一茶両吟 丗陸ノ巻 (36)
【表六句】
秋 あつき夜や 江戸の小隅の へらず口
秋の月 あけた障子に 飛び込む月見
秋 朝涼に 菊も一艘 通りけり
雑 彼岸にはこぶ ふえた手の皺
夏 稲の香や カサイ平の ばか一里
夏 かかしあきづが 送り手をふる
【裏十二句】
雑 遠水雛 小菅の御門 しまりけり
恋 たずねた頸も もう古きひと
恋 夏山や 一人きげんの 女郎花
雑 乙にきかすは 咲いた恋ばな
雑 巾着の 殻が流るる 夕涼み
雑 不幸を笑う ひとの浮世ぞ
夏の月 涼しさや 山から見える 大座敷
夏 桂月ことほぐ 大関襲名
雑 トンバウが 焼けどの薬 ほしげなり
雑 赤ひげ儲かる 秋の火事場の
花 夕汐や 塵にすがりて きりぎりす
春 来る春の子の 夢を鳴きつつ
【名残表 十二句】
雑 こおろぎの 鳴くやころころ 若い同士
恋 若草の陰は 秋にはやしも
秋 艸花や いふもかたるも 秋の風
雑 野ざらし返す 来世の下句
秋 赤紐の 草履も見ゆる 秋の夕
雑 虫の知らせが わたる浮橋
雑 どちらから 寒くなるぞよ かがし殿
恋 よって温まれ わらのふところ
恋 菴の夜や 棚捜しする きりぎりす
雑 大判小判 夢こそしまふれ
秋の月 露の世の 露の中にて けんくわかな
秋 白い月やも ゆれる萩の夜
【名残裏 六句】
秋 秋風や あれも昔の 美少年
雑 われも昔と 岩のかげから
秋 秋風の 吹きゆく多田の 薬師かな
雑 枯れ木につける 金丹はなし
花 白露に まぎれ込んだる 我家かな
春 はな吹雪まふ やよひに別れて
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
