一茶両吟 拾伍ノ巻 (15)
【表六句】
秋 灯ちらちら どの顔つきも 夜寒かな
秋の月 窓に酒づき 春夏よはせよ
秋 海見えて ひと汗入れる 木陰かな
雑 ざんしょざんしょと 盆墓おくり
夏 河狩りの うしろ明かりの 木立かな
夏 びくに友なし おちた夏の日
【裏十二句】
雑 俳諧の 地獄はそこか 閑古鳥
恋 女河童ささふ 皿のそこまで
雑 万歳の まかり出でたよ 親子連れ
雑 めでたくもなき 朝はやくより
雑 春立つや 見古したれど 筑波山
雑 人妻とひて 益荒男のぼる
春の月 田の人の 笠に糞して かえる雁
春 鍋煮て待つらし 秋の月見は
雑 春雨や はや灯のとぼる 亦打山
雑 羨ましかり 峠の赤い
花 春雨や 火もおもしろき なべの尻
春 はまぐり蒸して 桃よ甘酒よ
【名残表 十二句】
春 艸山の くりくりはれし 春の雨
雑 いがいが刺さる 無駄花うとし
雑 懐へ 入らんとしたる 小蝶かな
雑 見ぬ親恋ふや 踊りひさぎて
夏 春のてふ 山田へ水の 行きとどく
夏 白妙に舞へ 夏の香具山
雑 はうろくを かぶつて行くや 春の雨
恋 かけおち流る 海は来世に
恋 通り抜け ゆるす寺かな 春のてふ
雑 にほふや前世 尼井に休み
秋の月 うそうそと 雨降る中を 春のてふ
秋 枯野まよいる 幻の月
【名残裏 六句】
秋 川べりや 蝶を寝さする 鍋の尻
雑 泣き疲る背の 夕焼けとおち
雑 あたふたに 蝶の出る日や 金の番
雑 あぶくの羽は 軽きものかな
花 初蝶の いきほひ猛に 見ゆるかな
春 我も初めたき 花散る前に
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
