一茶両吟 交弐ノ巻 (62)
【表六句】
夏 蚊柱の 穴から見ゆる 都かな
夏 蛙すがたを 誰知るものぞ
夏 かはほりや さらば汝と 両国へ
雑 われも追ふなり 夢のかけ橋
秋の月 わか竹や 山はかくれて 入間川
秋 のぞく雲から 仲秋はずかし
【裏十二句】
夏 蝿一ツ 打っては南無阿弥 陀仏かな
恋 たかる恋にも 銭ほしけれど
雑 泣虫と 云われてもなく 袷かな
雑 父母の里に 涙わすぬる
夏 五月雨に ざくざく歩く 烏かな
雑 誰が嫁入りと つづく寿ひの
冬の月 汁椀に ぱつと夕顔 明かりかな
冬 うかべた妹の 月かへるまで
雑 夕顔に 尻を揃へて 寝たりけり
雑 小さき夏の こよ終わらなむ
花 藪むらや 貧乏馴れて 夕すずみ
春 朧とまごふ 姿果てれど
【名残表 十二句】
春 馬の草 喰らう音して とぶ蛍
雑 若草山は 霜しきるころ
雑 白妙に 帷子暮れる 木の間かな
雑 森に帰らん 母なし子熊
夏 虫干しと 吹かれて鳴くや きりぎりす
恋 夜風にさそふ きみ流れ星
雑 夕涼や 水投げつける 馬の尻
恋 藁の向こうは 天の川かな
恋 本町を ぶらりぶらりと 蛍かな
雑 よいにゆらくる 袖の重さの
秋の月 竹垣の 大夕立や 素湯の味
秋 猿に取られぬ から皿の月
【名残裏 六句】
夏 蝉鳴くや 物喰う馬の 頬ぺたに
雑 煩わしきは 人の声まし
夏 一番に 乙鳥のくぐる 茅の輪かな
夏 門に祓へや 越す夏は来ぬ
雑 片あたま 剃って乳をのむ 夕涼み
春 明日の春には 元服帽子
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
