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第5話 弱すぎる

根拠のない自信は、初めてのスパーリングで全部なくなった

組技や寝技でやられるのは、仕方がないと思っていた。

始めたばかりだったし、何をやっているのかもよく分かっていなかった。

でも、打撃だけは少し違った。

なぜか自信があった。

もちろん、試合をしたこともない。

スパーリングをしたことすらない。

それなのに、自信だけはあった。

今思えば、どこから出てきた自信だったのか分からない(笑)

サンドバッグを打てば、日ごとにパンチが強くなっている気がした。

ミット打ちも楽しかった。

アパートに帰ってからも、窓に向かってジャブとストレートを打っていた。

自分では、かなり強くなっているつもりだった。

そんな少し調子に乗り始めていた頃、風田さんから声をかけられた。

「打撃のスパーリング、付き合ってくれ」

相手は、自分よりも身長が低かった。

体重も軽い。

しかも年下だった。

初めての打撃スパーリングだったけど、不安より自信の方が大きかった。

正直に言えば、

「まあ、いけるだろう」

と思っていた。

何の根拠もないのに(笑)

そして、リングに上がった。

結果は、ぼっこぼこ。

本当に、何もできなかった。

まず、相手のパンチが見えない。

パンチが飛んできたと思った時には、もう当たっている。

相手が軽く打ったパンチにも、いちいち大げさに反応していた。

少し当たっただけなのに、顔も体も全力でよけようとする。

たぶん、相手から見たらかなりやりやすかったと思う。

フェイントをかける必要すらなかったかもしれない(笑)

パンチは見えない。

こちらのパンチは当たらない。

何をしたらいいのか分からない。

気づけば、何もできないままスパーリングが終わっていた。

相手は、自分より小さくて軽くて年下。

それなのに、一方的にやられた。

笑ってしまうくらい弱かった。

悔しいというより、最初は自分に腹が立った。

相手に負けたことよりも、

大したこともできないのに、自分は強いと思っていたことが恥ずかしかった。

サンドバッグは、殴り返してこない。

ミットも、こちらの顔を殴ってこない。

窓に映る自分も、当然やり返してこない。

それなのに僕は、少しパンチが強くなっただけで、自分は打撃が得意だと思っていた。

あの時、初めて分かった。

パンチが強いことと、戦えることは全く違う。

練習していることと、強いことも違う。

そして何より、

自分が思っている自分と、実際の自分は全然違った。

根拠のない自信は、その日のスパーリングで全部なくなった。

でも、不思議と「向いていないからやめよう」とは思わなかった。

むしろ、前よりやる気が出た。

絶対に強くなって、いつかやり返してやる。

そう思ったことは、今でも覚えている。

今では想像がつかないかもしれないけれど、昔の僕はかなり負けず嫌いだった。

いや、今も少しは残っているかもしれない(笑)

あの日、自分の弱さを嫌というほど知った。

恥ずかしかった。

悔しかった。

でも、自分が弱いと分かったから、強くなるために何をすればいいのかを考え始めた。

もし、あの時に中途半端にうまくできていたら、もっと長い間、勘違いしたままだったかもしれない。

そう考えると、あれだけぼこぼこにされたのも悪くなかった。

できれば、もう少し優しく教えてほしかったけど(笑)

自信をつけるためには、成功が必要だと思っていた。

でも実際は、自分の弱さを知ることから始まる自信もある。

あの日、根拠のない自信はなくなった。

その代わりに、

本当に強くなりたいという気持ちが生まれた。

つづく

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