見出し画像

[税収] 世界が羨む「隠れ優良国」の憂鬱 —— 6年連続過去最高税収が告げる、緊縮という名のデフレ病からの脱却



こんにちは、葦原翔です。

いつものカフェで、お気に入りのカフェラテを注文したときのことです。レジに表示された金額を見て、私は思わず自分の財布と見つめ合ってしまいました。「また少し、高くなったな」と。

物価の上昇は、私たちの日常をじわじわと侵食しています。10円、50円の値上がりに一喜一憂し、生活防衛のために知恵を絞る。それが、今の日本を生きる私たちのリアルな風景ですよね。

ところが、私たちがこうして財布の紐を固く結び直している傍らで、信じられないようなニュースが飛び込んできました。なんと、国家のサイフには見たこともないような巨額の金貨が転がり込んでいるというのです。

政府関係者が明かしたところによると、2025年度の国税収入は、当初の見通しを大幅に上回り、ついに「84兆円」を超える見通しとなりました。なんとこれで、6年連続での過去最高更新です。

企業の収益が絶好調で、私たちの名目上の賃金も上がったから。それが税収増の理由だそうです。一見すると、「日本経済、大復活じゃないか!」と万歳三唱したくなるような景気の良い話に見えます。

しかし、ここで不思議なパドックスが生まれます。国家のサイフが過去最高に潤っているのに、なぜ私たちの生活はちっとも楽にならないのでしょうか。むしろ、締め付けられているように感じるのはなぜでしょう。

実は、この「過去最高税収」という華やかな舞台裏には、私たちが長年見せられてきた「あるお化け屋敷の仕掛け」と、経済の主役を交代させるための大きな大転換が隠されているのです。

今回はそのからくりを、少し意地悪に、そして優しく解き明かしていきましょう。


第1章:絵の具で描かれた「ワニの口」と、国際標準の眼鏡

日本の財政を語るとき、テレビのニュースや新聞で必ずと言っていいほど登場するお決まりのフレーズがあります。

「国の歳出と税収のグラフは、まるでワニが大きく口を開けたように乖離している」という、あの恐怖の「ワニの口」論です。

負債は大きく資産は小さくして財務省が作ったフェイクデータ


「ほら、上の線(歳出)は122.3兆円なのに、下の線(税収)は84兆円しかない。毎年40兆円近くも借金が増えて、このままだとワニに食い殺されて国が破綻しますよ」と、彼らは深刻な顔で語りかけてきます。

しかし、ここでマクロ経済学の眼鏡、それも世界標準の「国際通貨基金(IMF)」などが使う眼鏡をかけて、そのグラフをよーく眺めてみてください。すると不思議なことに、あの大暴れしていたワニが、急にかわいいトカゲくらいに縮んでしまうのです。

なぜなら、日本のメディアが騒ぐ「ワニの口」は、国の予算のごく一部である「一般会計」だけを意図的に切り取った、日本独自の特殊な絵の具で描かれたものだからです。世界では、そんな狭い範囲だけで国の財政を評価しません。

欧米の基準では、地方自治体のサイフや、年金・医療などを扱う「社会保障基金」までをすべてひっくるめた「一般政府(General Government)」という単位で財政を計算します。これがグローバル・スタンダードです。

欧米諸国では、社会保障の給付という「支出」と、その財源である社会保険料という「収入」が、最初から一つのサイフの中で管理されています。だから、入ってくるお金と出ていくお金のバランスがとても見えやすいのです。

一方、日本はどうでしょう。社会保障の足りない分を、わざわざ「一般会計」から「特別会計」へと仕送り(繰り入れ)する構造になっています。そのため、一般会計の支出だけが異常に巨大化し、税収とのギャップが強調されてしまうのです。

つまり、私たちが実質的な税金として支払っている「社会保険料」を歳入に正しく合算し、欧米と同じ土俵(一般政府ベース)で比較すれば、歳入と歳出の乖離は「絶望的なワニの口」などではなく、十分にコントロール可能な範囲に収まります。

