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♯32 7日の蝉。キム・ゴニの盛られた 経歴と墜落

狎鷗亭のキラキラお嬢

アックジョンの新世界百貨店や鳥山公園近くのお洒落カフェあたり・・・。
Aloやルルレモン等人気ブランドのヨガウェア(フーディにレギンス)に身を包み、あるいは冬でも白Tにモンクレのベスト、そして25cmバーキンかシャネルのバッグを傍らに・・・という20代女性をよく見かける。1人でいるか似たような女性の2人組。オーダーはアサイーボウルやサラダ、昼からワインをあけていることも多いが とにかくスマホを片時も離さず自撮りやアサイーをあらゆる画角から撮り続けている。
平日の午後によく見るからきっとOLさんではないのだろう。
財閥の令嬢というにはちょっとギラギラ感が強すぎるし 接待を伴う飲食業の
女性とも雰囲気が微妙に違う。
彼女たちは 日本でいえばキラキラニートお嬢である。
江南の土地開発やその後の不動産投機で巨万の富を得た新興富裕層の子女たちが海外留学でスペックの箔付けをし、帰国後、就職はせず30歳までの数年間、ピラティス、YOGA、カフェ巡り、海外旅行などを繰り返し
<自分磨き>に励む。
そして医者、弁護士や自分の家と同格かそれ以上の財力を持つ家との結婚を目指す・・というのがプロトタイプだが、20代の数年を着飾り、SNSに盛りまくって誇示する姿は、さながら地上に出た7日の命を精一杯鳴き続ける蝉のようでもある・・・。
だが、盛るといえば上には上がいる。
韓国ドラマをまさに地でいった天才的な経歴詐称の女王蝉が・・・。

金建希という女性 

2024年12月3日の夜に大韓民国非常戒厳令を発動し、その後 弾劾訴追・
起訴され現在も公判中である尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領の妻、金建希(キム・ゴニ)氏、その人だ。
金建希は、1972年、京畿道 楊平(ヤンピョン)郡に生まれ元の名を金明信(キム・ミョンシン )といった。(※2008年に現在の名前に改名。)1987年に父が他界。不動産業等で財を成した母(崔銀順氏)のもとで育つ。
この母が、かなりのトンデモ詐欺師なのだがその件はいったんおいておくとして・・・。 京畿大学校 芸術大学 絵画科(学士)、淑明女子大学校 大学院(修士:美術教育)、国民大学校 大学院(博士:コンテンツ・デザイン)と美術関連でキャリアを重ね教授となり、2007年にイベント企画会社「コバナコンテンツ」を設立。
シャガール、マーク・ロスコ、ジャコメッティといった世界的芸術家の展覧会を韓国で次々とプロデュースし、実業家としての地位を確立する。
2012年3月、尹錫悦氏(当時大検察庁中央捜査部1課長)と結婚。尹氏51歳、金建希氏39歳という晩婚で、結婚当時彼女は既に数億の財をもつ資産家だったという。
そして、夫の尹錫悦氏が大統領候補になり注目されることで、がぜん彼女の過去や周囲も騒がしくなっていく。
まず、彼女が美術専攻で大学院を卒業し学位をえたことは事実だがその中身について重大な瑕疵が指摘された。
1999年に学位を得た淑明女子大学校 大学院(修士:美術教育)の修士論文は盗用率が40-50%に達するという結果がのちの大学側の調査で明らかになり、2008年に博士学位を得た国民大学校 大学院(博士:コンテンツ・デザイン)の論文も広範な盗用疑惑が浮上している。
非常勤や兼任教授として雇用され勤務した2つの大学でも虚偽が明らかになった。水原女子大学で2007年3月から約1年間、広告映像科の兼任教授として勤務したが、 履歴書に「2002年から3年間、韓国ゲーム産業協会の企画理事を務めた」と記載、実際にはその期間に協会は設立されておらず、虚偽の経歴であることが判明。2013年から2015年まで兼任教授として勤務した安養大学では 履歴書に「2004年、ソウル国際アニメーションフェスティバルで大賞を受賞した」と記載したが、これも彼女個人に受賞歴はなく、虚偽であることが確認される。2021年12月、大統領選の最中にこれらの疑惑が決定的となり 「よく見せようとして経歴を膨らませ、間違った記載をした。国民の皆様に心からお詫び申し上げる」と述べ、経歴の水増しを事実上認め謝罪したが、彼女の経歴ロンダリングはこれにとどまらず次々と暴かれ、過去に接待を伴うナイトクラブでジュリーという
源氏名で働いていた、とか過去の写真と現在を並べ「あまりにも顔が変わりすぎている」(註:これは本当で学生時代の彼女は小さな目にメガネ、ちびまるこのたまちゃんのような、目立たないおとなしい雰囲気の少女である)という大規模整形説、「彼女のすべてがウソにまみれている」的な批判をした者もいた。

