今、自分は何を感じているのか。
何に疲れているのか。
何を求めているのか。
そこに気づいて、自分の一番近くにいる味方になること。
それができるようになってから、私は少しずつ息がしやすくなりました。
もちろん、今でも波に飲まれる日はあります。
焦る日もあるし、自分の不甲斐なさに落ち込む日もあります。
でも前より、そういう自分を「ダメだ」と切り捨てずに、
「今はそういう時なんだよね」と受け止められるようになりました。
それはたぶん、整え方が上手くなったというより、
自分を少し開けるようになったからなんだと思います。
だからもし今、
なんとなく息苦しい感じがしていたり、
頑張っているのにどこか噛み合わない感じがあるなら。
その違和感を、無視しないでほしいです。
それはきっと、何かがおかしいという警告ではなく、
自分の内側からの大事なサインだから。
まずは深呼吸して、
「最近、どう?」って、自分に聞いてみる。
そこから、あなただけの心地よい整え方が、少しずつ見えてくるかもしれません。
あなたは今、自分にどんな言葉をかけてあげたいですか?

