【第3回】SNSアカウント売買の危険性に迫る国際論文“Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts” を読み解く
SNSアカウントが売られた“その後”──研究者たちが明かした驚きの背景
今回ご紹介するのは、SNSアカウントが「売られたあと、どう使われるのか?」を詳しく調べた国際研究の「背景と関連研究」の部分です。この章では、「なぜこの研究が必要なのか」「これまで何がわかっていて、何がわかっていなかったのか」が書かれています。
※本記事は、国際研究論文 “Exploration of the Dynamics of Buy and Sale of Social Media Accounts”(p.2〜3)「第2章 背景および関連研究(BACKGROUND AND RELATED WORK)」に基づき、わかりやすい内容に構成しています。
SNSは便利。でも“悪用”も広がっている
まず、論文の冒頭ではこう述べられています:
SNSは、コミュニケーション、エンタメ、ビジネスの世界を大きく変えた。
でも、それと同時にSNSは「悪用されやすい場所」になってしまってもいるのです。悪い人たちは、この“人がたくさん集まる場所”を利用して、以下のような行為をしています:
アカウントの売買(本物・偽物問わず)
スパム(迷惑投稿)の拡散
詐欺やフィッシング(偽サイトに誘導して情報を盗む)
フォロワーを偽って信頼を得る
こうした行為は、普通にSNSを使っている人たちをだますだけでなく、「SNSって信用できない…」という不信感を広めてしまうのです。
売られたアカウントは“悪用の温床”に
SNSアカウントの中には「すでに他人に売られたもの」が存在します。こうしたアカウントは、次のような目的で使われます:
悪意のある投稿を“拡散するための道具”
「いいね」やコメントを大量につけて“人気があるように見せる”
偽情報を流す“発信源”になる
この研究では、「売られたアカウントが、その後どのように使われるか?」に焦点を当てています。つまり、アカウントの“売買”から“悪用”までの“ライフサイクル(流れ)”を調べたのです。
※日本でも実際、私がサイバー防犯ボランティアとして日々通報しているSNSアカウントの中には、「過去に売買された痕跡」を持つものが多くあります。たとえば、外国語で長く投稿していたアカウントが、ある日突然、日本語の“闇バイト募集”に切り替わる──そんな事例を数多く確認しています。
※現場での肌感覚として、アカウントの“異変”に気づくのは簡単ではありません。数か月にわたって保守的な投稿を続けた後、突如として違法な内容が投稿される。これを人目につきにくくするため、悪用までの“準備期間”が長期化していると考えられます。
これまでの研究との違い
ここで、著者たちは「過去にも似た研究はあった」と紹介しています。たとえば:
Stringhiniら(2012年):Twitterでフォロワーを増やす不正なサービスのビジネスモデルを調査
DeKovenら(2018年):人の目を引くように“操作されたトラフィック(アクセス)”の仕組みを解明
Thomasら(2013年):闇市場がどのように詐欺やスパムと関わっているかを研究
これらの研究は、それぞれ重要な発見をしてきましたが、今回の論文は“そこからさらに一歩進んで”います。
今回の研究は「売られたアカウントが、その後どう悪用されるか」を追跡しています。
つまり、「アカウントが売られた事実」を起点に、「その後どうなったか?」を実際にデータで追ったのです。
偽物アカウントをどう見抜くか
また、この章では「SNS上の偽アカウントの検出」についての過去の研究もまとめられています。方法は多岐にわたります:
1.プロフィール情報から判断する方法
年齢・性別・使用言語などが不自然な場合に検出
2.行動パターンから検出する方法
急に大量の投稿をしたり、同じリンクを繰り返し貼ったりするアカウントを検出
3.アカウント同士のつながりを見る方法
同じパターンの動きをするアカウント群を検出
4.異常検知アルゴリズムを使った方法(人では気づきにくいパターンも、機械的に捉えることができる)
これらは、SNSの運営会社や研究者が長年取り組んできた技術ですが、著者たちはこう述べています:
これまでの研究は“今どう使われているか”に注目してきたが、私たちは“そのアカウントがどう始まり、どう悪用されたか”までを分析した。
つまり、「過去と現在をつなぐ」ことが、今回の研究の独自性なのです。
スパム・詐欺・フィッシング──被害はすでに拡大している
※実際に私が確認・通報したケースでは、売買されとみられるアカウントが、特殊詐欺の“受け子募集”、薬物の“手押し販売”に使われていたことがあります。こうした事例は、SNSがすでに犯罪の現場であることを示しています。
SNSを使った犯罪には、さまざまな種類があります。
「変なリンクを送ってくる」→ スパムやフィッシング
「当選しました!こちらから手続きを」→ 詐欺や誘導広告
「友達になってください」→ 偽のアカウントによる接近
これらの手口は、売られたアカウントや、最初から悪用目的で作られたアカウントによって行われていることが、研究でも明らかになっています。
たとえば、2010年の研究では、たった2か月間で200万以上のスパムURLがSNS上に投稿され、それらの大半が「盗まれたか、買われたアカウント」から発信されていたことが判明しました。
Facebookでも似たようなことが起きており、「乗っ取られたアカウント」が詐欺サイトへと誘導するURLを大量に送っていたのです。
この研究の意義とは?
この章の最後に、著者たちはこう強調しています:
私たちの研究は、これまでの研究を補完するものであり、売買されたアカウントがどのような詐欺やスパムに使われているかを明らかにした。
つまり、これまで「見えていなかった部分」に光を当てたのです。
まとめ
SNSは便利な反面、悪用されやすい場所でもある
アカウントの売買は、詐欺やスパムの“入り口”になっている
これまでの研究では「悪用の瞬間」は見えても、「どこから来たか」はわかっていなかった
今回の研究は、その“出発点”から“悪用までの流れ”を追跡して明らかにした
この研究を知ることで、「見た目が普通のアカウント」でも、それが犯罪の道具になることがあると知ってもらえたらと思います。
私自身の経験からも、アカウント売買は「現場で進行中の問題」です。法律での規制がなければ、プラットフォームだけでは防ぎきれません。研究と現場の知見が重なり合う今こそ、対策の強化が求められていると感じます。
※この問題の解決には、社会全体での理解と法整備が必要です。
私たちのオンライン署名活動にも、ぜひご協力ください:
https://www.change.org/safe-sns-japan
次回は、論文第3章 研究手法(Methodology)──実際にどうやってこれらのデータを集めて分析したのかを、わかりやすく解説します。
