一茶両吟 卌陸ノ巻 (46)
【表六句】
夏 夕立や けろりと立ちし 女郎花
夏 虹を渡りて かげを残さじ
春 庵の苔 花咲くすべも 知らぬなり
雑 すぐ千年の 恋おきわすれりて
秋の月 昼顔や ざぶざぶ汐に 馴れて咲く
秋 屋形にかくす 月の舟歌
【裏十二句】
秋 麦秋や うらの苫屋は 魚の秋
恋 網に捕らふは かかかかもめか
恋 夕立が 始まる海の はづれかな
雑 隠るる岩戸の 燃えて踊らん
雑 笹の葉に 飴を並べる 茂りかな
雑 微笑み地蔵の 御歳忘る
夏 山入りの とも仕れ ほととぎす
夏の月 月影まどふ 山姥の夜
雑 鹿の仔の あとから奈良の 烏かな
雑 坊主頭を 三笠にかくして
花 時鳥 つつじまぶれの 野よ山よ
春 さつきのことも 古郷はなく
【名残表 十二句】
夏 短夜や 艸場の陰の 七ヶ村
雑 鬼鍋底まで 肉は肉なり
雑 よしきりや 空の小隅の つくば山
雑 泣きつく背子の 子守いつまで
夏 古郷や 厠の尻も わく清水
夏 さらさらと行く わが心かな
雑 水鶏なく 拍子に雲が 急ぐぞよ
恋 かごまつ雛の 真夫ぞ恋しき
恋 木母寺の 鉦の真似して なく水鶏
雑 呼び込む堂に のぞく夢かな
秋の月 なでしこや 片陰できし 夕薬師
秋 小石に拝む 望月の母
【名残裏 六句】
秋 がさがさと 粽をかじる 美人かな
雑 腹がへっては きりぎりすなん
雑 粽とく 二階も見ゆる 角田川
雑 波ゆるるらし 吾が舟ごとに
花 青空の やうな帷子 きたりけり
春 われ忘れなと 吹く風は春
【引用】『新訂 一茶俳句集』丸山一彦校注 (岩波文庫)