ファーストレディとしての絶頂、そして・・・

そんな選挙戦最中のバッシングもあったが 尹錫悦氏は大統領になり、
彼女もファーストレディとなる。
外遊時のクラシックな装いや、一転して白いTシャツにラフなパンツ姿で犬を連れて散歩するインスタ写真に市民はあこがれを抱き「ゴニサラン(ゴニ愛してる)」なるファンクラブまで結成され、時代のファッションアイコンともてはやされる。
そして 大統領府の公式写真ではなく、「ゴニサラン」のファンコミニティ(facebook上の公開グループ)を通じて、大統領の執務室でくつろぐプライベート写真が流出するという、国家安全保障的にもトホホな事態が連発された。
だが大衆の熱狂や好意はふとしたことで苛烈なバッシングに転じる。
キムゴニ氏の場合は彼女がトレードマークにしていたファッションアイコンというところからほころび始め足元をすくわれたのが皮肉である。
2023年、韓国系アメリカ人、チェ・ジェヨン牧師からDiorのバッグを受け取る隠し撮り映像が公開される。これが「メッキ剥がれ」の始まりである。
ハメる気満々で手元の腕時計型カメラで隠し撮りした相手と
「なんでこんなもの買うんですか?二度と買わないでください」と口では言いつつ、手はしっかりバッグを受け取り、テーブルの下に置く警戒心ゼロの金建希。
ほかにも、ブランドと貢物に弱い彼女は次々と収賄を重ねていく。
さきのDIORに続き、統一教会から提供されたといわれるCHANELのバッグ
2個、GRAFFのダイヤモンドネックレス、雪花秀の化粧品セットや
最高級高麗人参など・・・。こうして書くと
「結構セコイな。数億の資産家なら自分で買えよ」とも思うが、
裁判記録で証拠採用された貢物の数々である。
他にも人事介入疑惑や高速道路の路線変更疑惑、特定宗教家との癒着など
だんだんと彼女の名声は失墜していく。
そして世界中が「殿、ご乱心か?!」と目を疑った2024年の戒厳令。
弾劾訴追、起訴された夫に続き彼女も逮捕され現在も裁判は続き、彼女は拘留されている。
ただの欲深女が失脚したというだけでないやるせなさを感じるのは
この金建希と夫にも 宗教家がかかわっていたという事実である。
パククネの時のチェスンシル・・・既視感とともに「嗚呼またこの過ちを繰り返すのか・・」という失望感である。
金建希は尹錫悦との結婚も占い師のアドバイスで決め、青瓦台から居を移したのも天孔(チョンゴン)という道士のススメ、人事介入や戒厳令さえ、頼っていたという説もあるのだ。(実際、尹錫悦氏の裁判では彼の判断に影響を及ぼした宗教家についての記述がある)
道士とは風水家よりもタチの悪い予言者で 権力者たちの弱さや迷いを
狡猾に利用し蓄財をしているといったら言い過ぎか。
ともあれそんなチョンゴンはじめ占い師や宗教家と関わっていたのは事実らしい。