あのワニは、予算制度の歪みが生んだ「視覚的トリック」だったわけです。


第2章:金利上昇というオオカミと、右のポケットの還付金

ワニの次に彼らが連れてくるオオカミがいます。「金利上昇」という名前のオオカミです。「長年続いた異次元緩和が終わり、金利が上がれば、1,342兆円もの巨額の国債に対する利払い費が爆増して、国の予算は破綻する!」というストーリーです。

これもまた、ホラー映画としては一級品ですが、経済のファクトとしては三流と言わざるを得ません。なぜなら彼らは、政府が「借金(負債)」を抱えていることだけを言い立てて、政府が持っている「莫大な資産」を完全に無視しているからです。

ここで、数量政策学者の高橋洋一氏らが指摘する「統合政府」という視点を取り入れてみましょう。これは、政府と中央銀行(日本銀行)を一つのグループ企業として合算して考える、きわめて合理的なアプローチです。

現在、日本国債の約半分を保有しているのは誰でしょうか。そう、日本銀行です。政府が国債の利払いを執行すると、その利息の約半分は日銀の金庫に入ります。そして日銀に入ったお金は、経費を引いた後、「国庫納付金」としてそのまま政府に戻ってきます。

つまり、国債の半分に対する利払いは、実質的に「右のポケットから左のポケットにお金を移動させているだけ」であり、統合政府全体で見ればコストは実質ゼロなのです。金利が上がっても、戻ってくる納付金が増えるだけのことです。

さらに、日本政府は世界屈指の資産家でもあります。外国為替資金特別会計(外為特会)などを通じて、巨額の米国債などの外貨資産を保有しています。近年のアメリカの高金利のおかげで、この資産からは毎年、莫大な「金利収入」が生まれています。

この「資産からの上がり」が、日本国債の利払い負担を大きく相殺しているのです。国際基準である「政府の純利払い費(金利収入を差し引いた実質的な負担)の対GDP比」で各国を比較すると、面白い真実が見えてきます。

なんと、アメリカや欧州各国が深刻な利払い負担(対GDP比2%〜4%超)に喘ぐ中、日本の純利払い費はわずか0.7%程度。これはG7(主要7カ国)の中でもカナダと並んでトップクラスに低い数字です。日本は世界で最も利払い圧力が少ない「隠れた財政優良国」なのです。


第3章:名目の罠を打ち破れ —— インフレ経済における「正しいアクセルの踏み方」

ここまでの話で、財政破綻というオオカミが幻だったことはお分かりいただけたかと思います。では、話を冒頭の「84兆円超の過去最高税収」に戻しましょう。この増え続けるお金を、政府はどう扱うべきなのでしょうか。

財務省的な、いわゆる緊縮派のロジックではこうなります。「税収が増えたといっても、物価が上がれば国の事業コストや社会保障費も膨らむ(名目の罠)。だから余裕なんてない。増えた分は借金の返済に充てるべきだ」と。

これこそが、日本を25年間デフレの底に沈め続けた「縮小均衡の呪い」そのものです。マクロ経済学的に見れば、名目税収が増えている今この瞬間こそ、政府は「減税」と「公共投資」というアクセルを力強く踏み込むべき絶好のチャンスなのです。

なぜなら、名目税収が増えているということは、裏を返せば、国民が物価高に苦しみながら、さらに多くの税金を国に吸い上げられている状態を意味するからです。専門用語でこれを「ブラケット・クリープ(ステルス増税)」と呼びます。

名目賃金が少し上がったせいで、所得税の税率区分が上のステージに勝手に上がってしまい、実質的な可処分所得が減ってしまう現象です。これでは、せっかくの賃上げの果実を国に横取りされているようなものです。

経済がデフレからインフレに転換する大切な過渡期において、この「増えた税収」を政府が金庫に溜め込んだり、国債の償還(借金返済)だけに使うと、民間から購買力を奪う強力なブレーキになってしまいます。

今、政府が最優先すべきは、物価上昇を上回る「実質賃金のプラス」を定着させることです。そのためには、上振れした税収を財源として、所得税や消費税の「減税」を行い、お金をあるべき場所——つまり国民のポケット——へ還流させなければなりません。

