[投資] なぜバフェットは、iPhoneとコーラの隣に「日本の商社」を並べたのか?
こんにちは、葦原翔です。
皆さんは「宝物」と聞いて何を思い浮かべるでしょうか。人によっては家族との思い出の品かもしれませんし、あるいは苦労して手に入れた高級時計かもしれません。
しかし、投資の世界で「宝物」と言えば、それは「持ち続けているだけで、勝手に価値が膨らんでいく魔法の打ち出の小槌」のような企業の株を指します。
今、世界で最も注目されている「宝探し」の達人たちが、日本の東京にある、いくつかのビルの中にその宝を見出したようです。
「投資の神様」ことウォーレン・バフェット氏。そして、その巨大な帝国バークシャー・ハサウェイのバトンを受け継いだ新CEO、グレッグ・アベル氏。彼らが今、世界に向けて発したメッセージが、日本の株式市場を、そして私たちの経済観を大きく揺さぶっています。
2025年末、衝撃的なニュースが駆け巡りました。バークシャーが、日本の三菱商事、三井物産、伊藤忠商事という3つの巨大商社の株を、それぞれ10%を超えて保有していることが明らかになったのです。さらに、丸紅や住友商事も10%目前まで買い増されています。
驚くべきは、その「量」だけではありません。アベル氏が初めて送った株主書簡の中で、これらの日本の商社を、あのApple(アップル)やコカ・コーラと並ぶ「最重要投資先」と明確に位置づけたことです。
iPhoneを作るITの巨人と、世界中で愛される赤いラベルの飲料メーカー。そこに、日本の「商社」が並ぶ。一見すると共通点がないように思えるこの3つの組み合わせ。しかし、この裏側には、私たちがこれからの時代を生き抜くための、極めて重要な「本質」が隠されています。
今日は、バフェットとアベルという二人の賢者が、日本の商社という組織に一体何を見たのか。その「深掘り」の旅に、皆さんをお連れしたいと思います。
第1章:Apple、コカ・コーラ、そして「商社」を繋ぐもの
まず、少し想像してみてください。AppleのiPhoneが、明日から急に「誰も使わないデバイス」になる姿を想像できるでしょうか? あるいは、世界中の街角からコカ・コーラの自動販売機が消え去る日を。
おそらく、多くの人が「それは難しいだろう」と答えるはずです。なぜなら、Appleには「iOS」という強力なエコシステムがあり、一度その便利さに浸ったユーザーは簡単には逃げられません。コカ・コーラには、100年かけて築き上げたブランドと、砂漠の真ん中まで届ける物流網があります。
投資用語では、これを「経済的な堀(Economic Moat)」と呼びます。敵が攻めてきても、その城(利益)を守り抜くための深い溝のことです。
バフェット氏が好むのは、常にこの「深い堀」を持つ企業でした。では、日本の商社が持つ「堀」とは何でしょうか?
多くの人は「商社なんて、ただの仲介役じゃないか」と思うかもしれません。しかし、それは数十年前の話です。今の商社は、自ら泥にまみれて事業を運営し、世界中の資源や食料の「蛇口」を握る、世界でも類を見ないハイブリッドな組織へと変貌をしています。
アベル氏が商社をAppleやコカ・コーラと並べた最大の理由は、「代替不可能なネットワークそのものが、テクノロジーやブランドと同じくらい強力な防壁になっている」と見抜いたからです。
Appleが「ユーザーの生活」という堀を持っているなら、日本の商社は「世界の産業の根幹」という堀を持っている。どちらも、他者が今日明日で真似しようと思っても、逆立ちしたって不可能な代物なのです。
第2章:なぜ今、アベル氏は「10%超え」を決断したのか
ここで、一つの疑問が浮かびます。バフェット氏が商社株を買い始めたのは2020年のことでした。当時は「5%程度」の保有から始まり、市場は「バフェットも日本株に興味があるのか」と半信半疑でした。
しかし、今回アベル新CEOが打ち出したのは「10%超え」という、さらに一歩踏み込んだ姿勢です。しかも、それを「永久保有(永久的な投資先)」とまで表現しました。
なぜ、このタイミングだったのでしょうか。
そこには、後継者としてのアベル氏の「決意表明」と、日本企業の劇的な変化が関係しています。
かつての日本企業は、稼いだお金を「内部留保」として溜め込み、株主には二の次、という姿勢が目立ちました。しかし、今の商社は違います。三菱商事や伊藤忠商事といったトップランナーたちは、「累進配当」という、投資家にとっては夢のような約束を掲げています。これは「利益が減っても配当は減らさない、利益が増えれば増配する」という方針です。
アベル氏は、商社という組織が「稼ぐ力(ビジネスモデルの強固さ)」だけでなく、「稼いだお金を適切に分かち合う仕組み(資本政策)」を完成させたことを見届けたのでしょう。
10%を超える保有というのは、単なる「お客さん」ではありません。企業の経営を支え、共に歩む「真のパートナー」としての宣戦布告です。アベル氏は、バフェット氏が始めたこの「日本への賭け」を、自分たちの世代でも揺るぎないものにすると決めたのです。
第3章:商社が持つ「見えない堀」の正体
さて、具体的に商社の何がそんなに「真似できない」のでしょうか。少し具体的に見ていきましょう。