他人という『鏡』を通じて映し、感じる承認と幸せ

キム・ゴニのジェットコースタードラマのような人生・・。特に尹錫悦と結婚からファーストレディになった10年余は彼女の虚栄心や自己顕示欲を満たす最高に幸せな期間だったろう。
キラキラ自撮り女子にも通じるが、過剰な承認欲求や上昇志向、野心がある者にとっての<幸せ>は、絶対的なものでなく相対的なものである。
自分が満足する、自分だけの世界で充足するのでなく
他者にうらやましがられ褒めたたえられる、他者という鏡を通じて自分を映し自分を認め、酔いしれる。
それは、非常に危うい自意識だとも思う。
キム・ゴニは今 塀の中で何を思うのだろうか?
ドバイやマカオでの巻き返し第2幕を構想しているのだろうか?
それとも尹錫悦と結婚すべきと説いた道士の予言をうらんでいるのか。
過去を悔い 心を病み、壊れるよりは
「あの押収されたDIORとCHANEL、一体どうなっちゃうのかしら?
メンテしないと皮は傷むのに」 みたいなブッ切れ方の方が彼女らしいな、とも思ってしまう。
だが、彼女にとっての本当の地獄は、罪の深さでも、夫の失脚でもない。
どんなに笑顔をつくっても 撮影し拡散してくれる『ゴニサラン』もいなければ自分を映し出す『鏡』も、この独房には、ないということだ。
フィルターをかけられない剥き出しの現実。
7日間の狂乱を終え、土に還るのを待つ蝉の沈黙、
その真実は 案外、そんなところにあるのかもしれない。

【DATA BOX】
ROZÉ's Select:
リアルな「7日の蝉」たちが集う、ソウルの最旬トレンド地帯
1.鳥山公園(Dosan Park / 도산공원)周辺カフェエリア
Access: 地下鉄水仁・盆唐線「狎鴎亭ロデオ(アックジョンロデオ)」駅
        5番出口から徒歩約10分。
Memo: 本文の冒頭に登場する、ヨガウェアに高級バッグを抱えた
     キラキラ女子が集うソウル屈指のハイエンドエリア。美しく  
    整備された島山(トサン)安昌浩の記念公園を取り囲むように、
    アサイーボウルや極上のブランチ、そして「Alo」「ルルレモン」  
    といった人気ブランドのフラッグシップストアが立ち並び、
    一日中スマホでの自撮りシャッター音が響き渡っている。
Check!: 平日の午後にテラス席で昼からワインを開けている、
     ソウルの「新興富裕層」のリアルな生活感を観察できる
     最高のスポット。
 
金建希氏が「実業家」としての絶頂期を演出しキャリアを盛った栄光の舞台
2.芸術の殿堂・ハンガラム美術館(Seoul Arts Center / 예술의전당 한가람미술관)
Access: 地下鉄3号線「南部ターミナル(ナンブトミナル)」駅 5番出口
     からシャトルバス、または徒歩約15分。
Memo: 金建希氏が代表を務めた「コバナコンテンツ」が、シャガールや
    マーク・ロスコ、ジャコメッティといった世界大巨匠の展覧会
    を次々と主催し、ソウルのカルチャーシーンを席巻した格式高き
    アートの殿堂。彼女がファーストレディへと駆け上がるための
    「知的なスペック」を強固に構築した、まさに彼女の人生の光と
     影が交差する象徴的な場所。
Check!: 彼女が経歴を盛り、人々を魅了した美術ビジネスの規模感を体感
    できる、韓国で最も権威ある総合芸術施設。
 
江南マダムとキラキラお嬢たちの物欲が激突する、消費と欲望の絶対聖地
3.新世界百貨店 江南店(Shinsegae Department Store Gangnam / 신세계백화점 강남점)
Access: 地下鉄3・7・9号線「高速ターミナル(コソクトミナル)」駅
     直結。
Memo:  富裕層が大好きな「HERMES」「Dior」「Chanel」などの
     スーパーブランドが狂乱の売り上げを叩き出す、韓国最大の
     メガデパート。エルメス、シャネルを身に纏う江南マダム達
       とそれらを「相対的な幸せの鏡」として追い求めるお嬢たちの
                 欲望が交差する、ソウルにおける 階級社会の縮図とも言える
      場所。
Check!: 彼女が最後まで手放したくなかったであろう、まばゆいばかりの
    ブランドバッグや、押収された「雪花秀」の最高級ラインが
    ずらりと並ぶ、物欲の殿堂。
 

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