一茶両吟 せ捌ノ巻 (78)
【表六句】
秋 この上に 貧乏まねくな 花芒
秋の月 月見とならふ 石芋だんご
秋 信濃路や そばの白さも ぞっとする
雑 極楽浄土に のぼる夢かも
秋 べったりと 人のなる木や 宮角力
雑 鳶も見おろす 西か東か
【裏十二句】
雑 お祭りの 赤い出立ちの 蜻蛉かな
恋 鈴を鳴らして 追ふ帯の羽
恋 桶伏せの 猫を見舞ふや とぶ小蝶
雑 戯れすぎたる 夜はいつまで
雑 ごろり寝の 枕にしたる まくわかな
雑 転がしてみよ 我のやる気を
冬の月 我が庵や 元日も来る 雑煮売り
冬 銭がなければ 餅つきもなく
雑 いろりから 茶の子掘り出す 夜寒かな
雑 骨の髄まで 鬼に喰はれば
花 たばこ盆 足で尋ねる 夜寒かな
春 つまさきに咲く霜 春は来ず
【名残表 十二句】
春 咄する 一方は寝て 夜寒かな
雑 くるまる蓑に まうすぐの腹
雑 掌に 藍しみこんで 夜寒かな
雑 貧しき色も あればうれしき
冬 木枯らしや 物さしさした 小商人
雑 わが命までは はかられまいぞ
雑 枯れ芒 むかし婆婆鬼 あったとさ
恋 弁天に見たは いつの夜からか
雑 小便の 百度参りや さよ千鳥
雑 ささっと夢の 波間にもらす
秋の月 焼き筆で 飯を食ひつつ 冬ごもり
秋 うす茶にうかぶ 晩秋名月
【名残裏 六句】
春 梅咲くや 現金酒の 通い帳
雑 たまりにたまった 鶯の声
雑 おとろへや 花を折るにも 口曲がる
雑 さうはさせじと 花もふむばれ
春 うら壁や しがみ付きたる 貧乏雪
春 春立ちぬけど とけぬ怨みや
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