経済のパイ(名目GDP)が拡大すれば、税収は後からいくらでも自然に増えていきます。日本の税収弾性値(経済が1%伸びたときに税収が何%増えるか)は、私たちが想像する以上に高いのです。果実はもぎ取るだけでなく、次の成長のための肥料として民間に開放すべきなのです。


第4章:コペルニクス的転換 —— 骨太の方針2026と370兆円の未来

こうしたマクロ経済の正論、あるいは「攻めの財政運営」へのシフトは、もはや一部の専門家だけの主張ではなくなりつつあります。国の最高方針である『骨太の方針2026(経済財政運営と改革の基本方針)』の原案において、ついに歴史的な地殻変動が起きました。

今回の骨太方針における最大のブレイクスルーは、四半世紀にわたって日本の緊縮財政の象徴だった「プライマリーバランス(基礎的財政収支=PB)の黒字化」という単年度のドグマ(教条)が、事実上、主役の座を追われたことです。

代わりに中核目標として据えられたのが、国と地方を合わせた「債務残高対GDP比」の安定的な低下です。これは、「借金の絶対額を減らすために経済を縮小させる」のではなく、「経済を大きくすることで、借金の比率を相対的に薄めていく」という、世界標準の発想への大転換です。

さらに、これまでのように当初予算に一律の厳しい天井(シーリング)を設け、足りない分を補正予算で誤魔化すという不健全な慣習にもメスが入りました。新設される「強く豊かな日本」投資枠には、要求上限が設けられていません。

この新しい投資枠こそが、まさに私たちが目撃している「84兆円超の過去最高税収」という軍資金によって支えられるべき舞台です。行き当たりばったりの経済対策ではなく、国家の未来を左右する先端分野へ、当初予算から計画的に資金を投じることが可能になったのです。

政府が成長戦略として選定した、AI・半導体、量子、防衛産業、先端医療など「17の戦略分野」には、2040年度までに官民合わせて370兆円超という巨額の投資ロードマップが描かれています。これこそが、日本の供給力を根本から鍛え直す「新技術立国」への道です。

こうして俯瞰してみると、政府内で未だにくすぶっている「2027年1月からの防衛増税や超高所得者増税」といった歳入措置の予定がいかに時代遅れで、マクロ経済の現実に反しているかが浮き彫りになります。

増税などしなくとも、正しい投資によって名目経済が成長すれば、税収の自然増だけで防衛費も社会保障費も十分に賄える。その動かぬ証拠(ファクト)が、今まさに私たちの目の前にある「6年連続過去最高税収」という圧倒的な実績そのものなのです。


結び:責任ある積極財政の夜明けに、私たちは何を願うか

「国の借金が大変だから、みんなで痛みを分かち合おう」という言葉は、一見すると道徳的で、誠実なように聞こえます。しかし、その言葉を信じて爪に火をともすような緊縮を続けた結果、日本は四半世紀にわたって成長を止め、若者の未来を狭めてしまいました。

過去最高を更新した84兆円という税収は、過去の帳簿の赤字を埋めて安心するためのものではありません。それは、デフレという長い冬を耐え抜いた日本経済が、インフレという新しい春のステージで力強く躍進するための「軍資金」です。

今必要なのは、これ以上国民の財布からお金をむしり取ることではなく、減税によって民間の足腰を強くし、未来の成長産業への投資という種を果敢に蒔くことです。それこそが、真の意味での「責任ある積極財政」ではないでしょうか。

次にあなたがカフェに立ち寄り、少し高くなったカフェラテを一口すするとき。その支払ったお金の一部が、回り回ってこの国の見えない巨大なサイフを潤し、そしていつか、新しい日本の景色を創る投資となってあなたの元へ返ってくる。

そんな、当たり前の「成長の循環」を信じられる社会へ。私たちは今、長年見せられてきた財政危機という幻影のワニを追い払い、コペルニクス的転換の夜明けをまさに目撃しているのです。

いいなと思ったら応援しよう!

葦原 翔(あしはら かける) 読んでいただきありがとうございます!もしこの記事が面白い、役に立ったと感じたら、下の「チップを渡す」からサポートしていただけると嬉しいです。あなたの応援が、次の記事を書く大きな励みになります。

この記事は noteマネー にピックアップされました

noteマネーのバナー