一茶両吟 丗肆ノ巻 (34)
【表六句】
春 よるとしや 桜のさくも 小うるさき
春 ちる影に知る 次のかほがほ
春 春の日の つるつるすべる 樒かな
雑 誰に摘まれん 明日の仏壇
春 むさい家と のたまふやうな 雛かな
雑 ならぶる段に 孫は参ひらも
【裏十二句】
秋 かう活きて 居るも不思議ぞ 花の陰
恋 呼ぶ虫の音に 夢すぐるまま
恋 いざさらば さらばと雁の きげんかな
雑 一夜あければ 他所の山にて
雑 とくかすめ とくとくかすめ 放ち鳥
雑 古山にすてつ やどりきなしも
春の月 散る桜 肌着の汗を 吹かせけり
春 抱き寄す春の 満月と燃ゆ
雑 汚れ坊 花の表に 立てりけり
雑 経を残さば わきと霞めり
花 花の散る 拍子に急ぐ 小鮎かな
春 還る小川の 家遠けれど
【名残表 十二句】
春 花ちるや 権現様の おひざ元
雑 夢はひとよの 噂ぞありき
雑 死に支度 致せ致せと 桜かな
雑 命たらすか 未練だらだら
冬の月 蛤の 芥を吐かする 月よかな
冬 地獄の鍋は 極楽の味
雑 ミミヅクの 面はらしたる 落花かな
恋 薫る椿は 一夜とおぼゆれ
恋 よろよろは 我もまけぬぞ 女郎花
雑 踏ん張らずとも 風は吹く故
秋の月 散りがての 花よりもろき 泪かな
秋 石となりてむ 月見し君の
【名残裏 六句】
春 空豆の 花に追はれて 更衣へ
雑 鞘ぬぐまでの から気分かな
雑 艸そよそよ 簾のそより そよりかな
雑 風の誰やと 訊ずぬも人なし
夏 夏の夜や いく原越ゆる 水戸肴
春 まぼろ売り行く 山姫の春
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