例えば、皆さんが明日から「世界中で鉄鉱石を掘り、液化天然ガス(LNG)を日本に運び、さらにコンビニでおにぎりを売るビジネス」を始めようと思ったら、何が必要でしょうか。
莫大な資金? もちろんです。しかし、お金だけでは解決できないのが、商社の「堀」の正体です。
それは「時間と信頼」という、最も高価な資産です。
オーストラリアの大地に広がる鉄鉱石の山々や、カタールの砂漠にある巨大なガスプラント。これらの利権を手に入れるには、現地の政府や世界的な資源メジャーと、何十年にもわたる信頼関係が必要です。
「日本という国のため、そして世界のエネルギーのために、共に汗をかこう」という姿勢を積み重ねてきた歴史。これは、どれだけ高度なAIが登場しても、どれだけ巨大な資本が参入してきても、一朝一夕に奪えるものではありません。
さらに、商社の凄みは、その「バランス感覚」にあります。
かつて商社は、原油価格が下がれば業績がガタガタになる「景気敏感株」の代表でした。しかし、今の彼らは、資源で稼いだキャッシュを、非資源分野――例えば、私たちが毎日使うコンビニや、建材、食料、さらにはデータセンターといった分野――に巧みに再投資しています。
伊藤忠商事がファミリーマートを完全にグループ化し、消費者の好みの変化をダイレクトに捉えようとしている姿や、三菱商事が次世代の水素エネルギーインフラを構築しようとしている姿。
これらは、AppleがiPodからiPhoneへと進化し、さらにサービス業へと舵を切った歴史と重なって見えませんか?
「変わらないために、変わり続ける」。この強靭な生命力こそが、バフェットとアベルを引きつけた真の魅力なのです。
第4章:私たちの生活への波及効果——「日本株」の新しい季節
このニュースは、単に「商社の株価が上がって、バフェットが儲かった」というだけの話ではありません。もっと大きな、日本経済の「地殻変動」のサインだと私は考えています。
バークシャーが「日本の商社はApple級だ」と認めたことで、世界中の投資家の目が日本に向けられています。
「あの保守的なバフェットが、これほどまでに日本を信頼しているのなら、他にも隠れたお宝があるのではないか?」
そう考える投資家が増えれば、日本の他の優良企業――例えば、世界シェアを持つ部品メーカーや、独自のサービスを持つ老舗企業など――にも資金が流れ始めます。これを私は、日本市場全体の「再定義(リ・バリュエーション)」と呼んでいます。
実際に、商社が始めた「累進配当」や「積極的な自社株買い」という動きは、銀行や建設、リースといった他のセクターにも広がりつつあります。日本企業がようやく「世界標準の評価」を得るための土俵に上がったのです。
これは私たちにとっても無関係ではありません。企業が正当に評価され、健全に利益を上げ、それを還元する。そのサイクルが回れば、年金の運用益も増え、巡り巡って私たちの社会の安定に寄与します。
もちろん、手放しで喜んでばかりはいられません。海外資本が10%、あるいはそれ以上を握るということは、それだけ「厳しい目」にさらされるということでもあります。不甲斐ない経営をすれば、彼らは容赦なく「NO」を突きつけるでしょう。
しかし、その「健全な緊張感」こそが、日本の商社を、そして日本企業を、さらに高いステージへと押し上げるスパイスになるはずです。
結論:未来を拓く「堀」をどう見極めるか
さて、ここまでApple、コカ・コーラ、そして日本の商社という「賢者の選択」について考えてきました。
私たちがこの記事から学ぶべきことは、何でしょうか。
それは、「表面的なトレンドに流されず、その裏にある『奪われない価値』を見極めることの大切さ」です。
Appleの技術、コカ・コーラのブランド、そして日本の商社のネットワーク。
これらに共通しているのは、それらが「目に見える製品」である以上に、「人々の生活や社会の仕組みの中に深く組み込まれている」という点です。
バフェット氏とアベル氏は、日本の商社の中に、ただの「会社」ではなく、一つの「完成された社会システム」を見たのでしょう。
世界がどれほどデジタル化しても、私たちは食べ、エネルギーを使い、物を運び続けます。その「当たり前の生活」を支える根幹を握っている限り、商社の「堀」は埋まることがありません。
アベル氏が示した「永久保有」という覚悟。それは、私たち読者にとっても、自分自身の人生やキャリアにおいて「何を自分の『堀』として築いていくべきか」という問いを投げかけているような気がします。
皆さんの「堀」は何でしょうか? 誰にも真似できない経験でしょうか。積み重ねてきた信頼でしょうか。それとも、変化を恐れない柔軟な精神でしょうか。
時代の波に洗われても、決して価値が減らないもの。それを持ち続けることの強さを、今、海を越えてやってきた賢者たちが教えてくれています。
日本の商社が、世界で輝きを放つ「Apple級」の存在として歩み始めたこの瞬間。私たちは、自分の国の企業が持つ底力を、もう一度信じてみても良いのかもしれません。
それでは、今日はこのあたりで。
また次の考察でお会いしましょう。
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